中編5
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スバル

これは俺が九州の田舎に帰った時に体験した話です。

当時15歳だった俺は、毎年のように九州にある福岡の田舎へと帰っていました。

田舎と言うだけあって本当に遊ぶ施設も何も無く、外灯すら乏しいような所。

夜になると結構暗く、子供一人で出歩くには不安なぐらいでした。

田舎ではいつも、爺ちゃん、婆ちゃん、叔父、俺と言った感じで食事を取っているのですが、その時は叔父の仕事が忙しい為に叔父を除く3人で食事を終え、その後に叔父から「今日は遅くなるからご飯いらないよー」と電話がはいりました。

叔父の仕事は寺の住職をしており、帰りが遅くなる事は早々珍しくはありませんでした。

けど叔父の連絡も既に遅く、婆ちゃんは4人分の食事を作ってしまった所で、婆ちゃんが叔父の食事を弁当にして持っていく。といいました。

だけど一人で老人が夜に出歩くのはいくらなんでも危ない。

という事で叔父からは止められたのですが、それだったら代わりに俺が行く。と電話で言いました。

俺は少しながらも格闘技の心得があったし、スバル(アラスカンマラミュートの飼い犬)を連れて行くから大丈夫。と言うと、叔父も納得してくれました。

スバルは俺が4歳の頃、田舎に貰われてきたマラミュート犬で、俺が田舎に来た際は必ず出迎えてくれる可愛いし賢い奴でした。

婆ちゃんから弁当を受け取り、家の中に居たスバルを連れ出して早速出発。

叔父の居る寺から家はそう遠くは無く、普通に行けば徒歩10分もかからず到着できる距離なので、特に何も心配していませんでした。

家の周りは山で囲まれており、野生動物が多々出現してその被害もたまにあるので、撃退用に!と、夜外にでる時や山に入るときはガスガンなどをぶら下げていました。

ちょうど家の付近にある竹やぶに差し掛かった時、俺は「ここを通ればおっちゃんの居る寺へのショートカットなんじゃないかな?」

なんて思い、迷うことなく竹やぶへはいりました。

確かにこのまま進めばショートカットになり、寺の付近に出られるのは昔からこの近辺で遊んでいたので知っていました。

スバルも居るし、エアガンもあるしなんだか探検みたいだ。なんて気軽な気持ちで進んで居たのですが、そこで異変に気がつきました。

性格に言うと、まず気がついたのはスバルの方だと思います。

いつも大人しくて他の犬を見ても吼える事の無いスバルが、急に牙を剥いて尻尾を立て、威嚇するような素振りを見せながら一定方向を凝視していました。

最初は俺も何がなんだかわからず、スバルのリードを引っ張って突っ切ろうとしたのですが、明らかにスバルが視線の先を視界から外そうとせず、そのままずっとにらみながら唸り続けているのです。

流石にこれは何かおかしい。

と思った俺は、竹やぶの奥をよくみてみました。

眼を凝らすと、暗い竹やぶの中で何故か一箇所だけ黒い塊が見えました。

当時の俺も幽霊と言う存在をどちらかといえば信じていた方なので、ビビリながらも「誰だ!」とガスガンを構えつつ、黒い塊を見据えたまま逃げようと寺に向かう方向へ後退りました。

すると次の瞬間、その黒い塊がこっちへと間合いを詰めてきました。

塊との距離は結構あったし、のそのそと詰め寄る感じなので直ぐ追いつかれるなんて事はありませんでしたが、何かとても気持ち悪い物を感じました。

それに度肝を抜かした俺は、反射的に片手に持ってたガスガンのトリガーを引きまくりました。

正直言うとこの時は、怖くて混乱しまくっていた状態だったので、当たったかどうかなんて判断できませんでした。

そのままわーわーと叫びながらトリガーを引き絞りつつ、スバルに目をやりました。

するとスバルは、あろうことかダッシュで塊の前に近寄り今まで見たことのないような形相と勢いで吠え掛かりました。

すると、急に黒い塊が消え、ライトを当ててみても特に何も発見できませんでした。

殆どパニック状態だった俺は、「来い!スバル!!」と命令し、そのまま叔父の居る寺へと急ぎました。

到着して叔父に敬意を話すと「スバルは喧嘩とか全然せえへん。けど大好きなお前のために頑張って立ち向かおうとしたんや。しっかりほめたれや」

スバルの頭を撫でながら、叔父はニコニコと笑いながら、とりあえずお払いだけでもしとこか。と、お堂を離れて道具を取りに行きました。

叔父が戻ってくる間、ずっとスバルを撫で続けながらありがとな、ありがとなと、俺はスバルに言っていました。

お払いが一通り済み、家に帰った後も一人で寝るのが怖かったので、スバルと一緒に布団へ入りました。

夜もなんら変化無く、その後も普通に過ごし、田舎を離れて自分の家へと帰りました。

それ以来、自分は幽霊と言った類の物が見えたことはありません。

たまに気持ち悪いと言うのは感じるのですが、見えた事はありませんでした。

その1年後、眠るかの

ようにスバルは息を引き取りました。

俺はその時家に居り、スバルの死に際に立ち会う事はできませんでした。

それから、少しばかり不思議な事が起こりました。

去年のスバルの命日、スバルと自分が寺で遊んでいる夢を見ました。

寺では何度も何度も遊んでいたので、おきて夢を思い返した後は、そっか、命日だから思い出したんだな。なんて思いつつ、学校に行く準備をしていました。

するとです、急に玄関の方から「ワォン!」

と、大型犬独特の鳴き声が聞こえてきました。

うちはマンションで、同じ階の人間は誰一人として犬を飼っていませんし、ましてや住んでいるマンションに大型犬を飼っている人なんて居ませんでした。

もしかしたら幻聴かもしれませんが、鳴き声はスバルがよく自分を呼ぶときに鳴いていた声に似ていました。

スバルが自分に会いに来てくれたのかも。

なんて少し嬉しくなりました。

彼が無くなって今年で2年たちますが、今でも彼の首輪とリード、俺と一緒に写っている写真は、しっかりと机の上に並べて保管しています。

長文で失礼しましたが、今日彼が夢に再び出てきたので、思い出しながら書かせていただきました。

怖い話投稿:ホラーテラー まーふぃーさん  

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