中編6
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「青木」からの電話

今は社会人となっている私の中学生時代に経験した話を投稿させていただきます。

私の通っていた中学校は板橋区にあり地元在住の生徒がほとんどで、同学年の生徒の2割ぐらいは幼稚園からの知り合いがいました。

野球部に所属しており、部員の中にも幼稚園からずっと一緒の友人がいて、中でも阿部と斎藤の二人とは幼稚園の頃からいつも一緒に遊んでいた仲間でした。

阿部はいつもはおちゃらけていて皆の人気者ですが、冷静でしっかりとした性格でリーダー的な存在でした。

反面、斎藤は普段は物静かですが時々に大胆な行動をとる男っぽい性格でした。

そんな私達が3年生となったある日の事。

練習が始まる前に部室で着替えていた私の前に阿部がやって来て、

『昨日、青木って奴から電話掛かってきたんよ。幼稚園時代の同窓会やるから来ないか?って。。』と言ってきました。

「青木??」誰だっけと二人共に思い出せずにいると、ガラガラっとドアを開けて斎藤が入って来ました。

阿部と私は斎藤に「青木」の話をして覚えているか尋ねると、斎藤も全く見当がつかない様子でした。

その日の内は「青木」の話もそこまででいつもの様に練習をして、いつもの様に帰宅をしました。

その後に起こる事など知る由も無く。

青木から阿部に電話があった2日ぐらい後の事です。

昼休みになりクラスの友人と教室で話をしていると別のクラスである斎藤が入って来て、

『俺にも青木から電話が掛かって来た!』と言ってきました。

斎藤と私は阿部のいるクラスの教室に向かい阿部に「青木」の電話の件を話しました。

すると阿部は同じ幼稚園だった奴らに聞いてみようと、幾つかのクラスを廻って何人かに聞きましたが、誰一人電話は掛かってきていませんでした。

少しずつ頭の中に「不安」「疑問」が芽生え始めてきていた私達3人は部活が終わった後に阿部の家に向かい幼稚園の卒園アルバムを見る事にしました。

3人で表紙をめくる時には少し懐かしくて私達の大好きだった「純子先生」の思い出話などで「不安」な気持ちは全く無かったのですが自分達がいたクラスである「桃組」のページになった時に3人共に無言になりました。

「青木」は・・・いたのです。

見つけたのと同時に嫌な思い出が頭をよぎりました。

「桃組」の皆はおとなしい青木を最初はからかって遊んでいました。

ただ何も抵抗せずに全てを受け入れてしまう青木に対して、からかう事がイジメに発展してしまいました。

積み木を投げつけたり青木の絵本を破ったり、幼稚園の制服に落書きをしたり・・・。

大人になった今考えると幼稚園生なのに酷い話だと思える様な内容でした。

その為に青木は幼稚園に出席しなくなり私達が見たアルバムの集合写真には青木の姿は無く、右上の端に切り抜きで載っている状態でした。

私達が「なんかヤバい」と感じたのは、そのイジメを先頭切ってたのが私達3人だったからです。

徐々に「不安」から「恐怖」に変化してきている感情を隠しつつ、私は阿部の家から自宅へ戻りました。

私の両親は離婚しており母親と二人暮らしでした。

母親は夜には仕事に出ていたので帰宅してもいつも一人で作り置きの夕飯を食べる毎日でした。

帰宅して着替えて居間のテーブルに座った時に夕飯の横に一枚のメモを見つけました。

母が書いたメモです。

『夕方、青木君から電話有り。また掛けるそうです。』

私はメモを見て「恐怖」で頭が混乱しつつも夕飯を食べてテレビを見つつ、母親の帰りを待っていました。

ただ母親の帰宅よりも先に、、、

プルループルルー

電話音に驚くぐらいの「恐怖」に駆られながら恐る恐る受話器を取ると、受話器の向こうからは低い声でユックリとした口調で、

『青木です。覚えてますか?』

私は生唾を呑むのを悟られないように返事をしました。

『覚えてますよ。』

すると青木は

『来週、同窓会やるから』と日付と時間を指定してきました。集合場所は幼稚園の正門前だと。。

誰が来るのかと尋ねると青木は、

『それはお楽しみ。でもね・・・』と受話器の向こうでニヤケて話しているのが想像できるような口調で、

『特別ゲストで純子先生も来るよ』と。

私は話の途中で突然「恐怖」で思いっきり電話を切りました。

「恐怖」で震えました。

何故なら純子先生は何年か前にガンが原因で他界されているのです。

その日は青木からの電話は無かったのですが、帰宅した母親に相談しても

『たちの悪いイタズラよ』と、笑うだけでした。

翌日、阿部と斎藤に前日の電話の件を話し3人で相談した結果、集合場所に行ってみる事になりました。

私は乗り気では無かったのですが、強気の斎藤と阿部の勢いに負けたのと、臆病者と馬鹿にされるのが嫌で渋々行く事にしました。

そして当日。

集合時間は日も落ち、当たりは暗くなった時間でした。

幼稚園のある場所は住宅街であり公園と神社に挟まれ、夜になると人通りも全く無いような場所でした。

少し離れた場所で様子を伺おうという私の提案は二人に却下され堂々と正門前で待つ事にしました。

集合時間の10分前でも私達3人以外の誰も来るような気配も無く、なんの音もしない静かな時間が過ぎていきました。

集合時間が5分ぐらい過ぎた頃でしょうか?

正門の向こうの園内で何か音が聞こえました。

私達の3人共に聞こえようで一斉にに園内に目を向けると、全ての部屋の電気が消え暗くなっている3階建の園舎の2階の端の窓が開いており、そこに誰だか判らないのですが人影が見えるのです。

私達は「恐怖」で動けないのか「興味」なのか、そこを立ち去ろうとせず、人影を見ていると、じっとしていた人影は突然動きだしました。

何かを手に取り、それを私達に向けて投げ始めたのです。

その投げつけられた「物」は私達の足元に転がってきて初めて何か判りました。

積み木です。

しかもよく見ると赤い字で「殺す」「殺す」「殺す」といくつも細かく書かれていたのです。

私達は一目散に逃げました。

後ろを振り返りもせずに。

そのまま3人で走り続けて母親も帰宅前で誰もいない私の家の中に入りました。

ゼェゼェと息を切らしながら私達は私の部屋に入り座り込みました。

何なんだ!と思い、混乱していた私達は口数も少なくなり、徐々に乱れていた息も落ち着いてきた時です。

プルループルルー

恐る恐る受話器を取り耳に当てると、、

あの声で、、

『殺す』『殺す』

連呼しているのです。

ウワっと受話器を置きました。

阿部も斎藤もかなり怯えていて、帰れないから私の家に泊まる事にして2人共に親に電話をしました。

すると2人の親はそれぞれ同じ様に、

『青木君から電話があったよ』と。

これはヤバい。

かなりヤバい。

と思いながら、どうするか考えていると母親が帰ってきました。

母親は私達のいる部屋に入ってきて、こう言いました。

『家の前に男の子がいて、あんた達に渡したい物があるからってコレを・・』

大きな封筒でした。

開けるのも嫌でした。

私達は意を決して、ガムテープで止められた封筒を開けて中身を取り出しました。

中身を見て愕然としました。

ビリビリに破かれた「絵本」が出てきたのです。

そして表紙を開けると、そこには例の赤い字で、

「呪」

あれから何日も過ぎました。

青木からの電話も来ないし、何も起きてません。

何故なら私達は青木の住所宛てで謝罪の手紙を送ったのです。

イジメは幼い気持ちが生み出す物ではなく大人の世界でも目にします。

人間社会の悲しい部分です。

ただ、イジメられる側が受けるものは何年経っても忘れられる事の出来ない大きなものなのです。

大人になった私達が子供達が幼い時からイジメが良くない事を教えていかなければいけないと思います。

私は現在、人に教える立場の仕事をしています。

中学生時代に経験した「恐怖」の裏にあった事実を思い出して、同じような事が起きないように。。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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