中編5
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ゴボッゴボッ…

10年前、高校を卒業し、アパートで一人暮らしを始めてから4日目のある晩のことです。

そのアパートは、学生用アパートなので安かったのですが、その部屋は八畳半の広さで風呂もありトイレやキッチンもついて、なんと家賃が9000円と激安でした。

当時学生で家が貧しかったため仕送りもなく、バイトだけでやりくりしていく俺には、かなりの好条件でした。

家の中の設備もこれといって悪いわけでもなく、何故こんなに安いのか分からない程でした。

俺はいつものように大学から帰ると、夏だったせいもあり風呂にまっさきに入ることにしました。

風呂の扉は曇りガラスになっており、扉を開けないと中の様子がぼんやりとしか分からない様になっていました。

蛇口からお湯をだし、風呂がたまるまで部屋に戻りテレビを見ていた時です。

ゴボッゴボッゴボッ…

何やら、水がつまったような音がどこからともなく聞こえてきました。

不思議に思いながらも、そろそろ風呂のお湯がたまったかなと思い風呂の扉の前まで来ると、

音は一層大きくなりました。

ゴボッゴボッボッゴボッ…

どうやら、音は風呂場の中から聞こえてくるようでした。

扉を開けると、足に熱い液体が流れてきました。

お湯が半分くらいたまったちょうど良い頃合いだと思っていたのに、お湯が溢れ出て風呂桶から流れ落ちていたのです。

そしておかしなことに、風呂に入る前にお湯がたまるように栓をしておいた風呂桶の中の排水溝のフタが、無造作に風呂桶から出ていたのです。

あのゴボッゴボッゴボッ…という音は、風呂桶の中から聞こえていました。

なんかつまってる…?

そう思いながら、風呂桶の中を覗いた時、心臓が凍り付くような気持ちに襲われました。

排水溝の穴から、黒く長い髪の毛が大量にはみ出していたのです。

その髪の毛と一緒に血のようなものが滲み出ていて、排水溝の周りに沈着していました。

髪の毛や血とともに排水溝の穴からは、人が呼吸でもするかのように空気の泡が小刻みに出てきていました。

音は、髪の毛と髪の毛が絡まったわずかな隙間にお湯が入り込んで、そこから泡がでるときにゴボッゴボッゴボッ…となっていました。

とっさに逃げようとしましたが、何故か急に体全体がピクリとも動かせなくなっていました。

目さえも動かせず、風呂桶を覗き込んだままの状態で金縛りにあってしまったのです。

どうすることも出来ずに、排水溝の穴を見ていたその時でした。

穴から、水でふやけて腐敗しきった三本の白い指がスーッと出てきたのです。

怖くて叫ぼうにも声さえ出せませんでした。

その三本の指が出てくると、次はその三本の指とは逆のほうからまた三本の指が出てきました。

どうやら排水溝の穴から、何か異質なものが出て来ようとしているようでした。

しばらく動けないまま見ていると、排水溝からズルッと二本の、まるで水死体のように水分をすって腐敗した細い腕が出てきて、

両腕をばたつかせていました。

腕をバタつかせるたびに排水溝の穴から血が滲み出て、腕から腐って取れた肉片がお湯にかき回されながら揺れていました。

徐々に風呂桶の中は赤く染まっていきました。

その光景を目を逸らすことさえできないまま凝視しつづけていたため、恐怖と吐き気が同時にきて気がおかしくなりそうでした。

その時、ゴボッゴボッゴボッ…と言う音ともにバキッ!ペキッ!という骨が折れるような音が穴から聞こえてきました。

すると、穴からまるで骨を砕いて肉の塊だけにしたかのように、ズルッズルッと穴の大きさにへこみながら頭が出てきたのです。

どうやら顔は半分しかだしていませんでしたが女性のようでした。

顔の皮はふやけてところどころずり落ち、ピンク色の筋繊維のようなものが露出していました。

目は真っ赤に血走り、俺を睨みつけていました。

もうだめかもしれない…そう思った時でした。

ズボンのポケットに入れていた携帯の着信音が鳴ったのです。

と同時に金縛りが解けたのか、体が自由になりました。

俺は死に物狂いで風呂場を飛び出すと、玄関に走ろうとしました。

しかし、腰が抜けて風呂場をでてすぐにへたり込んでしまったのです。

へたり込むと同時にすぐに俺は電話にでました。

俺「もしもし…助けてくれ…」

電話は運良く、すぐ隣のマンションに住む友人からでした。

友人「いきなりどうしたん?」

俺「いますぐ走って俺のアパートに着てくれ…頼む…」

俺の真剣な訴えに友人もただごとじゃないと思ったのか、

「分かった!すぐいく!」

といいました。

3分後ぐらいに友人が玄関から入ってきました。

友人は俺を見るなり、何やってんだよ!!と俺を担ぐとアパートから抜け出しました。

何も事情を知らないはずの友人が必死の形相で俺を担いだまま、自分のマンションの部屋に連れて行ってくれました。

何故か友人が冷や汗を大量にかいていました。

友人「何だよ…あれ…」

俺は何故友人がこんなに怯えているのか気になり聞いてみました。

俺「なんでお前がビビってんだよ?」

すると友人がいいました。

「お前気づかなかったのかよ!風呂の扉の曇りガラスに水死体みたいな女が顔と両手をへばりつけてお前を睨んでたんだぞ!」

その日のうちに携帯で両親に電話し、事情を話して何とか説得し翌日には他のアパートに移る事になりました。

ただ、もう一度あのアパートに戻り、引っ越す準備をしていた時。

ゴボッゴボッゴボッ…

風呂場からあの音がきこえたような気がしましました。

俺は足早に荷物をまとめるとその部屋を後にしました。

あのアパートが安い訳も十分納得がいきました。

あれからあの部屋がどうなったのか。

あの日以来、一度もあのアパートに近寄らず、それから3年後に大学を卒業してあの地を遠く離れた俺には、分かるはずはありませんでした。

ただ、最後にあの部屋で聞いたゴボッゴボッゴボッ…と言うあの音が、あの体験から10年経った今でも、耳に焼き付いて離れないのです。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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