(俺はもうダメだ…)
ビルの屋上から、はるか地上を見下ろし呟いた。
会社の金を使い込み、人生をかけて買った株は、暴落の一途をたどっていた…
(死ぬ…しかないか…)
俺は覚悟を決め、屋上のフェンスに登ろうとした。
その時、後ろから声がした。
「あのー…死ぬんでしたら、今の気持ちと、最後に残す言葉だけでも、教えてくれませんかねえ?」
振り返ると、そこにメガネをかけた貧弱そうな男が立っていた。
ノートとペンを持ち、俺の事をじっと見てる…
俺は、メガネ男の態度に腹が立った。
今、死のうとしている男に、普通そんな言葉をかけるか?
「ふざけるな!お前、どういうつもりだ!」
怒りにまかせて怒鳴ると、メガネ男は言った
「ご、ごめんなさい…僕小説家を目指してて…自殺する人の気持ちを知りたかったんです。」
俺は呆れた…
コイツは、自殺する人が現れるまで、ここでずっと待ってたのか…
「お前なあ!」
俺が文句を言おうとした瞬間、屋上への入口のドアがバンッと開いた。
ドアから出てきたのは、備員のおっさんだった。
「おい!何をしている!」
警備員のおっさんは、青い顔をして叫んだ。
俺は、死ぬ気力も失せて、警備員のおっさんに言った。
「今、俺は、ここから飛び降りようとしたんだ。だが止めた。もう止めたよ…すまなかった。そこのメガネ男に…そこの……あれ?」
俺が指さす方向にメガネ男はいなかった。
警備員が言う。
「メガネ男って、小説家志望の男でしょう?その男も、ここから飛び降りたんだよ…
あんた…助けられたんだね。」
警備員のおっさんは、優しい口調で話た。
「あんた…死んで何になるんだ。金か女か知らないが、死んだら終わりなんだよ。」
俺は、警備員のおっさんにもたれ掛かるようにして泣いた…
と、その時、屋上への入口のドアがバンッと開いた。
ドアからあらわれたのは、年老いた警察官だった。
「おい!お前!こんな所で何をしている!」
何って…自殺を…
あれ? おっさんは?警備員のおっさん何処へ行ったの?
警察官は聞いてもいないのに語り出した。
「人間年老いたら死ぬんだ…今死んで、どうなる!
全くいまの若いのは…」
と、その時、屋上への入口のドアがバンッと開いた…
疲れきったサラリーマンが出てきた…
サラリーマンが何か語り出す前に、俺は逃げ出した。
ありがとうと呟いて
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話