中編6
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隣の窓

親父がある町に新しく家を買い、

一家三人で引っ越してきた時の話。

かなり長いが暇なら読んでくれ。

中古の家だがそれにしても値打ちが安いので

幽霊がでるのではないかと母とよく話した。

しかし、二階は一部屋しかない小さな家なので相応の値段なのかもしれなかった。

その日は、引っ越してきたばかりなので近所に挨拶をしに行くことになっていた。

母「ヒロシ、はやく、あんたも近所の方に挨拶するのよ。」

俺「めんどくさいな。」

俺が言い終わらない内に、母はもう外に出ていた。

母「ここはいい所ねー。緑は多いし」

俺「うん・・・。」

俺は何か異様な雰囲気の隣の家が気になって仕方なかった。

母「まずはお隣さんからね」

俺「母さん、この隣の家変わってるよな。」

母「何が?」

俺「窓が一つしかないんだよ。さっき向こう側も見てきたけど二階にあるあの窓だけだった。」

母「あんた他人の家を詮索するのはやめなさいよ。怒られるわよ」

その隣の家の玄関に着くと母はブザーを鳴らした。

玄関の名札には「沼田」と書いてあった。

ピンポーン

4回鳴らしたが、返事どころか物音さえしない。

母「留守のようね、じゃあ先に手前の家に挨拶しに行きましょうか。」

ピンポーン

ブザーを鳴らすと、優しそうなおばさんがでてきた。

おばさん「はーい。あら、どなた?」

母「どうもはじめまして。

私共、隣に越してまいりました坂口と申します。

これからもよろしくお願いいたします。あの、これつまらないものですが」

おばさん「まあそれはそれはご丁寧に」

母「ところで奥様、あちらの沼田さんは昼間はお勤めか何かで?」

おばさん「さあ・・・あの家はいつもカギがかかってるんですよ。」

おばさん「でも、夜になると二階の家の窓に人影が映るから中にいるんでしょうけど

めったに外には・・。」

おばさん「私はここへ来て十年になるけど、一度も顔を見たことないんですよ」

おばさん「・・・でも近所の噂では住んでるのは中年の女の人で、なんだか変わった人らしいですよ。他人と顔を合わせたがらないみたい。」

母「そうなんですか。先ほどご挨拶に伺ったのですが、留守だったもので。

では、失礼します」

ーその日の夜ー

父「ふーん、それでその住人とはまだ顔を合わせてないのか。」

母「だって、いくらブザーを鳴らしても出てらっしゃらないんだもの。

それに気味悪いから」

俺「ごちそうさま」

母「え、もういいの?」

俺「うん、早いとこ部屋を整理しなきゃ。」

二階にあがると、まずは窓からの見晴らしを確認して見ることにした。

曇りガラスだったため、わざわざ窓を開けて確認するしかなかった。

俺「え・・・」

俺は窓を開けた瞬間、少し寒気がしたのを感じた。

例の窓が一つしかない隣の家の窓が、ちょうど俺の部屋の窓の真正面にあったのだ。

その家の中は暗くて何も見えなかった。

(・・・なんか気持ち悪いな・・・まあこっちは曇りガラスだからいいか)

タンスを部屋の隅にたてて、部屋を掃除機で一通り掃除し、

その日は寝ることにした。

深夜1時ごろ、何かの声で目が覚めた。

「ぼっちゃん・・・ぼっちゃん・・・」

俺「ん?」

「ぼっちゃん・・・こんばんわ・・・」

「眠ってるんですか?・・・・ごきげんいかがですか・・・?」

隣の家の窓から声がする。

(ぼっちゃんって、俺のことか?)

「・・・ぼっちゃん・・ぼっちゃん・・・」

(何だ?)

俺はなぜかためらいもなく窓を開けた。

隣の窓が半分開かれていて、

そこからおかっぱ頭の白いブラウスの女が覗いていた。

月明かりに照らされたその顔は、皮膚のところどころに大きなイボのような出来物ができていて、

やけどをしたように肌がただれていた。

肌の色は腐乱しているように紫色で、

この世の人間の顔とは思えなかった。

俺を見ると真っ赤な唇でニタリと笑った。

唾液が口の中で糸をひいているのが分かった。

「・・・ぼっちゃん・・ぼっちゃん・・・こんばんわ・・」

「・・・ぼっちゃん・・・新しいお家は住みやすいですか・・?・・」

「・・・ぼっちゃん・・・一度遊びにいらしてね・・・玄関のカギを開けて待ってますね・・・」

俺は窓を思い切り閉めた。

(何だ・・・あれは・・)

「・・ぼっちゃん・・・

ぼっちゃん・・」

その声をなんとか無視して、その日は強引に眠った。

夢にしては生々しかったが、翌日になってみると現実とは思えなかった。

現実にしてはあまりにも不気味だった。

その日、隣の玄関が開いていたかどうか・・・

そんな事は知りたくもなかった。

しかし、次の夜もあの女は来た。

時間は、決まって深夜1時。

「・・ぼっちゃん・・・

ぼっちゃん・・・」

「・・ごきげんいかがですか?・・・」

「ぼっちゃん・・・眠ってるんですか?・・・」

「・・顔を見せてくださいな・・・」

俺は無視しつづけた。

「昼間はいらっしゃいませんでしたね?・・・お菓子を用意して待ってましたのに・・・」

「・・・それでは私の方から伺っていいですか?・・フフフ・・」

「・・・じゃあ今から伺いますね・・・」

(何だって!?)

俺は急いで窓を開けた。

(!!)

昨日のあの不気味な女がこちらの部屋の窓に、

物干し竿のようなものをたてかけようとしている。

「・・ぼっちゃん・・・

今物干し竿を渡しますからね・・・」

「そちらでしっかりと持っていてくださいよ・・・これを伝わってそちらへ行きますからね・・・」

俺「な!な・・!」

俺「やめろ!」

俺は物干し竿を手ではらった。

物干し竿は隣の家と俺の家の間に落ちていった。

俺は窓を閉めて母さんと父さんを急いで一階に呼びに行った。

「母さん、父さん助けて!!」

母「どうしたのこんな夜中に」

俺「隣の家の変な女が窓から俺の部屋に来ようとするんだよ!」

父「まさか・・・夢でも見たんだろ」

俺「いいから来てくれよ!」

俺は両親を強引に起こすと、二階の俺の部屋につれて行き窓を勢いよくあけた。

しかし、あの不気味な女はいなくなっていた。

父さん「なんだ・・なにもいないぞ」

母「余計な事でおこさないでよ、明日仕事なのに」

俺「じゃあ今日から父さんと母さんはこの部屋で寝てよ!」

結局、相談の末しばらくの間父さんと母さんが二階の部屋でねることになったが、

女は姿を現さなかったという。

父「ヒロシ、やっぱ夢でも見たんだろ」

俺「違う!本当にいたんだよ。」

しかしその後も何もなかったのでやはり夢だったのかもしれないと思うようになった。

父「ヒロシ、そろそろ二階に戻らないか?二階のほうが落ち着いて勉強できるだろう。」

俺「うん、そうだね。そうする・・」

俺はその日から二階で寝ることにした。

(まさか今日から現れるんじゃないだろうな・・・)

その日の深夜1時

案の定、またあの声が聞こえてきた。

「・・・ぼっちゃん・・ぼっちゃん・・」

「・・ぼっちゃん・・おきてますか?・・・」

「・・お久しぶりですね・・・」

俺「・・・」

「・・ごきげんはいかがですか?・・・」

「ぼっちゃん・・・寝てるんですか?顔を見せてくださいな・・・」

「・・待っていてくださいね・・・もうすぐそちらへいきますから・・・」

「・・ぼっちゃん・・もうすぐですよ・・・もうすぐそちらに手が届きそうですよ・・」

「・・もうすぐそちらにいきますからね・・・」

「・・もう少しでノックできそうですよ・・・

ノックしたら窓を開けますね・・・」

「あ・・ああ・・まだ遠いわ・・・手が届かない・・・」

「・・でも待っててくださいね・・・もうすぐそちらへ行けますから・・・」

やけに声が近くで聞こえた

するとやはり、あいつは何らかの方法でこちらへ接近しているのだ。

親父を呼ぼうかと思ったがやめた。

呼びに行ってるうちにまた自分の家へ隠れてしまうに決まってる。

それよりもあいつがノックしたらこの窓から突き落としてやろうと身構えていた。

その夜、俺はまんじりともせず朝を迎えた。

結局ノックはなかった。

しかしあいつは確かに俺に部屋にやってこようとしているのだ。

その証拠に・・・

窓の縁の部分にあの女のものと思われる剥がれた爪が落ちていた。

今夜あたり危ない。

今我が家ではよそへ引っ越す相談をしている。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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