中編6
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恐怖の公衆トイレ

近くの広い公園には二つの公衆トイレがあります。

一つは公園の改装の時に建てられた、新しいトイレ。

もう一つは改装前の昔からある、古いトイレ。

古い方の公衆トイレは、改装の時にも何故か手を付けられずそのまま残っているもので、改装の当時小学生だった僕達の間でよく噂になりました。

幽霊が出るだの、取り壊そうとしたら事故が起きただの、そんな感じの噂がほとんどでした。

おまけにほとんどの子が「公園で遊んでも、あの公衆トイレには近寄っちゃ駄目よ」なんて親から言い付けられていたので、古い公衆トイレの噂はますます増えるばかりでした。

そんなある日、友人のTが肝試しを提案したのです。

ちょうどその日は夏祭りで、帰りが多少遅くなっても親が大目に見てくれる数少ない日でした。

午後8時頃、公園には僕とT、それにSとYが集まりました。

Tは懐中電灯と、星のマークを描いたかまぼこ板を持っていました。

肝試しのルールは、まず一人がかまぼこ板を公衆トイレの一番奥の個室に置いてきて、次の一人がそれを持って帰ってくるというものでした。

一番手は、じゃんけんでYが行くことになりました。

正直な話、僕はビビり上がっていました。

しかし、昔からTと張り合うところのある僕は、彼の提案に乗らざるを得なかったのです。

しばらく待っていると、Yが戻ってきました。

順番にS、Tと行き、最後は僕の番でした。

Tは懐中電灯を僕に手渡すと「なんとも無かったぜ」と得意げに笑いました。

僕は対抗心を燃やしました。

「だったら、懐中電灯無しで行ってやる」

そう言って、公衆トイレへ向かったのです。

しかし公衆トイレへ近づくにつれて、僕は後悔しました。

外灯からも離れている上に、そのトイレには電灯もありませんでした。

つまり中はほとんど何も見えない真っ暗闇なのです。

その上、なにかヤバい空気が漂っているようにも感じました。

病院で嫌いな注射の順番待ちをしているように、皮膚がびりびりする緊張感を感じるのです。

ビビりとからかわれてもいい、中に入らず戻ろう。

結局僕はその場から逃げるようにしてT達の所へ戻りました。

それからはしばらくからかわれたのですが、中に入らなくて本当に良かったと安堵していました。

それから何年かして高校生の頃、家に泊まりに来ているTが、久しぶりに肝試しの話をしました。

「そんなこともあったな」と懐かしさで話は盛り上がり、その勢いで再び肝試しをすることにしました。

時刻はちょうど午前2時を回ったくらい。

肝試しには絶好の時間帯です。

同じく泊まりに来ていたSと、3人で公園へ向かいました。

今回は一人ずつ行くのでは無く、3人一緒にトイレへ入ることになりました。

元々思い出話から始まったことなので、肝試しというよりかは「懐かしいついでにちょっと怖い気分を楽しもうぜ」くらいの感覚でした。

公衆トイレは昔から変わらずそこにありました。

僕は幼い日の恐怖が甦るのを感じました。

あの日と同じ圧迫される緊張を感じました。

しかし、呑気に「やっぱり雰囲気あるな」などと笑い合っているTとSの姿を見ると、怖いから帰ろうとも言えませんでした。

今は三人いるんだし、ちょっと入るだけだから……

そうして僕は、恐る恐る足を踏み入れたのです。

トイレに入って、僕は懐中電灯で中を照らしました。

男女共用で、3つの個室に3つの男性用小便器が並ぶだけのトイレです。

古いせいか、あちこちに黒い染みがついていて、それが不気味さを引き立てていました。

先程からの圧迫感はまだ続いています。

「確か、一番奥の個室に札を置いてくるってルールだったよな」

ふとSが言いました。

「怖くて中に入れなかったんだよな」

Tがからかうように僕を見ます。

「今は大丈夫さ」

僕はムッとしました。

そして、一番奥の個室に差し掛かった時です。

どんっ

僕は後ろから個室の中に突き飛ばされ、そのまま扉を閉じられたのです。

悪ふざけかと思い、扉を開けようとしますが、向こう側から引っ張られているのか開きません。

「おい、やめろよ!」

僕は扉を叩いて呼びかけました。

しかしいくら扉を叩いても、呼びかけても、返事はありません。

その時、僕の耳に何か、呻き声のようなものが聞こえてきました。

二人のイタズラかと思いましたが、それはちょうど僕の後ろから聞こえてくるのです。

駄目だ、絶対に、振り返ってはいけない。

とてつもなく嫌な予感を感じ、僕は必死に叫びました。

「頼むから、出してくれ!」

ドンドンと扉をめちゃくちゃに叩きます。

しかし何の反応も無く、呻き声は大きくなるばかりです。

そして僕は、耐えきれなくなって、ついに振り返ってしまったのです。

懐中電灯に照らされたのは、頭の上半分が無い男でした。

ちょうど下顎だけを残して、その上が無理矢理引き裂かれたように無くなっているのです。

歯並びの悪い下顎が剥き出しになっていました。

その男が、声にならない呻き声を上げていたのです。

僕は思わず懐中電灯を落としました。

そして、悲鳴を上げました。

何故なら、足元の和式便器には、男の頭の上半分が落ちていて、その両目はギョロリと僕を睨み上げていたのです。

目を見れば大体の感情を感じ取れるように、僕は実感しました。

怨み。

激しいまでの怨みの感情が、男の両目から噴き出しているのです。

僕はパニックになりました。

ありったけの力を込めて、再び扉を叩きました。

「開けてくれ! 開けてくれ! 開けてくれ開けてくれ開けてくれ開けてくれ開けてくれ!!」

その時、僕は後ろから首を掴まれました。

男が僕の首を掴んでいるのです。

ぎりぎりと男の両手は僕の首を締め上げながら、僕を後ろへ引っ張ろうとしてきます。

僕はじたばたと抵抗しましたが、男の力は一向に緩まりません。

僕は生まれて初めて死を意識しました。

いわゆる走馬灯まで体験しました。

そうして段々と僕の意識は薄れて行ったのです。

次に目を覚ましたのは、公園のベンチでした。

辺りを見ると、もう夜が空けようとしています。

そんな僕を、TとSが心配そうに、覗き込むようにして見ていました。

二人の話によれば、僕がいきなり個室に入って扉を閉めたので、始めは悪ふざけと思ったそうです。

つまり、二人は何もしていなかったのです。

しかし途中から僕の様子が明らかにおかしいことに気付き、慌てて扉を開こうとしたら扉が開かなくて、仕方なしに扉を蹴り破ったら、僕が気を失って倒れていたと言うのです。

あの男を見たのは、どうやら僕だけのようでした。

後になって調べてみると、あのトイレで昔、殺人事件が起きていたようなのです。

被害者は、僕が見たあの男のように、頭の上半分を引き裂かれて殺されていたそうです。

そして不気味なことに、その犯人は最後、あのトイレで自殺したらしいのです。

どういう方法を使ってか、同じく頭の上半分を引き裂いて。

僕の体験はなんだったのか、今でも分かりません。

そしてこれは更にその後聞いたのですが、小学生の頃の肝試しで、実は怖くて誰も奥までは入らなかったらしいのです。

入ってすぐの洗面台に置いて逃げ帰ってきたのだとか。

今思えば、あの時誰も奥に入らなくて良かったと心から思います。

最後に一つだけ。

僕を、個室へ突き飛ばしたのは、一体誰なのでしょうか?

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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