猪木はおよそありえないような数々の出来事を平然と起こす。
日本プロレス時代のクーデター事件
女優倍賞美津子と結婚
ストロング小林戦
シンとの抗争で新宿伊勢丹事件に発展
格闘技世界一決定戦
モハメド・アリ戦
アクラム・ペールワン戦
極真空手と抗争
意味不明の事業アントンハイセル
政治家への転身にイラク人質解放他
最近では永久電池発明事業などがある。
その猪木事件史の中でも強烈なインパクトを与えたのが幻の対アミン大統領戦である。レフリーはモハメド・アリ
前代未聞の大企画である
よくもこんな狂った事を思いつくものだが、興業プロデューサーの怪人康芳夫が企画したのだ。この男も狂っていて、石原都知事をリーダーにしてネス湖にネッシーを探しに行ったり、モハメド・アリの防衛戦を日本でやったり、類人猿オリバー君を来日させたり、空手家対トラを実現させようとしたりだ。
そんな康はあの猪木vsアリも手掛けている男。その怪人は思った。「もはやモハメド・アリを超えるインパクトのある相手はいない。」
そこで白羽の矢が立ったのが一国の大統領なのだ。
しかもその大統領はスターリンやヒトラーや金正日級のような恐怖の独裁者である。 アフリカはウガンダのアミン大統領である。
軍参謀総長だった1971年1月に、クーデターでオボテ大統領政権を打倒して政権を奪取。
アドルフ・ヒトラーを強く尊敬し、1970年代のウガンダに独裁政治を敷いた。
そして反アミン派の国民約40万人を大虐殺し、「アフリカで最も血にまみれた独裁者」と称された男なのだ。
そのアミン大統領はボクシングの元アフリカヘビー級王者
例えばある時アミン大統領は大観衆の前で死刑囚とボクシングのような試合をした。
そしてまったく無抵抗の死刑囚を死ぬまで殴り続け、「刑を執行した」などと言うのだ。 それをテレビ中継させるなど暴虐の限りを尽くしていたのである。また虐殺した国民の肉を食っていたという噂もある。
康はこのような男に猪木との対戦のオファーを出したのだ。そして猪木も「戦ってやる」というのだ。
早速康はアミン大統領にコンタクトを取り交渉が始まった。
そしてさらに驚くべき事にアミン大統領はこの話に乗ったのだ。そしてとんとん拍子に契約が成立しマスコミに発表されたのだ。
しかし試合の一ヶ月前にウガンダでクーデターが起こりアミン大統領は失脚しサウジアラビアに亡命してしまい、この前代未聞の一戦は幻と消えてしまったのだ。
ウガンダの人々は鬼畜みたいな奴が消えて喜んだがこの試合が実現しなかったのは残念でならない。
康は「SPORTS COMMUNICATIONS」の二宮清純のインタビューに答え当時の事をこう語っている。
二宮「ウガンダの大統領だったイディ・アミンと猪木さんの試合も話題を呼びましたね。」
康「アミン大統領との試合は契約まで交わしたんです。日本で発表して、猪木君と記者会見を開いたから、新聞に大きく出たんですけどね。でも、結局、アミン大統領が亡命してしまったので、試合は実現しなかった。」
二宮「アミン大統領はボクシングの世界チャンピンでもあった。」
康「イースタンアフリカのヘビー級チャンピオンです。今でもどこかのテレビ局に行けば試合のフィルムがあると思います。」
二宮「それにしても、いくら昔ボクシングをやっていたとはいえ、現役の大統領がリングに上がるのは前代未聞ですよね。」
康「そりゃあ、もう(笑)。当時の駐日ウガンダ大使が、外務省を通して厳重に抗議してきましたからね。「我が国の大統領が、プロレスラーと試合するなんてありえない」と。しかも、アリがレフェリーですからね。大問題になってしまったわけです。その前に、アリと猪木が試合をしていますから。」
二宮「でも契約まで行ったのはすごいですね。」
康「アリが仲介したんです。アリと同じくイスラム教徒だったアミンにとって、アリは神様のような存在でしたから。もう1つの大きな理由は、アミンはミャンマー(当時ビルマ)に英国兵として行って、日本兵と戦っていた。それで日本が敗戦して、日本の岩国に駐在したんです。
半年くらいいたのかな。彼はすごく親日家でもあったんです。私としては、アリ×猪木戦が実現した後だったから、よほどの相手を見つけないといけない、と。ただ、交渉がスムースにいくと思わなかったですね。
うまく2つの要因が重なって、OKをもらうことができたんです。しかし当時、内戦が起こって、彼はサウジアラビに亡命してしまった……。」
二宮「なるほど、実現まであと一歩だったわけですね。ところで、アミン大統領というと「人食い大統領」とも呼ばれていましたよね(笑)。」
康「私は何度かウガンダを訪ねたんですが、アミンの大統領執務室の近くの倉庫に大きな冷蔵庫があって、中を見せてもらったことがあるんです。最初は何だかわからなかったんですが、よく見ると、中に雪ダルマになった人間の首がぎっしりと入っていた。さすがにギョッとしましたよ。」
二宮「人間の首!? 本当に人を食べていたんですね!」
康「いや、さすがにそれはないと思います(笑)。言ってみればデコレーションですよね。1つ1つにいつ殺したかと日付けと名前まで書いてありましたからね。」
二宮「すごい話だなァ……。アミン大統領は、独裁政治で反体制派の国民を何十万人も虐殺したと言われていますよね。」
康「そう。「ブラック・ヒトラー」とも呼ばれていた。僕も試合を発表したときには、不謹慎だとずいぶん非難されました。結果的になくなってしまって、助かったのかもしれない(笑)。でも猪木君は今でも、本気で残念がっていますよ。」
やはり猪木は狂っているとしか思えない。
そして狂っていないとアントニオ猪木ではない。
怖い話投稿:ホラーテラー 雫さん
作者怖話