中編6
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真昼の訪問者

12時半頃。家で家事をしていたときの話。私は住宅街に引っ越してきた普通の主婦。まだ、引っ越してきて1週間もたっていない。

小学生の息子と幼稚園児の娘。そして夫と暮らしている。

「もうお昼。ご飯つくらなきゃ」

そう言い、台所へ向かったとき。

――ピーンポーン…。

インターホンが鳴った。

誰だろう、とモニターを見てみると30代ぐらいの女性が立っていた。顔もはっきり映っている。なんかのサービス宣伝だろう、と玄関へ向かった。

――ガチャ。

「はい?」

「突然お伺いして申し訳ございません。ちょっとお訪ねしたいことがありまして…」

「なんでしょう?」

「松田さんという方を知りませんでしょうか?この当たりに住んでいらっしゃるはずなのですが」

「あー…ちょっとわからないです。引っ越してきたばかりなもので」

「そうでございますか。申し訳ございません、突然」

「いえ」

「では、失礼致します」

――パタンッ。

ほっと一息を吐く。

まだこの辺りのことを知らない。お隣りの田辺さんと岡本さんのところしか挨拶にいっていないため、まだ周りの名前はわからない。

はやく挨拶をしにいかないと。そう思いながら台所へ向かい、料理をつくり始めた。

――…

「松田さん?」

「うん。今日30代ぐらいの人に聞かれたの」

「そんな人いたかなぁ?」

「もしもさ、今日みたいに聞かれたら困るじゃない?だから、はやめに挨拶とかいきましょうよ」

「そうだな」

夫に今日のことを話した。夫も松田さんのことを知らない。

はやく挨拶にいこう。今週の日曜にでもいくと、約束をした。

――…

「あら、佐藤さん」

「おはようございます」

「聞いて、佐藤さん。昨日、この辺りで通り魔が出たんですって!」

「通り魔…?」

「そうよ〜。もう世の中物騒よねぇ」

「うち子供3人いるから心配なのよねぇ」

「そう…ですか…」

今朝、そのことを近所の人と話し、少し不安になった。

家に帰ったとき時間は11時。

なぜだかわからないが、体が震えた。

夫は会社。息子は学校。娘は幼稚園だ。誰もいなくなった家に一人で家事を続けていくうちに、時間が過ぎていった。

――ピーンポーン…。

インターホンが鳴った。

「はい?」

扉を開けてみると、そこには昨日きた30代ぐらいの女性がいた。昨日と服装が変わっていない。

「突然お伺いして申し訳ございません。お訪ねしたいことがありまして…」

「な、なんでしょう…」

「この辺りに松田さんのご自宅があるそうなのですが、ご存知でしょうか?」

「いえ…知りません」

「そうでございますか。申し訳ございません、突然」

「いえ…」

「では、失礼致します」

――パタンッ。

昨日と同じことを聞いてきた。不思議に思い、恐怖が感じ取れる。

明日も…くるのではないかと。

――…

「同じ人がきた?」

「そうなの。昨日と全く同じ人。服も髪型も、聞いてきたことも同じなのよ!絶対変よ、あの人」

「落ち着けよ」

「落ち着いていられないわ!昨日通り魔が出たって近所の人からも聞いてるの。ねぇ、ここなんかおかしいわよ」

「そんなことないさ。新築だぞ?」

「でも…!」

「疲れが溜まってるんだよ。今日はゆっくり寝なさい」

夫にそう言われ、今日はゆっくり寝た。

明日は同じこと起きないだろう、と願いながら。

――…

夫と息子を見送り、娘を幼稚園のバスまで連れていった。

バスが走っていった後、反対側に昨日訪ねてきた女性の姿があった。

何もしないで、ただ立っている。

たが、視線の先は私の住んでいる住宅街方面だった。ゾッとし、即座に家へと戻った。

「お、おはようございます…」

「あら、佐藤さん。元気ないようだけど大丈夫?」

「あ、はい…」

「引っ越してきたばかりだものね。いろいろと慣れない面があって大変でしょうけど、がんばってね」

「ありがとうございます」

ぺこりと頭をさげたとき、昨日一緒に会話をした近所の人が走ってきた。

「ちょっとちょっとちょっと!!」

「ななな、なぁに?そんなに慌てて…落ち着きなさいよ」

「ちょ…あの、あのね!昨日もまた通り魔よ」

「あら〜懲りないわねぇ」

「物騒ったら物騒よ、も〜」

近所の人が話をしているとき、私がなんとなく道路のほう見た。あの女性の姿はなかった。

ふと思い浮かんだのは松田さんのことだった。

「あ、あの…」

「嫌よねぇ…どうしたの、佐藤さん」

「この辺に松田さんって方いらっしゃいますか?」

「松田…?」

「さぁ、わからないわ。この住宅街にいるの?」

「わからないんですけど、この辺りに住んでるって聞いたものですから」

「私にはわからないわ」

「そうですか…」

「あ!」

「どうしたの?」

「聞いたことあるわよ、松田さん」

「ほんとですか!?」

「ええ。たしか〜あそこの道路のところで交通事故に遭って亡くなった女性よ。無惨な死に方なさったみたいで…」

さっきの女性が立っていた場所らへんだ。

ゾッとし、鳥肌が立つ。誰かに見られているような感覚になり、体が動かない。

隣りにいる近所の人たちの声がふっと消えたとき。私の肩に手が触れた!

「…佐藤さん?」

「あ、すいません…」

「大丈夫?顔色悪いわよ?」

「はい…平気です。あ、私これで失礼しますね」

そう言い、私は家に戻った。

まさかあの女の人と関わりがあるわけないだろう、と不安を抱きながらも時計を見た。

「11時51分…かぁ」

そう呟き、昼飯を食べようと台所へと向かった。

冷蔵庫を開き、ベーコンを取り出す。簡単につくれるものにしよう。なんだか体がだるい。

ため息を吐きながら、フライパンを手にしたとき。

――ピーンポーン…。

手が震えた。またあの女の人だ。そう思いながら、モニターのほうへいく。

画面をみたくない。でも、女の人じゃなかったらどうしよう。緊張しながらも、画面をみた。

昨日の女性だった。

服装も変わっていない。髪型も顔付きも。

でたくない!

インターホンを無視し、台所へと戻った。

――ピーンポーン…。

インターホンが鳴る。

それでも無視する。やがて、インターホンは鳴らなくなった。しかし…。

ガンガンガンッ!

ガンガンガンッ!

ガンガンッ!!

ドアを蹴飛ばすような音が響いた。

恐怖が襲いかかる。手にしていたフライパンを離し、台所でうずくまる。

そして、携帯電話で夫に電話をした。

――とぅるるる…とぅる。がちゃ。

『もしもし?』

「もしもし、あなた?助けて、昨日の人がっ…!」

『昨日の人?昨日の人って…』

「こーんな人?」

昨日の女性が覗き込むようにして立っていた。

心臓が止まりそうだった。

青ざめた肌に大きな目。裂けた口の周りには血がついていた。

私はそのまま倒れ、気絶した。

――…

私はもうあの住宅街から引っ越した。

そして、最後にこんな話を聞いた。

住宅街の正面にある道路で亡くなった女性が松田さんと言うらしい。帰宅途中、交通事故に遭って亡くなった。

30代ぐらいで、赤いコートを着ていたらしい。

この住宅街がつくられる前、ここにはアパートがあったそうだ。そこに松田さんは住んでいて、調度松田さんの部屋の位置に、私の家があったのだという。

松田さんは毎日、死んだ道路からこの住宅街へ入り、私の家へきて自分の家がどこにいったのかを訪ねてきていたのだ。

――…

私は松田さんが亡くなった場所に菊の花をお供えした。

手と手をあわせ、噛み締める気持ちでその場から去っていった。

: JHARD

怖い話投稿:ホラーテラー JHARDさん  

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