中編7
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会子手、手上有血

親戚が多すぎて、お盆になると何十人って人が俺の実家に集まっていた。

自分が小さいころからずっとそうだった。家に大広間があって、親戚一同が揃うのにちょうどいいからだと思っていたけど、本当は違っていた。

でも「集まっていた」ってことは今はもう集まらないってことで、それは集まる意味がなくなったってことだ。

俺が中学三年のときの8月。夏休みだから毎日友達とバカやって遊んでいた。ケータイなんてものはまだなくて、誰かが誰かの家に誘いに来たら行動開始、みたいな感じだった。

その時の遊び仲間だったのが、A、B、Cと俺の4人。その日はクソ暑くて雲ひとつない晴天だったのは今でも憶えている。俺の家にBが来て、そのあとAとCを誘った。

今日は何か思い出になることしようぜ、と提案したのは俺だった。中学最後の夏だしな、なんてカッコつけた言い訳して。

まあみんなノリはよかったから、そのまま「じゃあ何する?」って話になった。思い出になることをするってのは、つまり何か悪さをするってことだった。男子の健全な大人のなり方だよな、なんてバカな話をしていた。でもチキンの集まりだったから、犯罪まがいのことはできなかった。そこでAが思いついたんだ。

A「お前んちに蔵あるじゃんか?あそこって何入ってんの?」

俺の家のどでかい蔵のことだった。いつ頃からあるかわかんないくらい古い蔵で、俺の住んでる家本体は建て直しとかしてたから、変だけど蔵のほうが家よりも前から存在してた。

俺自身その蔵の中に一度も入ったことなかったし、興味はあった。親父に中になにがあるのか尋ねてみたこともあったけど、親父も中を見たことないという年代物だった。

そしてその日の遊びが決まった。「俺の家の蔵に入ってその中のもので何かする」だった。バカだよね。今思い出すと本当にしょうもないと思う。悪さでも何でもない。

でも蔵の入り口には南京錠がかけられてた。だからそれを壊して中に入るって部分が悪さだったんだ。親父に怒られるのは必至だったけど、みんな勢いに乗ってしまったからもう止められない。みんなで怒られようぜってことで、さっそく4人で俺の家に向かった。

家に着くと、7~8人ぐらいかな。親戚が来ていた。お盆に家に来れなかった親戚が日をずらして来ることは毎年のことだったけど、その日はさすがに迷惑に感じたな。親父どころか親戚まで家にいる状態で蔵に忍び込むなんてできなかった。

親父「○○、今からみんなで昼飯を食べに行くんだけどお前も行くか」

もちろん行かなかった。まさに絶好のチャンスってやつ。蔵に入るなら今しかないってことだった。そう思ったのは俺だけじゃなくて、他の3人も無言で了解していた。

親父が親戚一同を連れて出てったのを確認してから、俺たちは蔵の前に立った。で、そこでこの南京錠を壊すのは無理だって気付いた。それまで注意深く見たことなかったから気付かなかったけど、異常にでかい南京錠だった。自分の両手の面積よりも確実にでかい。手持ちのトンカチじゃ表面に傷をつけるのがやっとだろう。

他に入れそうなところを探してみるんだけど、窓とか換気口とかも一つもなくて、どうしても入口から入るしかなかった。

親父たちが帰って来るまでの時間制限ありだったから、むしろ興奮していた。どうすんだ、早く考えろ、みたいな感じで。そこでAが名案を思い付いたんだ。

文章でうまく伝わるかわかんないけど。南京錠は蔵の扉の左右の取っ手にかけられていた。南京錠の大きさに見合って、その取っ手もかなり大きかった。だから、その取っ手に太い木の棒を通して、棒の端で俺たちが体重をかければ、テコの原理で取っ手が壊れるんじゃないかって。

家にあったシャベルを取っ手に通して、さっそくその案を試してみた。シャベルの頭が通るくらい、扉の取っ手は大きかったから。左右に二人ずつ分かれて、交互に体重をかけた。そしたら次第に取っ手がぐらついてきた。10分ぐらいかな、これはいけると思って続けてたらとうとう右側の取っ手が地面に落ちたんだ。

とうとう御開帳だ。取っ手が両方取れたら入れなかったな、とか笑いながら、左の取っ手をA、B、俺の3人で引いた。なんて言うのかな。不自然にその扉は重かった。ゴゴゴゴゴ、って3人でやっとだった。

蔵の中から、むあ~って蒸し暑い空気が流れてきた。そして、いままで嗅いだ事のないにおいがした。蔵の中は真っ暗だったけど、暗いよりは「黒い」って感じた。なんて言うか、においも「黒い」って感じた。さっきまでのハイテンションはもう無くて、昼間なのに肝試ししてるみたいな雰囲気だった。

誰ともなく、「なんだこれ!?」って叫びまくった。懐中電灯で照らされた蔵の中は黒い箱が所狭しと並んでいた。何十個どころか何百個じゃねえのか、ってぐらい。綺麗に棚に並べられていた。

A「これって大切なものなんじゃねぇの」

B「この箱しか無いもんな…どうすんだよ、○○」

C「箱の中だけ見てみようぜ?開けてみて、中身見てからどうするか決めたらいいじゃん」

A「どの箱開けるんだよ」

C「この一番小さいのでいいだろ」

黒い箱は大小あって、大きいのは俺の顔より大きいぐらい、小さいのは手に乗るぐらいだった。Cの選んだ箱は蔵の奥にあった手の平に乗るぐらいの大きさの箱だった。Cがそれを掴むと、ザリ、と擦れる音がした。Cが持ったのは箱のふたの部分だった。次の瞬間、その箱は棚から落ちて、中身が飛び出した。

俺「おい!!何やってんだよ…なんだこれ」

箱の中からはらりと落ちたのは、紙切れ2枚だった。懐中電灯で照らしてみると、黄ばんだ紙には、一枚に一文ずつこう書いてあった。

「会子手」

「手上有血」

変換で出てこないんだけど、ほんとは「会」の字は「会+刂」だった。で、中学生の俺たちにその文が理解できるわけもなく、その紙は元の箱に入れて、箱をもとの位置に戻した。なんていうか、拍子抜け。ここまでやって訳のわからない紙切れ2枚だけなんてガッカリだったから、他の箱の中も見てみようぜ、ってことになった。

無造作に俺の隣にあった箱を選んだ。両手でもって地面に置いて、懐中電灯で照らしてもらって、蓋を外した。さっきCがたてた、ザリ、という音がした。

その中には箱にすっぽり収まるぐらいの大きさの黒い木のブロックが入っていた。

俺「何だこれ?暗くてよく見えないな」

A「蔵の外で見てみようぜ」

その箱に蓋をして、俺が蔵の外に持っていった。外に出て、最初に悲鳴を上げたのはCだった。

C「なんだよそれ!!気持ちわりー!!」

日の光に照らされて、黒い箱が細部まで見えた。細部というか、箱に書かれた文字が見えたんだ。明るいところならよくわかった。黒い箱は、本当は赤黒い感じで、箱にはもっと真っ黒な字で「会子手、手上有血」が大きく書かれていた。

この箱、血で染めたみたいだな。誰かがそう言って、俺たちは途端に怖くなった。蔵の中の異様な雰囲気に呑まれていたし、この黒い箱の意味が全くわからない。みんな口数少なくなっていたけど、どうするもこうするもなく、自然な流れで俺は箱の蓋を取った。

箱の中には、箱の色と同じ赤黒い木のブロックが入っていた。箱に綺麗に収まっていて、指の入る隙間もなかったから、箱を逆さまにして取り出そうとした。Bが箱をひっくり返すと、ズズズズって、赤黒い粉と一緒に、下で構えていたCの手の平に落ちてきた。

その時だった。俺はいきなり首根っこを掴まれて後ろに吹っ飛ばされた。一瞬何が起こったのかわからなかったけど、それをしたのは帰ってきた親父だとわかった。親父はA、Bを思いっきり突き飛ばした。Cの手から赤黒い木のブロックをひったくり、ごめんなさいと叫ぶCの顔を殴った。

そして木のブロックを箱の中にしまうと、蔵の中に走っていった。親父はしばらく出てこなかったが、俺は親戚の一人から胸ぐらを掴まれて、

親戚「お前。なんで破ったんだ。」

と、訳のわからないことを言われた。

親戚「何個開けた?どの箱だ」

親父「だめだ。うけいのを開けてる。もう全部だめだ。」

蔵から出てきた親父が答えた。そして、俺は思いっきり顔面を殴られた。A、B、Cが不安そうにこっちを見ていた。

親父「なんてことをしてくれた。お前のせいだ。友達はみんな帰せ。」

親父は地面に尻もちをついていた俺をさらに吹っ飛ばすと、A、B、Cをにらんだ。3人は顔を下げて動かなかったが、親父が大声で「消えろガキども!!」と叫ぶと、走って帰っていった。

親父「お前は自分の部屋にいってろ。俺が呼ぶまで出てくんな。」

俺は一目散に自分の部屋に逃げ込んだ。あんな怖い親父を見たことなかった。それだけじゃない。親戚のおじさん、おばさんたちがものすごい顔で俺を見ていた。ああ、俺はとんでもないことをしてしまったんだなって、そのとき初めて気がついた。俺の部屋は二階にあったんだけど、一階から親父たちのどなり声がずっと聞こえていた。

汗をだらだらかきながら、それでも俺は頭から毛布をかぶって布団にくるまっていた。自分がしたことが何なのか、わからなくて怖かった。もう夜になっていた。

部屋の電気も消していたが、親父が入ってきて電気をつけた。「出ろ」と言われ、布団から体を起こした。親父の顔は普段の落ち着いた感じに戻っていた。

親父「いいか。今から全部話す。本当は今話していいことじゃない。」

スミマセン、続きます

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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