中編4
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訓戒③

Aさんは何も言わず、煙草を吸っていた。

僕も煙草に火を点け、煙を吸い込むと急に力が抜けた。

そこから、ぽつりぽつりとAさんは話してくれたんだ。

A「あんたが見た通り、あそこは話に出てきた寺と土蔵だ。

 まさかあんなところまで行くなんてよ、あんたも大概長生きできねぇな。

 昨日の話には続きがあってよ。

 村中の人間が巻き込まれたけどよ、それでも全部っつう訳でもなかったんだな。

 中には心の優しいヤツもおった。 ただ、女子が寺に連れて行かれるとき、

 止めることができるモンはおらんかった。

 自分が止めとれば、こんなことにならんかったに、そう思うモンも少なくなかった。

 自然と、償いからかなのか弔いをして、きちんと祀ってやりたいってことになったんじゃろう。

 遠出をして、偉いお坊様に来てもらったんじゃと。

 お坊さんは弟子をつれて三人で来てくださったそうじゃ。

 そこで村の者は一部始終を話した。

 お坊様はエライ哀れんでくれてなぁ。

 早速弔いの準備を始めて、村人達にも手伝うように言ったそうじゃ。

 七日七晩、弔いは続いてなぁ。

 そりゃそんだけのことだったろうからなぁ。

 やっと弔いが終ろうかというとき、ほれ、あっただろう?」

僕「え、何ですか」

A「土蔵」

僕「土蔵・・・」

A「肝心の土蔵を最後に祀ろうってことで、お坊様と弟子三人は土蔵に入った。

 そこで、見つけたそうじゃ」

僕「・・・本、ですね」

A「あぁ。お坊様も弟子も話は聞いていたからすぐに目を逸らしてすぐに

 村人に風呂敷をもってこさせた。

 村人から風呂敷を受け取ると、直では触らないように包んで

 札を載せ、数珠で巻きつけたそうじゃ。

 決して魅入られないように、目を向けないようにしながら土蔵でお経を上げつづけた。

 そして、長いお経が終わって、こういったそうじゃ。

 “これは私がしっかりと供養する、ご安心なさい”

 村人は安堵の息をついた。

 弔いも済み、お坊様が帰ると言い出したとき、村人は感謝の気持ちを込めて

 一晩だけでももてなしたいと言い出した。

 古い村ではそういうしきたりが強くあったんじゃよ。」

僕「それじゃぁ、これでやっと終わるんですね。 あの石碑は

  そのお坊さんが、」

A「違う」

僕の言葉をさえぎるようにAさんが言った。

A「お坊様をもてなした晩、例の本はお坊様が肌身離さずお持ちになって決して

 他の者には目に付かないようにしておった。

 夜も更け、その晩は村人がよういした床についたそうじゃ。

 その晩、弟子の内の一人がその本を持ち出した。」

僕「・・・」

A「勝てんかったんじゃろうなぁ。 見てはならぬ、触れてはならぬと強く

 言われれば言われるほど、見たい触れたいが人間なのかもなぁ。

 本を持ち出した弟子は、月明かりの下でそれを開いたそうじゃ。。。

 そして、先の二人と同じになった。

 すぐに異変に気付いたお坊様と村人は、それが何故なのか、

 駆けつけたときにはもう分かっておった。

 そして、その弟子を、残った村人で殺したんじゃ。」

A「お坊様は、土蔵でやったとおり、本をしまった。

 ただ、前とは違っていた。」

A「石碑があったじゃろう? あの下に穴を掘ってな。

 おかしくなってしまった弟子と、その本をその穴に入れると火をつけて

 燃やしたんじゃ。

 それからこう言った。

 “これから私は私の弟子のために一生ここで供養する”

 あそこに石碑がたったのも、四隅に堂を作ったのもお坊様に言われて

 用意したものじゃ。」

僕「それじゃぁ、あの下には」

A「恨みつらみや、悪いものを埋めたんじゃ」

僕「・・・」

僕は、勇気を出して最後の疑問を問いかけた。

僕「Aさんは、、、誰にその話を聞いたんですか?」

A「・・・」

A「弟子は二人おった。

 一人は死に、一人は一生を供養することにささげたんじゃよ。

 その村の村人になってな」

僕「Aさん。 じゃぁAさんは・・・」

A「わしで最後だろうなぁ、、、こんな時代だからなぁ。

 もう随分、、、薄れたじゃろう」

Aさんとはそれ以来会っていない。 もう随分お歳を召されただろう。

別れ際にAさんから言われた言葉を時々思い出す。

“見てはいけない、触れてはいけない、聞いてもいけない。

 そういうもんには理由がある。 あんたも大概知りたがりかも

 知れんが、やめとくがええぞ。 世の中には訳の分からんことばかりだで”

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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