中編3
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真っ赤な部屋

もう15年も前の話。

駆け落ち同然に彼女の手を握り、バック片手に福岡から飛び出して友人のいる広島へ。

ふた月ほど居候させてもらった後、バイト先の工場の社長が保証人になってくれてアパートを借りた。

この社長が凄くイイ人で、駆け落ちして来た事情も知った上で雇ってくれたし、引越し費用も家具も無いだろうと

「臨時ボーナスじゃ」

そう言って、バイトのオレにポン、と20万円をくれた。嬉しくて涙が出た。

休日を利用し、不動産屋を数件巡って格安の物件を見つけた。

国道沿いから細い路地を少し抜けた所に、そのアパートはあった。

築30年くらい経ってそうな古い木造2階建ての2階1DK。

最初に見たそのアパートの印象は、本当にボロくて酷かった。

物件案内で訪れた時、台所の窓は割れ、ドアのカギも壊れていた。

玄関を入り台所を抜けた六畳間に入ると、押入れには浮浪者が勝手に寝泊りし、飲み食いしたゴミが散乱していた程...。

それでも職場に近く、更に当時は大規模な土地開発で周りは更地が多く、日当たりも良かった。

何より超格安な家賃が魅力だった。

鍵と窓ガラスの交換、室内の掃除を条件に契約した。

ホントに何も無かったオレ達二人は、余ったお金で日用品や服、テレビとかを買った。

翌週の日曜日、あちこち買い物に廻っただけの引越しも終わり、夕飯は近くの牛丼屋に出掛けた。

アパートへ帰り、部屋の鍵を開けてドアノブに手を掛けると違和感が手を伝った。

開かないどころかドアノブが回らない。

まるで誰かがドアの向こうでドアノブを握り締めている様だった。

「浮浪者か!? クソッ」

怒鳴りながら台所の窓を叩いたが応答は無し。

その時、部屋の窓を開けていたのを思い出し、彼女を玄関前に残したまま、アパートの裏側に廻った。

隣家との塀越しに、二階の窓に手が届いた。

窓を開け、暗い部屋に飛び込み、威嚇するように大声をあげたが反応は無かった。

壁伝いにスイッチを探るが分からない。ライターの薄明かりでようやくスイッチを見つけ、電気を付けた。

その瞬間、「バンッ」と部屋中すべての電球、蛍光灯は割れ、破片が降り注ぐ様に落ちてきた。

玄関からは、その音にビックリした彼女が入ってきた。「バンッ」と云う音と共にドアノブは軽くなったらしい。

彼女は気味悪がったが、オレはすぐに不動産屋に連絡を入れ、事情を話して電気の交換をお願いした。

結局その日は、友人の家に泊めてもらった。

翌日、不動産屋から連絡をもらい、一日遅れで入居した。しかし、異変はその晩に起きた。

夜中に寝ていると「キーーン」と耳鳴りが始まり、

やがて「キーーン、キーーン、キーン、キーン、キンッ」と音が大きく間隔が短くなると「バシッ」と金縛りになって目が覚めた。

すると、向かい合って寝ていた彼女も目を覚まし、こっちを見ている。

と同時に、部屋が真っ赤になっているのに気付いた。

そして「ピシィッ」と云うラップ音が鳴ると、一斉に「ううっ..」と、人間のうめき声や赤ちゃん(彼女はネコ?だと言っていた)の鳴声が聞こえる。台所との仕切りのガラス戸もガタガタ震えている。

オレは怖くて怖くて、頭の中で必死に念仏を唱えた。どれくらい経ったのか...体が動いた。

とっさに彼女の体を起こし、立ち上がった。

目の前には片足の無い血まみれの兵隊がいた。

彼女は奇声を上げて気を失い、オレはフラフラになりながらも、彼女を背におぶり外へ飛び出した。階段の手前、背中から

「死ね」

と、野太い男の声が聞こえた。

「えっ?」次の瞬間、足元を滑らせ階段から転げ落ちたオレは、頭に6針の裂傷と左の鎖骨を2箇所骨折、彼女は両太ももを中心に重度の打撲と、おなかの赤ちゃんを失った...。

勿論、その後は救急車を呼ぶ騒ぎになり、入院。

彼女はショックから、自ら実家に連絡をいれた。すぐにお互いの両親が迎えに来た。当然アパートも解約した。

それから数年、彼女とは紆余曲折もあり別れた。

その後、お世話になっていた広島の社長から、アパートが無くなった事、跡地にはマンションが建っている事を聞いた。

ちなみにアパートの後片付け時、友人とその友達数人が体験した話はまた追々...。

怖い話投稿:ホラーテラー 甚兵衛さん  

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