短編2
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バス停の視線

あれは、夏にしては肌寒い日だった。

夕立が過ぎて、さっきまで見えていた夕日が、もう沈むか沈まないかぐらいの時間帯。

見る間に辺りはすっかり暗さを濃くし、行き交う人の顔も見えづらくなっていた。

だから、これは僕の見間違いかもしれない。

その日、僕は予備校から帰る途中だった。

駅から自転車を走らせ、少しの肌寒さを感じながら、帰路へ着いていた。

その途中、いつも通る道で、いつものように、バス停の横を通り過ぎた。

時刻表が置いてあるだけの、簡素なバス停だ。

しかし、通り過ぎる僕の視界に、何かおかしなものが映った。

何故かは分からないが、僕は肌寒さとは違う悪寒を感じた。

それは、例えるなら誰かに見られているような、そんな感覚だった。

自転車を急ブレーキで停め、僕は振り返った。

いや、振り返らざるを得なかったと言う方が正しいか。

振り返ると、女がこちらを見ていた。

バス停の時刻表に寄り添うようにして立つ女が、こちらをじぃーっと見つめていたのだ。

普通なら別段気にも止めないだろう。

バスを待っていて、ふと通り過ぎる人を見ることはある。

しかし、その女は明らかに普通じゃなかった。

その女はちぢれた長い黒髪で顔全体をすっぽりと隠していたのだ。

表情が伺い知れないのがまた恐ろしかった。

目を凝らすと、時刻表に寄り添っているのではなく、時刻表に抱きつくような形で……ちょうど柱の影に隠れる子供のように、髪に隠れた顔だけを出して、こちらを見ていた。

背筋が凍り付く、という感覚を、僕は初めて感じた。

ひしひしと、悪意のような感情が伝わってきたのだ。

女の顔は見えないのに、視線だけが固形化してぶつかってくるようだった。

一目散に、自転車のペダルを思いっきりこいで、僕は逃げるようにその場を後にした。

その間もずっと見られているような感覚を背中に受けていた。

なんとか家に帰り着くと、僕はすぐに、効果があるのかどうかは分からないが、塩を撒いた。

以来、そのバス停は避けるようにしている。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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