中編7
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封呪貨

少し前の話です。

久しぶりに、友達Aと地元のスナックで飲んでました。

深夜一時をまわり、そろそろ帰ろうかと、Aに言うと、なんと財布を忘れてきたと言います。

私も、手持ち一万ちょっとしかなく、足りるかなと勘定してもらうと、やはり数百円足りませんでした。

店の人に言って、明日持ってこよう、そう私が言うと、Aは、

「ちょっと待ってろ」

そう言って店から出ていきました。

十分か二十分くらいして、Aが戻ってきました。その手には、小銭がじゃらじゃらと音をたてていました。

「裏にさ、神社みたいのがあってさ、へへ」

Aはそう言って、小銭を数えてました。

私は、「罰があたるぞ」と言いつつも、勘定が足りると言う安堵感からか笑ってました。

ふと、小銭を数えてたAの手が止まりました。

「なんだこれ」

Aがつまみ上げたのは赤茶色の硬貨だった。錆びているのではなく、新しいのに、赤茶色をしていました。

硬貨には、

1971

封呪貨

反対側には、漢字がびっしりと書かれていました。

私は、一目でそれがヤバいものであることが分かりましたが、Aは

「こいつは、もしかしたら、すごい骨董品じゃないの?」

なんて言い出し、私が止めるのを無視して、その硬貨を持ち帰ってしまいました。

今思えば、この時もっと強く止めてあげればと、後悔仕切れません。

次の日、Aから電話がかかってきました。

「昨日のあの赤い硬貨、あれヤバいかも知れない。」

Aはそう言って話出しました。

話によると、昨日の夜、深夜2時過ぎ家に着いてすぐに、ドアをノックされ、覗き穴から見て見ると、大きな帽子をかぶった女の人がいたそうです。

ドア越しに、

「何か御用ですか?」

そう尋ねると、

「封呪貨(ふうじゅか)を返してください。」

そう言ったそうです。

最初は、ふうじゅかと言われて、なんのことか分からなかったそうですが、あの盗んだ硬貨かなと気が付くと、すごく怖くなって、

「今返します」

と、チェーンをかけたまま、ドアを少し開けると、真っ白な手がスッと入ってきたそうで、その手に硬貨を渡した瞬間、

手が、まるで紙が焦げるように消えたそうです。

その時の、女の叫び声が、間違えなく、この世のものではなかった。

Aは、電話でそう話ました。

Aの声を聞いたのは、これが最後でした。

友達Aが、死んだと聞かされたのは、その日の夜でした。

夕方まで、電話で話をしてたのにと、私は呆然となりました。

私は、警察に行き、詳しく事情を教えてもらいました。

死因は、焼死

火事で逃げ遅れた為に死亡

調書には、そう書かれていました。

現場に駆けつけた警察の人は、

「出火元は、Aさんの家からでしょう、燃え方が違います。ただ…

Aさんの、燃え方は普通じゃなかったです。」

警察は、一応、事故と事件の両方から捜査します。みたいなことを言ってましたが、私は、原因が何か、検討がついてました。

赤い硬貨だ!

封呪貨とか言う…

私は、その足で、昨日の神社に向かいました。

途中に、Aの住んでたアパートもあるので、花を供える為、よって行きました。

Aの部屋は、真っ黒に煤けていました。ドアも、真っ黒で、トアノブに触るのも、躊躇われましたが、花を供える為、私はドアを開けました。

それがそこにいた

まるで私を、待っていたみたいに。

Aが、電話で話てた女が、玄関に立っていました。

女は、大きな帽子をかぶっていて、顔は全く見えない状態で、白いドレスのような、スーツのような、そんな服を着ていました。

「封呪貨を、返してください。」

女は、はっきりとそう言いました。

パニック状態の私は、

「知らない知らない私じゃない私じゃない」

叫びながら、とにかく昨日の神社に行かなければと、走りました。

振り向く余裕もないまま走り、なんとか昨日の神社に着いたのですが、神社は暗く、人の気配は全くありません。

「ああ…終わった…」

私は、呟きました。

今振り向けば、あの女がいるのだろう。

そして私も、焼かれてしまうのだろう。

全てを後悔して、私は目をつぶりました。

その時、後ろから足音がしました。

きた…

そう思った時、優しい男の声がしました。

「何をなされているのですか?」

私は、男にしがみつき泣くことしかできませんでした。

男は、この神社をまもる、守人とのことでした。

私は、事の経緯を全て話ました。

男は、私の話を、頷きながら聞いていましたが、私がその女に会ったこと、パニックになって逃げたことを話すと、急に身を乗り出し聞き返してきました。

「女はあなたを追って来なかったのですね。」

そして、

「まだ、間に合うな!」と

私が、全ての話を終えると、守人の男は、

「分かりました。こうなった以上、あなたは全てを知らなければなりません。」

そして、静かに話出しました。

「まず最初に、あなた方が持ち出した、封呪貨ですが、あれには、魂とか霊、又は呪いが封印されているのではありません。

封呪貨に、封印されているのは、業欲です。」

37年前、この街に、一人の女がいた。

女は、金の為なら何でもするような、守銭奴のような人だった。

女は、自分の美しさと若さで、街の男達を食い物にし、体を使って得た金を、また男達に貸し付け、男達は、その金で再びこの女を抱くという、悪循環を繰り返していた。

当然、男達の借金は膨れ上がり、どうしようもなくなってしまった。

そして、一人の男が言った…

「女を殺そう…」

集まったのは、みんなで、13人いた。

男達は、女を呼び出し、そして犯し、殺した。

女は最後に、こう言ったという。

「地獄の業火で、焼き尽くす。全ての欲を焼き尽くす。」

それからこの街は、火事が耐えない街になった。

女を殺した男達は、次々と火事で死んだ。

中には自首した者もいたが、刑務所の中で焼かれた。

13人の男達が、全ていなくなっても、街の火事は続いた。

そこで呼ばれたのが、僕の父でした。

父は有名な鎮霊師で、女を必死で鎮めようとした。

その時の戦いは、壮絶だったと聞いている。

そして、父は両目を失う代わりに、女の欲を、

両腕を失う代わりに、女の魂を、封印した。

女の欲が、封呪貨

女の魂が、この祠です。

守人の男は、ここまで話すと深く息をついた。

「何故父が、見ず知らずの街の人々の為、体を犠牲にして守った訳は…

まあ、それは今はいいでしょう。

あなたの友達Aは、女に封呪貨を触れさせてしまいました。

そして、賽銭泥棒という罪に焼かれてしまったのでしょう。

しかし、あなたは、女に追われていないという。

女の手に、封呪貨が渡っていない証拠でしょう。」

男の話を聞いて、私はただ呆然とするしかありませんでした。

男は言いました。

「とにかく、封呪貨を探しましょう。

今なら、僕の力で、なんとかなるかもしれない。」

私と男は、Aのアパートに向かった。

Aのアパートは、ひっそりと静まり返り、人の気配はしませんでした。

私と守人の男は、Aの部屋の前まできました。

だけど私は、どうしてもドアを開けることができませんでした。

あの時の、女の残像が、頭から消えません。

男が、「行きましょう」と、黒く焦げたドアを開けました。

そこに女は…

いませんでした。

ホッと胸をなでおろし私と男は、封呪貨を探すことにしたのですが、一体どこを探したらいいものか、検討も付きません。

男は言いました。

「どこを探したらいいか分かりませんね。

Aさんは、何か手がかりになるようなことを言ってませんでしたか?」

私は考えました。

玄関のチェーンを掛けたまま、女の手に封呪貨を置いた、とすると玄関にまだあるかも…

私は、玄関に戻り探して見ることにしました。

玄関に行くと、

そこに、女がいました。

私は、悲鳴とも叫びともわからない声を張り上げ、男に助けを求めました。

男はすぐ、駆けつけ、女を見るなり、大きな声で話はじめた、

「ヨウシチは、もう死んだ!

8年前だ…

両目がなく、両腕がない状態で、毎日欠かさず、念を唱えた。

もう、終わったんだ、あなたは、何も欲せず、静かに眠ってください。」

女は、身動き一つせず立っていました。

そして、一言、あの言葉を口にしたのです。

「封呪貨を、返してください。」

すると男は、今度は叫び声に変わり、

「もう、必要ないんだ!

ヨウシチは…

父は死んだ!

姉さんは、もう眠っていいんだ。」

姉さん?

私は耳を疑いました。そして、この守人とその父、女の関係が、

おおまかに理解できました。

女は、相変わらず身動き一つせず立ってます。

その時、私は見つけてしまいました。

玄関の枠の、木の小物置き場?

その上にあったのです…

封呪貨が。

丁度、女が立っている真上に、それはありました。

私は、男に近づき、その場所を教えました。男は、表情を変え、

「姉さん、動けないんだね…。」

そう言うと、女の方へ近づいて行きました。そして、封呪貨を掴むと、それを両手に挟んで、お経のようなものを唱えはじめました。

女は、やはり身動き一つしませんでした。

しかし、お経を唱えはじめて、しばらくすると、少しずつ薄くなりスー と消えました。

皆さんは、この話を、多分…

いや、間違いなく信じないでしょう。

信じる方が可笑しいです。

しかし、これは現実に体験したことなのです。

女が消えた後、私と守人の男は、封呪貨を、元の場所に戻しました。

その時、触れた封呪貨は、ものすごく熱かったのを覚えています。

それ以来、私の身に変わったことはおきていません。

女に会うこともありませんでした。

最後に、読みにくい文章を、読んでくださった方々に感謝いたします。

怖い話投稿:ホラーテラー サンさん  

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