ファミレスを出て、下の駐車場に下りた時には、Kの姿はもうどこにも無かった。
Kのアパートに行こうかとも思ったが、何となく気が引けた。
(Kと彼女との間には、俺なんかが介入出来ない何かがあるんだ)
そう思うとなんだか少し寂しかった。
某私鉄駅に向かってとぼとぼ歩いていると、いつの間にか、Kが少女の霊に取りつかれたらしい現場に差し掛かっていた。
俺はマンションを見上げながら、
(Kも大変だよなあ、普通に歩道歩いてて憑かれるんだから・・・)
などと考えていた。
ふと、Kの言ってる事が事実なのかどうなのか、確かめてみたくなった。
(俺が何も見えないもんだから、騙されてるんじゃあ?)
まあ、少し酒でも飲みたいという気分だった事もあり、俺は最初に目についた居酒屋の暖簾をくぐった。
店内は結構賑わっていた。
カウンターに座って生ビールと枝豆を注文し、俺は地元の人間っぽい客を探した。
だが、よく考えてみりゃあ、いきなり
「このあたりで女の子が父親をナイフで殺したというような事件ってありましたかねえ?」
なんて聞けるわけなかった。
結局何も聞けないまま、居酒屋を出た。
(俺も・・・どうかしてるわ・・・)
私鉄を何度か乗り換えて自分のアパートに着いた時には、時刻は既に10時を回っていた。
テレビのお笑い番組も、いつもほど面白くない。
(さっさと寝るか)
と思っていたところに携帯が鳴った。
覚えのない番号だった。
出るといきなり
「せんぱーい、一体今どこにいるんすかー」
Kだった。
「先輩の番号調べるの、苦労したんすからー」
少し酔ってるようだ。
Kの言うには、先にファミレス出たわけじゃなくて、会計を済ませた後、トイレで大をしていたらしいのだ。
「僕が勝手におかしな話したのに、急に興奮しちゃたんで、怒って帰っちゃったのかと思いましたよー」
俺は嬉しかった。
へたすりゃ一生、Kと話する事ないかもしれねーなと思ってたから・・・
一人っ子の俺は、知らず知らずの内に、Kの事を弟のように感じてたのかもしれない。
「ところでK、いつ携帯買ったんよ」
「いや、先輩、これS(彼女)のです・・・自分のはやっぱいらないっす」
Kの後ろでSの笑う声がした。
俺たちは翌日3時に学食で合う約束をして携帯を切った。
サークルの事なんか、もうどうでもよくなってきた。
次の日、3時に学食行ったら、Kはもうコーヒーを飲んでいた。
昨晩のトイレ事件の話で盛り上がった後、Kは俺に言った。
「先輩って変わってますよね」
「お前に言われたないわ」と俺。
「いや、そういう意味じゃなくて、先輩・・・ひどい霊媒体質なのに、今まで一回も、金縛りに遭った事無いんでしょう?」
「俺、そんなひどいんか?」
Kはニヤニヤ笑いながら、「いや、ひどいってもんじゃないっす」
断言した。
「先輩、沢山の霊に憑依されたアパートあったじゃないですか」
「ああ・・・俺には分からんかったけどなあ・・・」
「それがそもそも変なんですって!あの状態なら、完璧、体調を崩してる筈なんですから」
「へー」
「だいたい、そのアパート決める時に、守護霊さんが先輩に、何度も警告してる筈なんですよ、ここはやばいって」
Kは二杯目のコーヒーを買いに行った。
戻って来たKに俺は言った。
「てことは何か?俺は鈍感って事か?」
「超が付きます」
Kが笑った。
「でも、そのお陰で先輩に会えたんですよね」
俺の守護霊がKと引き合わせたという事らしい。
「ところでK・・・Sの兄さんの話なんだけど・・・」
Kの表情から笑みが消えた。
・・・続きます
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話