中編5
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『封じ』 ふたつめ

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山門のあるチョッと立派な寺だった。入り口の前の広場に車を停め歩いて行くと寺内から60代くらいの男の人が出てきた。

「友明君、彼等が介添え人の方達かな?」

友明がそうだと応えて紹介しようとすると、その人は片手を挙げて制し、「名前なんてお互い知らなくていい。」 と続けて言う。

「ここでの事は原則、他言無用。しかし喋りたければ自由にしていい。どうせ誰も信じないからね。私自身、未だ見えないから。でも音だけは誰でも聞こえる。だからソレがいる事はわかるんだよ。さて、他の二人の御役が住職を見ているので、私は君達にこれからの事を簡単に説明する。この事の『云われ』や経緯は『封じ』が終わってからゆっくりと友明君からでも聞きなさい。じゃ~こっち来て。」

この人の言い方には最初「カチン」ときたが、後から俺と泰俊の身を心配してくれていた事を友明から聞いて知った。

連れて行かれたのは寺の左側の裏にある石造りの古い井戸。

木製の棒が口を塞ぐように滅茶苦茶に置かれ、その上に竹製のカゴの様な物で覆われていた。この井戸に魔物が封じられていて、無秩序と秩序で封をしているとの事だった。

しかし、この封は住職が死んで七日目の夜に解け、中から魔物が住職を喰いに出てくるそうだ。要するに直接の俺達の仕事は新しく封をする事で、新しい木製の棒を井戸の口にランダムに置き、その上にカゴ(カゴメというらしい)を被せるだけ。

ここで木の棒はキャンプファイヤーの時のように歪な格子状に置くのだが、一段目に七本。二段目に七本というふうに全部で七段組むように言われた。ただし六段目のみ八本の棒を使うように指示され、その八本目の棒一本のみ特別で何かの呪いが仕掛けているとの事だった。

残りの四十九本の棒はこの一本を護るダミーだ。ちなみに何段目にその一本を入れるかは毎回異なり、しかも一度封をしたら後は古くなって朽ちるにまかせるだけだという。次回の封は次の住職が亡くなる前にして、亡くなると再度、封をする。住職が亡くなる前後二回のみ井戸に

封じをするという事らしい。道理で木の棒が新しい訳だ。

一つ疑問に思ったので聞いてみた。

俺 「この封じをする時は、俺達居なくて良かったんですか?」

おじさん 「いきはよいよい、帰りは怖いってな。この封じは住職が死ぬ三日前に造ったもので「死蓋」(しにぶた)と言ってあまり力が無いんじゃよ。棒も一本足らん。住職が死んで力が強くなった魔物を再び封じる為にワザと破らせるものだ。そこで君達に組んでもらうモノは「生蓋」(いきぶた)。これは本当に出られんようにする封じじゃ。これが大切。」

「生蓋」をするのは「御役」の四人の中の一番若い者の仕事で当然、友明な訳で俺達な訳だ。大体の俺達の役割は理解出来た。多分いや絶対一番重要な役だ。(友明はともかく俺達二人はサポートだが・・)

おじさん「それじゃ本堂に行って住職を拝んでこよう。それからメシだっ。」

夕食前に遺体を見るのは勘弁だったが、普通に棺桶に入っていてチョクで見ることはなかったし、他の二人の御役は座ってお経を唱えていた。

今日で死後六日目の遺体。想像しただけで食欲は無くなったが、それを察した友明が「ちゃんと防腐処理してるから思ってるより綺麗だよ」とボソッと小さく言った。

寺の座敷でくつろいでいる所へ、年配の女の人が握り飯と味噌汁、簡単なおかずを差し入れてくれた。俺等を見ると

「産助殿(さんすけどん)ご苦労さんです。」 と口々に言う。

俺 「さんすけどんって何?」

当然、友明に質問。答えは何故か泰俊から返ってきた。

「多分、産助殿だろう。お産を助けるって意味だと思う。」

友明 「その通り。そんでやっぱ変って思うだろ?」

俺 「何が?」

友明 「だって魔物封じする俺達が産助殿だぜ?」

俺 「あぁ・・でも、そうか・・」 考えがまとまらない。

泰俊が握り飯をつかみ中に入っている梅干を取出して食べ始めた。

泰俊 「封じの経緯なんか聞きたい所だがヤッパ終わってからなんだろ?」 梅干の味がしたのか顔をしかめた。

友明 「ああ。余計な知識が無くても出来る事だし。アイツみたいに好奇心の塊みたいなヤツは知ったら知ったで何かしそうだしな。」

ワザと俺を見ずに友明が言う。確かに。自分でも納得したが、心の中にいまだある不安というか恐怖というか微妙な感情に俺は気付いた。

とにかく明日の夕方まで暇な訳で、(友明は忙しいみたいだが)俺と泰俊は寺内を散歩して暇をつぶした。そんな時、本堂の仏さん(住職)に線香をあげていると、泰俊が天井の方をジィッと見上げている。

俺も興味を引かれ見てみると横木が渡してあり、そこには木の札が二十数枚張られていた。

「おお~これは!!」と思っていると

「代々のこの寺の住職の名前じゃよ。」 と後ろから声がした。井戸へ案内してくれたおじさんだ。

「右端が初代。この封じの当事者の名だが、なかなか達筆で読めんだろ?確か今回亡くなった住職の二十六~七代前だ。」

言うだけ言うとおじさんは廊下へ消えた。

名札を数えたが二十四枚しかなかった。案外アバウトでホッとした。

だが、泰俊はその初代という人の名札を凝視したまま動かない。

「知ってる人?」

「ああ・・」

「ええぇ~マジ?」

「・・・お前はチョッと引っかかり過ぎ!ワザとかよ?」 笑う泰俊。

今の泰俊には余りにも似合わない笑顔だった。

辺りも暗くなり俺達の部屋にはすでに布団が敷かれてあった。友明は他の御役達と交代で寝ずの番だそうだ。部屋を出るとき

「今夜あたりから『音』が聞こえ出すけど気にすんな。」 とだけ言って行った。

寝て辺りが静かになると直ぐに『音』が聞こえた。

『音』というより『鳴き声』だ。「ミャーミャー」「ニューニュー」みたいなまるで子猫の鳴き声で、猫大好きな俺は思わず跳ね起きる。単純に暇だから遊ぼうと思ったのだ。

俺の膝を泰俊の手が押さえる。痛いくらいに力が入っていた。

「猫じゃねぇ。絶対に外には出るな。」 押し殺したような低い声。

一瞬寒くなり、俺は布団に戻った。甘ったるい、何とか助けてやりたい気分になる子猫の声だ。多分猫好きの人にはわかるだろう。

『声』さえ気にしなければ何という事もなく気がつくと朝になっていた。多分車の運転疲れもあったのだろう。

顔色の悪い泰俊はすでに起きていた。いや一睡も出来なかったそうで、「お前のキモの太さは凄い。」 おはようの挨拶の前の一言だった。

昼になり、いよいよ夕方になって俺はこの件でこれまで一番の衝撃に見舞われた。例の井戸の前の大木に人が吊り下げられていたのだ。

正確に言うと住職の遺体が。

落ち窪んだ目。アゴを縛られているが微妙に開いている口。青白く背中一面黒く変色した体。

どこか物見遊山的な気分は消し飛んでしまった。

俺達は魔物を『封じ』に来たのだ。

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怖い話投稿:ホラーテラー 最後の悪魔さん  

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