長編23
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清書 訓戒

この話は、つい先月投稿したものです。

その後、あまりの誤字脱字、誤った文字を恥ずかしく思い、

しつこいとは分かりながらもついつい清書した次第です。

すでにお読みいただいた皆様の中でご興味のない方、どうぞお読みにならないで下さい。

初めてご覧いただく方も、今回は一度の投稿にまとめてしまいましたので

非常に長く読みづらいものとなります。長い話がお嫌いな方はお読みにならないで下さい。

また、前回投稿時はいくつかの事実を隠してもいました。

ほんの少し、書ける部分のみですが書き直しと付け足を行い可能な限り真実をお伝えするようにいたしました。

※その場所や、名称を特定できる内容は書けませんのでご容赦下さい。

この世には見てはならないものがいくつか存在する。

どんなものか?の問いには明確には答えられないけど一つだけは知っている。

それは、処刑される人間が書いた書物らしい。

論文の研究でとある地方に行った際に聞いた話だ。

その内容はと言えば以下の特徴を持っているらしい。

・呼び名は○○(文字で残すことはできません、、、すみません)

・存在した時代は不明(江戸時代初期頃?)とのこと

・死にゆく罪人へのせめてもの慰めとして処刑の前夜に好きなことを書かせた

 ・実際には、罪人を後悔させる為に“処刑されるようなことをして誠に申し訳ございません”

  という意味合いの言葉を書かせた

・罪人一人につき一枚の紙を渡した(裏表)

 ・裏表に何度も何度も同じ文句を書かされた

・刑に関わる任を負った者のみ触れることが許される

・その中身は決して読むことが許されず、風呂敷に包まれ寺へと納められる

・寺へ納められた後は紐で通され、一遍の書物となる形式にされ保管される

・文書には恨みや悪意(=穢れ)がこもると考えられ、鎮魂のために長い年月をかけて供養される

もう見てはいけない理由を言う必要はないよな?

死に向かう人間に、自分が処刑されることを強制的に受け容れさせ、なおかつ

夜が開ける頃には自分がした事の後悔を増すために書かせた書面だ。

なぜこんなものが存在するのか? 現代の常識では分からないが、当時は今よりも

社会の階級とその格差が酷いものだったのだろう。

処刑されるような人間は、人間として扱うのではなく、何か薄汚い低劣な

存在としての扱いを受けたのではないだろうか?

それに、そのような社会であったから当然身分の低い者の命は、価値を

認められず軽々しく奪われることも珍しくなかったのだろう。

謂れのない罪を着せられ何の咎もないのに殺された方もいただろう。

先に説明したとおり、基本的に書かせる内容は予め大体決まっているのだが、

時代がそうだったからか、読み書き出来ない者も少なくはなく、

読み書きできない者にはさらに酷い、意味が分かる人間からすると極めて不快な

意味合いの文章を、その意味も分からぬまま模写させられた。

それでも、どうしても文字としての体を成していないものも多かったようだ。

何故読んではいけない物に対してこんな話が出来るのか。、

それは僕が話を聞いた方(当時75歳頃)が子供の頃に父に教えてもらったことを

そのまま教えてくれたからだ。

ただし、その方の為に、僕の説明では、多少分かりやすく直している箇所と

隠している箇所がいくつか存在する。

ことの始まりは、論文を書くためにとある地方の郷土史を調べていた時に遡る。

僕は当時、民俗学を専攻しており、各地に伝わる伝承や土俗の文化、あるいは

風習などを学んでいた。

柳田國男がそうしたように、実はその土地の年老いた方が知っている

昔話や噂話を聞くことが、その土地のことを知る事に大きく役立つ。

僕が選んだ土地では、少し離れたところが処刑場があり、いわゆる怪談の

ような類がいくつもあった。

夜になると刎ねられた首が中に浮いて身体を捜すとか、落ち武者の霊が

現れて人を襲ったとか、、、。そんな話だった。

民俗学を通して土俗文化を学んでいると、当然そのような伝承や怪談には

よく出会うものだ。 大抵は聞き流すか、メモをとって終わりにしている。

ここでも同じように、何人かの年老いた方々から話を聞いていた。

興味深い話は多かったが、それでも特筆して目新しいことはなかった。

一頻り話を聞きメモを取り、宿に戻ってメモを読み返すことを二日ほど繰り返し、

そろそろ次の宿へ向かおうかと思った夜、改めてメモを読み返してみた。

すると「処刑場で書かされる」という文字と「読むなと言われる」という

二つ三つ殴り書かれていた。 

同じ文字を見つけた僕は、何故か気になり滞在を少し延ばすことにした。

翌日、もう一度話してくれた方々を周り、今度は注意して話を聞き、

自分なりにまとめた。

そして、その話をもっと詳しく知っている人を尋ね、また会いに行き、話を聞く。

そんな事を何日か繰り返しているうちにある方に出会った。

その方は、最初の内は訝しんでいたが、僕が素性と来た理由を伝えるとこう言った。

「そんな話、昔話じゃ。 わざわざ話すようなことはなんもありゃせん。

 こんな田舎まで来て、無駄足だったの・・・」

僕は「それでも構わない。知っている話だけでもいいから」と言って引き下がらなかった。

初めてお会いした日はもう夕方に差し掛かっていたので失礼したが、次の日は

午後早い時間に伺って改めて話を聞かせて欲しいとお願いした。

最初は「面白い話でも何でもないぞ?」「何でそんなに聞きたいんだ?」と

面倒そうにしていたが、僕が余りにもしつこいからか、最後は諦めて話し始めてくれた。

その話は、それまで聞いていた話とは随分違っていた。

それまで聞けた話では「処刑される罪人が、反省の言葉を書かされた」で止まっていたからだ。

その方の話によればこうだ。

※分かりやすくその方=Aとする

※出来るかぎりその人の話し方に近づけてみるが、話し方まで覚えてないから

 変かもしれない。容赦して欲しい。

A「その本には、おっそろしい話がつきまとっておってなぁ、そらぁそんな本、

  まともな人間は読んじゃいけんわなぁ。

 

  だども、人間ってのはやめろ言われるとますますやりたくなるもんだで、

  中にはそれを読もうとする馬鹿者もおったそうでの。

  俺の父っちゃの爺さんが、さらにその親父さんから聞いた話らしいから、

  ほんとかどうか分からんけどもそれを読んだ馬鹿者がおったんだと。」

A「なんでそんなもん読んだかっつうと、当時村にはえらいべっぴんの若い

  女がおったそうじゃ。 ただこの女、この土地のもんではなく他所から

  きた流れ者だったんじゃ。」

 

A「えらいきれいな女子じゃったそうじゃからな、たちまち村の男の中で

  取り合いが始まった。

  女子はまいってしまってのう。。

  こんなとこに他所から来て、何か理由があったんじゃろうなぁ。 

  出て行くにも出て行けなかったんじゃろうなぁ。

  しばらくは村の外れの空き家にひっそりと住んどったらしいんじゃ。」

A「そんなきれいな女子じゃ、村の男達は夜毎夜這いをかけた。

  ただ、その女子はわかっとったんじゃろうなぁ。

  夜には家から抜け出し、どこかに隠れとったそうじゃ。」

A「そんなことがしばらく続くと、よく思わない者も出てくるもんだで。

  村の女達じゃ。 

  

  それまで言い寄ってきた男共が全く見向きもしなくなり、嫉妬したんじゃろうなぁ。

  それに加えて相手にされない男も加わり村の大半が女子を疎ましく思ったんじゃろう。

  ある日大勢でその女に詰め寄ったそうじゃ。

 “いつまでこの村にいる気なのか”

 “ここに来たのは何故か”

 “出て行け”

  女子はほとほと困ってしまった。 というのも当時はどこに行っても

  他所者は疎まれるし、まともな地図なんてもっとらん時代だからなぁ。

  行く当てはなし、かと言ってこのままここにいてもいずれ追い出される。

  弱りきった女子はこういったそうじゃ。

 “どうぞ何でも言うことをお聞きしますから、ここにおいてはもらえませんか?

  私には行く場所なんてないのです。 どうか、どうかお願いします”

ここまで話すとAさんは一旦煙草に火をつけてこう言った。

A「今みたいに安心して他所者がうろちょろ出来る時代じゃなかったんじゃろうなぁ。

  ここも今はそうでもないが、昔はほんに狭いところだったようだしの。」

早く続きが聞きたい僕は「それで、どうなったんですか?」、そう聞いた。

A「読まされた。」

僕「え?」

A「その本を読まされた。」

僕「でも、読んではいけないからお寺で保管されているって・・・」

A「村の人間が大勢で寺に押しかけてなぁ、住職も大勢から出せと言われて

  怖くなったんじゃろうなぁ。 他の者は読んではならんと言って女子を一人、

  本堂に入れて、目の前にその本をおいたそうじゃ。

  興味もあったんだろうなぁ。読んではいかんと言われていたもんを読んだら

  どうなるのか」

僕「でも、何でわざわざそんなことを・・・」

A「悪ふざけかもしれんな。怖いと言われているところへ弱い人間を連れ出して

  怖がる様を面白おかしく見るようなもんだろう。」

A「女子が本堂に入り、当時で言うと一刻くらいした頃出てきたそうな。

  その時には、人が変わってしまっていたそうじゃ。 

  目は開かれたまま、どこを見るでもなく、口元は笑っていたそうじゃ。」

A「さすがにそれまで騒いでいた村の者も声が出ない。

  女子はゆっくり、ゆっくり皆の方にあるいてきた。 そして、皆の前で止まった。

  何も言わず、不気味な笑いを口元に浮かべたまま、どこを見ているか分からない目で

  村の者達を見回していたそうじゃ。 その中にはその寺の住職もいたそうじゃ。

  笑い声なのか泣き声なのか分からないような声を上げはじめた女子に

  一人の女が近づいたその時、女子が急に飛び掛った。

 

  右手の人差し指をまっすぐに、近づいた女の左目に突き刺して、

  刳り抜いて、くちゃくちゃと食べたそうじゃ。

  慌てて女子を取り押さえたが、信じられんほどの力で振りほどかれる。

  振りほどかれたら振りほどかれたで今度は押さえつけに来た男の首元に

  噛み付き、そのまま噛み千切っってはまた食べる。

  ここまで来ると、もう嫉妬やら怒りは恐れに変わっておった。」

A「そんでなぁ、恐れは人をおかしくするんじゃ。」

A「皆、手に棒を持って、全員で女子を突いたり殴ったりした。 

  みるみる内に、女子は肌は裂け、血を流し、顔は形が変わり、髪は

  剥れた皮ごと地面に落ちた。

  それでもその女子は笑い声なのか泣き声なのかわからない声を上げたまま

  あたりを走り回っていたそうじゃ。 そうすると、どうなるか分かるか?

  次第にそれは狩りのようにも、遊びのようにもなってくるんじゃ。

  少しづつ、棒を振る力は強くなってきて、終いには大人の男が思いっきり

  殴りつけるようになっていた。」

僕「それじゃぁその女の人は殺されたんですか?」

A「いやいや、そんな生易しいもんではねぇな。 そういう時の人間ってのは

  鬼にも畜生になるもんだで。」

A「やっとの思いで女子を縛り上げ、使っていなかった寺の土蔵に閉じ込めたんじゃ。

  例の本と一緒にな。」

僕「え? 何で? だってその本は大切に保管されて、供養されるものなんですよね?

  それに、どう考えてもその女の人がおかしくなった原因じゃないですか」

A「じゃから、言ったじゃろ。 そういう時の人間ってのは鬼にも畜生になるもんじゃて。」

A「単なる遊び。 どうせ殺す人間、恐ろしい本と一晩一緒にいたらどうなるのか、

  単なる興味のために閉じ込めたんじゃ。

  怒りもあったんじゃろう、呪われろという気持ちもあったかもしれんな。

  とにかく、土蔵にはその女子とその本が一晩とじこめれられたそうじゃ」

  一晩中、人の声とも獣の声とも聞こえる叫びや、笑い声が響いておったそうじゃ。

  夜が明け、村人達と寺の住職が集まった頃には声はもうやんでおった。

  縄で固めた扉を開け、恐る恐る中に入るとそこには舌を噛み切り、口元が真っ赤に染まった

  女子の死骸があった。

  そしてその横にはあの本が落ちていたそうじゃ。

  その本には新しい紙はないんじゃ。罪人は1枚の紙の表と裏を与えられて、罪人が書いて

  寺に納められて初めて本になるからの。あまってる紙なんてないんじゃよ。

  その女子は裏表紙に書いていたそうじゃ。

  恐ろしいことに、縛られているから手は使えず、噛み千切った舌先で、もはや文字なのか記号なのか、

  読み取れん何かが血で書かれていたそうじゃ。

僕「怖い話ですね。 何も悪いことなんてしていないのに、気分が悪い話ですよ」

A「そうじゃの。 ただ、これでは終わらなかったんじゃ」

僕「まだ、、、続きがあるんですか。」

正直、僕はもう聞きたくなかった。 吐き気と頭痛でもうその場から離れたかった。

想像するだけで、気持ち悪くなってきていた。

A「さっきも言ったろう? 鬼、畜生になったんじゃよ。

  女子の死骸を見つけると、誰かがいったんじゃ。“穢れた女を成敗した”と。

  凶事を吉事に無理やり変えたんじゃ。 その晩、村を上げての祭りになった。」

 

僕「祭り!? 何も悪いことしてない女性をよってたかって苛めて殺しておいて

  それが良いことなんですか?

  そんなのちっとも納得できないですよ!

  第一、穢れたっていうなら村の人たちのほうがよっぽど穢れてるじゃないですか!?」

我慢しきれなくなって、全く無関係のAさんに怒鳴り散らしてしまった。

自分でも驚くくらい大きな声だった。

それでもAさんは落ち着いていた。

A「お前さんの言う通り。 結局、村人達も、住職も罪の意識から逃げ出しただけで、

 ちゃあんと罰は帰ってきたんじゃ」

A「女子が死んで、村を上げての祭りじゃった。女子の死体は柱に括り付けられ

  焚き火にかざされた。 村の者どもは歓喜にも近い状態で騒いでいた。

  それはもう、狂ったとしか思えん光景じゃな。 見たわけではないが、想像はできる。

  人は笑いながら人間を殺せるんじゃろうな。」

A「祭りが夜通し続く中、住職はただ一人、恐ろしいことをしてしまったと後悔していた。

  自責の念というよりも、ただただ怖かったんじゃろうなぁ。

  自分が呪われたり、何かよくないことが起きるんじゃないかと気が立っていたそうじゃ。

  それでも、例の本は、そらぁきちんとせねばならんからの。 女子の血で張り付いた

  紙を丁寧にはがし、拭き、しまわなければならんかった。

  外では村人が騒いでいる、大勢いたから気も紛れたんだろう。

  怖い気持ちをごまかしながらなるべく見ないように手を動かしたそうじゃ。」

A「ただ、女子の血が乾いておったから途中で破けてしまった。

  元々曰く付きのもので、さらにぞんざいに扱ったらどうなるか分かったもんじゃない。

  慌てて破けてしまった部分を見てしまったんじゃ」

僕「それで? どうなったんですか」

A「食い入る様に、瞬きもせずその本を凝視しておったそうじゃ。」

僕「・・・」

A「しばらく黙ってその本を見ていたかと思えと、今度は最初から丹念に読み出した。

  おかしなことに、本と顔の間には指が一本入るくらいの隙間しかなかったそうじゃ。

  一心不乱に本を読む住職、それを知らず外では相も変わらず騒ぐ村人。

 

  それは柱に括り付けられ音を立てて燃える女子を、火が多い尽くしたときに

  起きたそうじゃ」

僕はもう言葉も出なかった。 ただただ、その場から動けず話の続きを待つことしか

できなかった。

A「女子の口がな・・・動いたんじゃ。 舌を噛み切って死んでいたからの。

  それは苦悶の表情で死んでいったんじゃが、死んでから半日以上経とうというのに、

  口元が笑ったんじゃ。

  最初は誰も気付かなくての。 少しずつ、誰ともなく動きを止めて、

  声を呑み込んで、じっと魅入られるようにその顔に目線を集めたんじゃ。

  程なくして、誰かが悲鳴を上げてしまった。

  それまので狂喜が恐怖に変わって、村人全員に拡がるまでまで時間は大していらんかった」

A「それと時を同じくして、今度は本堂から住職が、もつれながら走って出てきた。

  昨日は押しかけて責めたてた村人共が、今度は助けを請いに住職の元へ走って集まった。

 “助けてくれぇ! 殺されちまう!! 和尚様、何とかしてくれぇ”

  俯いたままで、肩を揺らす住職、、、村人が足を掴んですがりつくと

  見上げた先にはどこを見ているか分からないまま、笑っている住職の顔があった。」

A「村人はすぐに“女子の呪い”と結びつけた。 それ以外には考えられんかった」

A「不気味に笑う住職の両手には、鎌が握られておった。

  あとはもう話さなくても分かるじゃろう・・・。」

僕はそこでやっと“っはぁ!”と息を吐いた。

自分でも意識していない間に息を止めてしまっていたらしい。

僕は、自分を落ち着かせるために煙草に火を点けた。

手は震えていて、しっかりと火が点くまで何度もかかった。震える手で煙草を吸い、

ゆっくり吐き出すとそれまで溜まっていた、何と言うか悪いものまで一緒に

出てきているようで気が滅入った。

僕「それじゃぁ、もうその村は・・・」

A「酷いことはあったがなぁ・・・、結局最後は住職が寺ごと焼き払ったそうじゃ。

  自分と一緒にな」

僕「そうですか。 それじゃぁその本もその時に」

A「あぁ、あんなもんないほうがええ。 恨みつらみを集めたようなもんは

  あっちゃなんねぇ。

  結局、だーれも良いことになんかなりゃしねぇ。

  こんな話が残っているのことも、本当は良くねぇ。

  あんたも学業のためとか言ってっけど、知っちゃいけねぇもんや見ちゃいけねぇもんが

  あるってことをよっく覚えときなさい。

  本当に怖いのは、何かってことも考えなきゃいけないよ」

僕「はぁ、、、ありがとうございました。。 疲れました。本当に」

あれほど知りたいと思っていた話なのに、こんな脱力感に襲われるとは

思ってもいなかった。

疲弊感からなのか、それとも滅入った気分からか、それ以上は何も聞く気に

ならなかった。 ただ、少しでも早くその場を離れて帰りたかった。

A「そんじゃ年寄りの話はこれしかないもんで、さ、暗くなる前に帰りなさんな」

気持ち悪かったからか、それとも疲れていたからか、そう言われると挨拶も手短に、

車に乗り宿泊先の旅館へと戻った。 戻るなり荷物も乱暴に投げ、真っ先に風呂に向かった。

何故かどうしても風呂に入りたかった。

身体に何か質の悪いものが纏わり付いている気がして、それを洗い流したかった。

風呂から上がると、部屋でしばらく放心状態だった。 とにかく疲れ果てていた。

食事もほとんど手がつかず、まだ20時前だったがその晩は強引にビールを

数本開けて酔った勢いで眠った。

目が覚めたのは午前3時だった。

酔いも醒め、眠ったせいか疲れも大分抜けて頭が冴えてきた。

僕は、ふと気付くと聞いた話を思い出そうとしていた。

どうしても、腑に落ちなかった。 妙な違和感を感じていた。 

それが何なのか分からず、しばらくAさんに聞いた話を繰り返し思い出していた。

何か・・・変だ。

おかしい事がある。

考え始めてから2時間が過ぎた頃、それが分かりかけてきた。

思わず呟いていた。

「村中が巻き込まれた事件で、何で、こんなに詳しい話が残っているんだ?」

「それに・・・読んだ馬鹿者は誰だ? 出てきたか?」

そう、Aさんの話にはおかしいところがあったんだ。

村では惨劇が起きた、はずだ。 じゃぁそれをここまで細かく伝えたのは・・・誰だ?

それに、Aさんは「読んではいけないものを読んだ馬鹿者」と、そう言った。

読んだ馬鹿者は話に出てきていない。 Aさんの話に出てきたのは

「読まされた女子」と「思わず見てしまった住職」しかいない。

言葉通りだとしたら、自分から読んだ人間がいたはずだ。

僕はすぐにAさんの家へと向かった。ただ、疑問や矛盾を取り払いたかった。

Aさんの家についたとき、まだ当たりは少し暗かった。

当然Aさんも起きている訳がなく、時間を持て余した僕はAさんの家の周りを

少し歩くことにした。

Aさんの家は昔ながらの日本家屋で、お世辞にも綺麗といえるような外観ではなかった。

アスファルトなんてものはなく、雑木林に囲まれているような感じだ。

車は少し離れたところに停めて、しばらく歩かなればならない。

Aさんの家を、遠巻きにぐるりと周り、家を正面から見て左手に差し掛かったとき、

すこし離れた場所に白い建物が見えた。

特に見たいわけではなかった。 ただ、なんとなく気になって近づいていくにつれ

僕の好奇心は不安へと変わっていった。

白いと思っていた建物は、白くはなかった。元は白かったのだろうが薄汚れていた。

かなり時間がたっているらしくところどころ壊れたところと、つぎはぎのように

板が打ち付けられていた。

さらに近づいて見ると、、、あぁ、何で来てしまったんだ。 土蔵だ。。。

古い、土蔵だ。 

目の前にあるのが、土蔵だと分かったときは、多分頭の中で全て結びついていただろう。

そして、その少し先には、、、何かの建物があったような大きな敷地の跡があった。

それが何を意味しているかはすぐに分かった。分かったが体が動かなかった。

何もしていいかも分からない。 完全に、その場で固まっていた。

固まったまま、僕は視線を動かせずにいた。

何故って、僕の視線の先には、、、視線の先には土蔵と、恐らく寺があった敷地が拡がっていたから。

さらにその光景は、一晩眠ってすっきりしているはずの僕の思考を混乱させるに十分だった。

まず、四方に小さなお堂があった。お堂と書いたが、正確には百葉箱のような感じだった。

全てのお堂に小さな扉があったが開かないように細工された閂のようなものが打ち付けられていた。

さらにそのお堂は対角線のお堂と対を成しているように向き合っていた。

後にも先にも、こんなお堂と、互いに向き合うよな建て方を見たのは初めてだったし、

それからも見たことがない。

中学の頃の記憶が甦った。

ただ、僕の意識はお堂には向いていなかった。 今思うと向けられなかったのだろう。

お堂お堂とを結ぶ、恐らくはその敷地の中心になるだろう場所にあるものに奪われていた。

そこにあったのは巨大な石碑が、注連縄を巻かれていて建っていた。

石碑といっても大きな岩を斜めに切り取られたような形だった。

切り取られた斜面には、何かしらが彫られているようだったが、近寄ることも出来ず

何が彫られているのか全く読めなかった。

ただ、その岩はそこに置かれてから随分時間がたって、雨ざらしにされてきたのは

分かった。

その石碑周りには渦を巻くような形で拳大の石が敷き詰められていた。

もう少し細かく言うと、石碑の右側から渦が始まり、少しずつ外へ向かって渦が

大きくなっていた。

中心に意識を奪われて動けない状況で、僕は自分の全身が震えていることを感じていた。

全身に鳥肌が立ち、体中から汗が噴出していることも感じていた。

最後まで気付かなかったのは、僕が泣いていた事だけだ。

多分、声を出していたと思う。

泣きながら、ただその中心に目を奪われていたんだ。

「おいっ!! こら!! オメェ何してる!!!」

その声で僕は叫び声を上げた、瞬間、体が動いた。

その後は、断片的な記憶しかない。 ひたすら土蔵と、石碑の反対側へと

駆け出して、雑木林の木にぶつかっては転び、立ち上がり、足がもつれては転びを繰り返しただろう。

気がつくと僕は、地面に押さえつけられていた。

「落ち着け! お~ち~つ~けぇ!!」

鼓動はいつまでたっても早いまま治まらなかった。 息もほとんど吸っていなかったと思う。

目を大きく見開いていたが、何が起きているのか全く理解できなかった。

目に映るものが何かを理解できなかった。

バチン! バチン! バチン!

「目が醒めたか!? あぁ? おぉ~いっ! しっかりしろぉ!!」

バチン!

顔を何度も平手打ちされ、僕はやっとそれがAさんだと分かった。

Aさんだと分かって、安心して泣いた。

恥ずかしいけど、子供のように泣きじゃくったんだ。

「うぅ~、おうぅ~。。 っ! おわあっあ、。あわあっあでう」

怖かったと言おうとしたが、泣きじゃくっていたせいでまともな

発音になっていなかった。

Aさんはしばらく黙って僕を見ていた。ただ、僕が落ち着くのを待ってくれていた。

30分くらい経っただろう。 僕はやっと落ち着きを取り戻し、Aさんが

助けに来てくれたことを理解した。

A「ふぅ~。なぁんか足音がすっから気になって来てみれば。。

  あんたみたいな人がここにいちゃいかん。ほれ、立てるか?」

僕「はい、あの、僕一体・・・。」

A「後で話ししてやっから。ほれ、行くぞ」

僕はやっとの思いで立ち上がり、Aさんに連れ添われるようにAさんの家に向かった。

Aさんの家についたときには、安心からかまた泣いた。

Aさんが出してくれたお茶がおいしかった。 そして、心のそこから「助かった」。

そう思ったんだ。

Aさんは何も言わず、煙草を吸っていた。

僕も煙草に火を点け、煙を吸い込むと急に力が抜けた。

安堵感からか、それとも憔悴間からか、煙草を吸うと心が落ち着いた。

やっと、何が起きたかは理解できたつもりになった。 Aさんへ尋ねた。

僕「Aさん。 僕がいた場所は、あの寺と土蔵だったんですね?」

Aさんは僕を一瞥し、困ったような顔を見せて煙草を吸い続けた。

煙草を消すと、一言「まったく」と呟いた。

そこから、ぽつりぽつりとAさんは話してくれたんだ。

A「まさかあんたが、こんなことになるなんてよ。

  あんたが見た通り、あそこは話に出てきた寺と土蔵だ。

  まさかあんなところまで行くなんてよ、あんたも大概長生きできねぇな。

  行くなっつってもいくんだからしょうがねぇよな。

  話してやっからこれ以上近づくなよ。」

僕「はい。もう近づきたいと思いません。」

A「約束だぞ。 いいな。」

僕「約束します」

A「昨日の話には続きがあってよ。

  村中の人間が巻き込まれたけどよ、それでも全部っつう訳でもなかったんだな。

  中には心の優しいヤツもおった。 ただ、女子が寺に連れて行かれるとき、

  止めることができる者はおらんかった。

  自分が止めとれば、こんなことにならんかったと、そう思う者も少なくなかった。

  自然と、後悔からか、償いからかなのか、きちんと弔ってやりたいってことになったんじゃろう。

  遠出をして、偉いお坊様に来てもらったんじゃと。

  お坊さんは弟子を二人連れて三人で来てくださったそうじゃ。

  そこで村の者は一部始終を話した。

  お坊様はエライ哀れんでくれてなぁ。

  早速弔いの準備を始めて、村人達にも手伝うように言ったそうじゃ。

  七日七晩、弔いは続いてなぁ。

  そりゃそんだけのことだったろうからなぁ。

  やっと弔いが終ろうかという時、ほれ、あっただろう?」

僕「え、何ですか?」

A「土蔵」

僕「土蔵・・・」

A「肝心の土蔵を最後に弔おうってことで、お坊様と弟子三人は土蔵に入った。

  そこで、見つけたそうじゃ」

僕「・・・本、ですね」

A「あぁ。お坊様も弟子も話は聞いていたからすぐに目を逸らして村人に風呂敷をもってこさせた。

  村人から風呂敷を受け取ると、直では触らないように包んで札を載せ、数珠で巻きつけたそうじゃ。

  決して魅入られないように、目を向けないようにしながら土蔵でお経を上げつづけた。

  そして、長いお経が終わって、こう言ったそうじゃ。

 “これは私がしっかりと供養する、ご安心なさい”

  村人は安堵の息をついた。

  弔いも済み、お坊様が帰ると言い出したとき、村人は感謝の気持ちを込めて

  一晩だけでももてなしたいと言い出した。

  古い村ではそういうしきたりが強くあったんじゃよ。」

僕「それじゃぁ、これでやっと終わるんですね。 あの石碑はそのお坊さんが、、、」

A「違う。」

僕の言葉をさえぎるようにAさんが言った。

A「お坊様をもてなした晩、例の本はお坊様が肌身離さずお持ちになって決して

  他の者には目に付かないようにしておった。

  夜も更け、その晩は村人がよういした床についたそうじゃ。

  その晩、弟子の内の一人がその本を持ち出した。」

僕「・・・」

A「勝てんかったんじゃろうなぁ。 見てはならぬ、触れてはならぬと強く

  言われれば言われるほど、見たい触れたいが人間なのかもなぁ。

  本を持ち出した弟子は、月明かりの下でそれを開いたそうじゃ。。。

  そして、先の二人と同じになった。

  すぐに異変に気付いたお坊様と村人は、それが何故なのか、

  駆けつけたときにはもう分かっておった。

  そして、その弟子を、残った村人で殺したんじゃ。」

A「お坊様は、土蔵でやったとおり、本をしまった。ただ、前とは違っていた。」

A「石碑があったじゃろう? あの下に穴を掘ってな。

  おかしくなってしまった弟子と、その本をその穴に入れると火をつけて

  燃やしたんじゃ。

  それからこう言った。

 “これから私は私の弟子のために一生ここで供養する”

  あそこに石碑がたったのも、四方に堂を作ったのもお坊様に言われて用意したものじゃ。」

僕「それじゃぁ、あの下には」

A「恨みつらみや、悪いものを埋めたんじゃ」

僕「・・・。

  それじゃぁ、僕はあそこで何か悪い霊に・・・」

A「馬鹿言うな。 幽霊なんぞおらん。 あんたが勝手に怖がっただけじゃ。

  それがあんたを縛りつけたんじゃ。

  勝手にやって来て、勝手に見ちゃいかん場所を見つけて、幽霊なんて

  言うとる時点であんたはなーんにもわかっとりゃせん。

  ええか、もっかい言っとくぞ。 本当に怖いことが分かっとらん内は

  あんま余計な事に顔を突っ込んじゃいかん。 

  ええな?」

僕は、浅はかだった。 「怖い」って気持ちは知っていてもそれがどこから来るのか

全く分かっていなかった。

Aさんは、恩師だ。 

ほんの少しの時間しか一緒に過ごさなかったけどそれでも大切な事を、出会ったばかりの

何も知らない、幼い僕に教えようとしてくれていた。

僕は、勇気を出して最後の疑問を問いかけた。

僕「Aさんは、、、誰にその話を聞いたんですか?」

A「・・・」

A「弟子は二人おった。

  一人は死んだ。、一人はお坊様と一緒に、兄弟子のために一生を供養することに捧げたんじゃよ。

  その村の村人になってな」

僕「Aさん。 じゃぁAさんは・・・」

A「わしで最後だろうなぁ、、、こんな時代だからなぁ。もう随分、、、薄れたじゃろう」

Aさんとはそれ以来会っていない。 もう随分お歳を召されただろう。

別れ際にAさんから言われた言葉を時々思い出す。

 “見てはいけない、触れてはいけない、聞いてもいけない。

 そういうもんには理由がある。 あんたも大概知りたがりかも

 知れんが、やめとくがええぞ。 世の中には訳の分からんことばかりだで”

これが、僕が経験した二つの大きな事件の一つであり、Aさんとの出会いで

僕は自分が経験した恐怖から開放されました。

僕の“恐怖に対する興味への源泉”は、1ヶ月ほど前に投稿してどうしても先に進めずにいる

「螂蛆食蛇、蛇食蛙、蛙食螂蛆、互相食也」にて必ずお伝えします。

長文、駄文、それに説明めいた追記が多く読みにくい箇所も多かったと思います。

ここまでお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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怖かった~(ノД`)
読みやすくて面白かったです。