中編3
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後輩その後

俺の通う大学の後輩に東北A県出身のめっぽう暗い奴がいる。

2ヶ月前まで、俺が副部長を務めるサークルに在籍していたんだが、俺の許可無しに勝手に退部してしまった。

以前、俺の命を救ってくれた事があり、礼を言いそびれたので探してたんだが、そいつのクラスの者に聞くと、なんと2ヶ月位前から全く見ないという。

(て事は退部して以来学校に来てないって事か?)

暗いあいつらしくクラスの人間誰も奴の住所を知らない。

(あいつ携帯も持ってなかったよなあ)

こうなるともう学校に聞くしかない。

学生課に行ったら、驚く程簡単に教えてくれた。

日曜日、電車乗り継いで奴の住むアパートに行ってみた。

想像通り、家賃の安そうなオンボロアパートだった。

「先輩!」

迷惑がられるかと思っていたが予想外に喜んでくれた。

「首吊ってんじゃないかって心配したぜ」

そいつ(以後K)は笑いながら、

「死にかけたのは事実ですけど」

と言った。

「死にかけた?」

と聞くとKは話してくれた。

彼はいわゆる霊媒体質で、手当たり次第に霊を取り込んでしまう。

体調が限界になると実家に帰って、近所の拝み屋に祓って貰うのだという。

「お前、祓えるんじゃないのか?」

と聞くと、

「祓えない」

という。

以前、俺に憑いた霊を俺から外したのは、祓ったんじゃなくて、Kの身体に引き込んだんだとか。

「あの時も大変でしたよ・・・僕のやり方は、入ってきた霊に心の中で話し掛けて、説得して出てってもらうんですけど・・・その時は、熱い、苦しい、みず・・水・・・ばかりで気持ちが全く伝わりゃしない」

「で?どした?」

「実家に帰りました」

Kは言い、

「交通費くらい貰わないと」

と、笑いながら付け加えた。

(こいつ、結構明るいじゃん)

俺は何だか嬉しくなって、「その節はありがとな」

と、礼を言った。

Kは笑って頷くと、

「でも、僕が退部届け出したの別にサークルが嫌だったわけじゃないんです」

Kの表情から笑みが消えた。

「先輩、ここに来る途中、七階建てのマンションあったでしょう?」

「いや、覚えてないけど・・・」

「僕、酒飲むと憑かれ易くなるんで殆ど飲まないんですけど、田舎の友人が訪ねてきて、居酒屋で飲んだんですよ、退部届出す2、3日前かなあ・・・」

Kは、俺が興味深く聞き入っているのを確認してから、話しを続けた。

「店を出て、2人いい気分で冗談交わしながらここに向かってたんですけど・・・そのマンションの下を歩いてる時、はっきりと上から何かが落ちて来るのがわかったんです・・・」

俺は何かぞくぞくしてきた。

「友達も感じたらしくて、2人して上を見上げたんですけど・・・その瞬間何か経験した事の無い物凄い衝撃を頭に受けまして、後は覚えてないんですけど・・・」

Kの友人の話によると、倒れたのはKだけで、完全に意識を失っていたという。

友人が頬を張って、意識は戻ったらしいが、どうも様子がおかしい。

目が虚ろで、小声で何か、ぶつぶつ、ぶつぶつ、呟いている。

後5分程でこのアパートに着くという時、Kがとんでもない行動にでる。

片道3車線の国道に飛び出したのだ。

友人はこの時、

(ああ、Kは死んだ)

と覚悟したらしい。

それくらい交通量は半端じゃなかった。

しかし、Kは死ななかった。

客を降ろすためスピードをゆるめたタクシーの前に、つまずいて転んだんだ。

そのあたりから、Kの記憶が甦り始める。

Kによると頭の中は

(死にたい、死にたい)

という激しい感情で占められどうしようもない状態だったという。

2人この部屋になだれ込むと、友人の協力のもと、しばらくは一切外出せずに、ここに籠ったそうだ。

「外に出れば間違いなく自殺するっていう確信がありました」

Kは俺の目を見て言った。

退部届けは大家の娘さんに部室に放り込んどいてって頼みました。

Kは言う、

「列車に飛び込みそうで今度ばかりは田舎にも帰れませんでした」

「で?今は?」

と俺。

「説得してますが、まだ出てってくれません」

Kはいかにも困ったという顔で呟いた。

「その友達は?」

俺が聞くと、

「今、買い物に出てます」Kは、はにかんだような笑みを見せた。

「ええ?友人ってもしかして女?」

俺は負けたと思った。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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