二度とエレベーターなんか乗るもんか

中編3
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二度とエレベーターなんか乗るもんか

 これは俺がつい最近体験した話だ。

 ホラー映画みたいに恐いわけでも幽霊が出てくるわけでもないが、興味のある人は読んでほしい。

 俺は今年美大受験を控えたコッテコテの受験生だ。

 まあそれなり行きやすい位置にある都内の予備校に通ってはいるものの、学校が田舎のために予備校に行くにはかなりの駅を乗り継いでいかなきゃならなかった。

 今ちょうど受験生って奴はわかると思うんだけど、この時期って現役は特に焦っていっそう頑張り出す時期なんだよ。美大受験だって同じで、9月、10月になると皆が皆こぞって道具を増やしはじめて、絵の具やら鉛筆やらで異常なほど荷物が多くなるんだ。

 俺も例外じゃなく、ここにきて今までの倍以上は荷物が増えた。

 だから、大概はキャリーバッグやホームセンターで売ってるような小さな荷台みたいなのに荷物を縛り付けて持運びするんだ。

 だからでっかい荷物ガラガラ引きながら歩いてる学生を見たことあるって人もいるんじゃないかと思う。

 でも俺が話したいのは荷物を運ぶことの大変さじゃなくて、そのせいでしなくてもいいような恐い体験をしたってことなんだ。

 上でも話したように、すごい量の画材持って家と塾を行き来するわけなんだが、その中でも電車の乗り継ぎが一番大変。

 画材って見た目よりだいぶ重いし、かさばるし、階段のぼるにもエスカレーター乗るにも一苦労なんだよ。

 だから俺はいつもエレベーターを使ってて、その日もある駅で乗り換えるときにエレベーターを探してたんだ。

 その駅っていうのがまた凄く人の多い駅で、エレベーター乗るにも何列も並ばなくちゃいけないぐらい。

 ちょっと急いでたし時間もなかったから、もう一個の古いほうのエレベーターに乗ることにしたんだ。

 そのエレベーターっていうのがまた不気味でさ。

 なんか薄暗くて空気悪くて、不思議なくらいその周りだけひとっけがないんだよ。しかも所々錆びてて装甲剥がれてるし。

 正直ちょっと恐かったんだけど、真っ昼間だったし急いでたしでとりあえず乗ることにしたんだ。

 でもいざ扉を閉めるとさらに薄暗くて、いまさらだけど乗らなきゃよかったってちょっと後悔した。

 また背後にこれでもかってぐらいでっかくて汚い鏡があって、これもまた不気味だったんだ。

 だからその鏡で自分の周りチェックしながら(背後になんかいたら恐いだろ)早く着け!ってずっと願ってたんだけど、狙ってんじゃないかってぐらいトロトロ進むんだよ。あの時は本当気が気じゃなかった。

 でもようやく何事もなく改札階に着いて、ホッとしながら出ようとしたその時のことだった。

 何の前触れもなく荷物を括り付けてたゴム製の太い紐が思いっきり切れたんだ。

 もちろん荷物はエレベーター内に散乱。鉛筆なんかそこいら中に広がっちゃって。

 こっちが唖然としてる間にドアは閉まろうとするし、助けを求めようにも、通路には誰もいないしで、もうパニック状態だった。

 でもなんとか片手で「開」ボタン押しながら荷物かきあつめて、エレベーターの外に出してまとめてたんだ。絵皿は割れるし鉛筆は折れるしだったけど、そんなことかまっちゃいられなかった。

 でも紐がきれちゃってるせいで荷物まとめるのもうまくいかなくて、早くその場を離れたかったのになかなか思うようにいかなかったんだ。

 何より恐かったのが、俺がエレベーターの外に出たにもかかわらず、ドアが開いたり閉まったりをずっとくりかえしてるってことだった。誰もボタンなんか押してないのに。

 もう死に物狂いで荷物かかえて改札まで走ってにげて、人混みの隅っこでしばらく座り込んだんだ。

 気付いたときには全身さぶいぼだらけで、その時に二度とエレベーターなんか乗るもんかって誓った。

 だから今でも、例えどんなに荷物が多くても階段かエスカレーターを利用することにしてる。

 もう本当二度とエレベーターなんか乗るもんか。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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