俺の通う大学の後輩に東北A県出身のめっぽう暗い奴がいる。
2ヶ月前まで、俺が副部長を務めるサークルに在籍していたんだが、俺の許可無しに勝手に退部してしまった。
以前、俺の命を救ってくれた事があり、礼を言いそびれたので探してたんだが、そいつのクラスの者に聞くと、なんと2ヶ月位前から全く見ないという。
(て事は退部して以来学校に来てないって事か?)
暗いあいつらしくクラスの人間誰も奴の住所を知らない。
(あいつ携帯も持ってなかったよなあ)
こうなるともう学校に聞くしかない。
学生課に行ったら、驚く程簡単に教えてくれた。
日曜日、電車乗り継いで奴の住むアパートに行ってみた。
想像通り、家賃の安そうなオンボロアパートだった。
「先輩!」
迷惑がられるかと思っていたが予想外に喜んでくれた。
「首吊ってんじゃないかって心配したぜ」
そいつ(以後K)は笑いながら、
「死にかけたのは事実ですけど」
と言った。
「死にかけた?」
と聞くとKは話してくれた。
彼はいわゆる霊媒体質で、手当たり次第に霊を取り込んでしまう。
体調が限界になると実家に帰って、近所の拝み屋に祓って貰うのだという。
「お前、祓えるんじゃないのか?」
と聞くと、
「祓えない」
という。
以前、俺に憑いた霊を俺から外したのは、祓ったんじゃなくて、Kの身体に引き込んだんだとか。
「あの時も大変でしたよ・・・僕のやり方は、入ってきた霊に心の中で話し掛けて、説得して出てってもらうんですけど・・・その時は、熱い、苦しい、みず・・水・・・ばかりで気持ちが全く伝わりゃしない」
「で?どした?」
「実家に帰りました」
Kは言い、
「交通費くらい貰わないと」
と、笑いながら付け加えた。
(こいつ、結構明るいじゃん)
俺は何だか嬉しくなって、「その節はありがとな」
と、礼を言った。
Kは笑って頷くと、
「でも、僕が退部届け出したの別にサークルが嫌だったわけじゃないんです」
Kの表情から笑みが消えた。
「先輩、ここに来る途中、七階建てのマンションあったでしょう?」
「いや、覚えてないけど・・・」
「僕、酒飲むと憑かれ易くなるんで殆ど飲まないんですけど、田舎の友人が訪ねてきて、居酒屋で飲んだんですよ、退部届出す2、3日前かなあ・・・」
Kは、俺が興味深く聞き入っているのを確認してから、話しを続けた。
「店を出て、2人いい気分で冗談交わしながらここに向かってたんですけど・・・そのマンションの下を歩いてる時、はっきりと上から何かが落ちて来るのがわかったんです・・・」
俺は何かぞくぞくしてきた。
「友達も感じたらしくて、2人して上を見上げたんですけど・・・その瞬間何か経験した事の無い物凄い衝撃を頭に受けまして、後は覚えてないんですけど・・・」
Kの友人の話によると、倒れたのはKだけで、完全に意識を失っていたという。
友人が頬を張って、意識は戻ったらしいが、どうも様子がおかしい。
目が虚ろで、小声で何か、ぶつぶつ、ぶつぶつ、呟いている。
後5分程でこのアパートに着くという時、Kがとんでもない行動にでる。
片道3車線の国道に飛び出したのだ。
友人はこの時、
(ああ、Kは死んだ)
と覚悟したらしい。
それくらい交通量は半端じゃなかった。
しかし、Kは死ななかった。
客を降ろすためスピードをゆるめたタクシーの前に、つまずいて転んだんだ。
そのあたりから、Kの記憶が甦り始める。
Kによると頭の中は
(死にたい、死にたい)
という激しい感情で占められどうしようもない状態だったという。
2人この部屋になだれ込むと、友人の協力のもと、しばらくは一切外出せずに、ここに籠ったそうだ。
「外に出れば間違いなく自殺するっていう確信がありました」
Kは俺の目を見て言った。
退部届けは大家の娘さんに部室に放り込んどいてって頼みました。
Kは言う、
「列車に飛び込みそうで今度ばかりは田舎にも帰れませんでした」
「で?今は?」
と俺。
「説得してますが、まだ出てってくれません」
Kはいかにも困ったという顔で呟いた。
「その友達は?」
俺が聞くと、
「今、買い物に出てます」Kは、はにかんだような笑みを見せた。
「ええ?友人ってもしかして女?」
俺は負けたと思った。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話