長編8
  • 表示切替
  • 使い方

廃屋の夜

私の霊感は限り無くゼロに近いのですが、

過去に何度か不思議な体験をしたことがあります。

私がまだ学生だった頃、ヒマさえあれば心霊スポットに行くことが仲間内で流行っていました。

(流行っていたと言うより、あまりにも田舎だったので遊ぶ場所が限られていたんです・・・。)

何度も行ってた割には、怖い体験は一度もした事はありませんでした。

あの時までは・・・。

あの夜も、バイトが終わった後することもなく友達と5人でボーっと過ごしていたんですが、

一人の友達(Aとします)が

「俺の弟が△△町の殺人事件があった家にこないだ行ってきたんだわ」

なんて話し始めました。ヒマだった私達はすぐに食い付き、

じゃぁ今から行こうじゃないか!と、わらわらと車に乗り込んだんです。

当時、私は白いステーションワゴンを乗り回していたのですが、

遊びに行く時や遠出する時は私の車と決まっていました。

エンジンをかけながらAに、場所はどこなんだと聞くと、ここから1時間の場所だと言います。

その時は、あんな目に遭うとは考えてもおらず、

ただ単にドライブにもなって、ちょうどいいな~くらいにしか思っていませんでした。

車中でAが、その事件のあった家の話をしてくれました。

「数年前、その家の父親が多額の借金を抱えちゃってさ。

将来を悲観した父親は家族を道連れに無理心中を図ったんだって。

殺害の方法が凄まじくさ、包丁で家族を次々に刺し殺した後、最後に自分も首を吊って亡くなったみたいだよ。

その家は今も借り手がなくて、弟が行った時も畳や壁に血の痕を残したまんまで廃屋になってんだってさ・・・」

弟達が行った時は、別に霊的な出来事には遭わなかったそうですが、

とにかく家の状態が恐ろしかったのだそうです。

私はハンドルを握りながら、なんだかとてもイヤな気持ちになっていました。

今まで何度も心霊スポットには行っていましたが、

行く前からこんなにイヤな気持ちになったのは初めてでした。

心の底から 行きたくない と思ったのです。

ただ、みんなの手前もあるので「今日は止めない?」

と言い出せず、黙々と運転していました。

そろそろ目的地に着くぞ、という頃には

私の行きたくない気持ちはピークに達していて、

吐き気さえ感じていました。

バカにされてもいいと決心を固め、切り出しました。

「ごめん。本当にそこに行きたくない。

ここまで来て悪いんだけど、帰らない?」

もちろん答えは「今さら何を言ってんだ?!」でした・・・。

ところが、言い出しっぺのAだけが、

「俺も賛成だわ。どうしても行くってなら、俺達はここに置いて行ってくれ」

と真顔でみんなに言うのです。

私もみんなも、オマエが言う?と呆気に取られてしまいポカーンとしていましたが、

「じゃぁ、ここまで来たことだし、俺たちだけでも行ってくるわ」

と3人は私達を残し、廃屋へ続く道へと車を走らせていきました。

街灯がポツポツとしかない道に残された私とA。

何となく気まずかったので、お互いにエヘっと笑ってみせました。

遠くの林の隙間から、友達の運転する車のライトがチラチラ見えます。

そのうちそれも見えなくなってしまいました。

ずいぶん奥まで行くんだなぁ、と思っていたら

その林の方から

「○○○~っ!!」

と私のあだ名を呼ぶ声が小さく聞こえました。

友達が呼んでるのかな?と思い、呼ばれた方角を見ていたら

Aも同じ方角を見ています。

そして、その方角を凝視しながら、

「なぁ、あっちの自販機のとこまで歩こうぜ」

と言いました。

暗い夜道に自販機の灯りだけがボゥっと点いて

ちょっと気味が悪かったのですが、Aの顔には有無を言わさない迫力があり、

理由も聞けずに私達は自販機の方へと歩き出しました。

歩いている間、Aは後ろを気にしているようでした。

自販機まで着いて少し経つと、Aは何となくホっとした顔付きになり、

「ここでアイツらを待とうよ」と言うので、さっきの出来事を聞いてみました。

私「さっき、あたしを呼ぶ声しなかった?林の方から」

A「いや・・・、俺それは聞いてない」

ん?と思いました。「それ」って何だ?

じゃぁ、Aは何を聞いたんだ?

私の疑問を察したのかAは、

「後で話すからさ・・・。それより、こないださ~」

と、全然別のたわいも無い話しをしはじめました。

自販機に寄りかかるようにしながら、

Aのたわいも無い話を聞いていると、

ふと今来た方角とは逆の道が気になり、

私はパっと視線をそちらに移しました。

するとAも、同じタイミングで視線を移したのです。

一気にその場の雰囲気が変わるのが分かりました。

「戻ろう・・・」

Aが促すようにそっと私に言いました。

私は無言で頷き、車を降りた場所まで引き返しました。

Aはずっと大きな声で、

「この間さ~、俺寝坊しちゃってさ~」

「俺○○美ちゃんに振られちゃったよ~」

など、本当にどうでもいいような事をしゃべっていました。

無理に話しているのが分かるので、突っ込むこともせず私はウンウンと聞いていました。

その間ずっと私達の後ろには、今まで感じたことのない冷たい空気が漂っていました。

走り出して逃げたい衝動に襲われ、Aを見上げました。

Aは、私をチラっと見ると首を小さく横に振りました。

取り留めのない話をしながらも、Aの顔は

「ダメだ。走るな。」

と言っていました。

私達が元いた場所に戻ると、ほどなくして廃屋を見に行っていた友達も帰ってきました。

なんとなく「助かった!」と感じながら、車に乗り込みました。

すると、車中が微妙な雰囲気に包まれています。

どうしたんだ、と聞くと

「廃屋なんてなかった。行けども行けども林の中の一本道で、家なんて一軒もなかったよ」

と言うのです。

更に

「このままじゃ俺たち何かスッキリしないよ。

悪いけど、お前達も一緒にもう一回行ってくれないか?頼むよ。」

私は本当にイヤだったのですが、Aは

「・・・そうだな。俺が言い出した事だし、よし行こう」

と、言うのです。

私が行かないと言えば、この場所に一人残されそうな空気だったので、

泣く泣く一緒に行く事にしました。

林の中の道は状態も悪く、車はゆっくりと進んで行きました。

確かに友達が言うように、行けども行けども林ばかりで家らしいものは何もありません。

ずいぶん進んだ所で、いったん戻ろうということになり小さな窪地のようなところで

車を何とか切り返し戻ろうとした時、それに気づきました。

ライトに一瞬照らされた林の奥に、こんもりとした影が見えたのです。

それに気付いたのは私と、Aでした。

「何だあれ?」

他の3人も気付いたようでした。

来た時は分からなかったけれど、その影が見えた方向へは細い道が続いていました。

車の中に何とも言えない空気が漂いました。

5人が5人、同じことを考えていました。

「あの影がきっと廃屋だ・・・」

運転していた友達が「行くぞ」と、自分自身に言い聞かせるように呟きました。

林の道から小径に曲がる時、友達が律儀にもウインカーを出したので、

車中は一瞬だけ笑いに包まれ、何となく救われた思いがしました。

Aが

「そおいえば弟が、見付けにくい場所にあるんだよって言ってたや」

とボソっと呟きました。

確かに見付けにくい。

見付けにくいというより、見付けて欲しくないんじゃないの?と思ってしまうほど、

廃屋への道は分かりにくいものでした。

徐々に影の全貌が映し出されてきました。

そして、ライトを遠目にしたとき私達は「あっ」と声を上げていました。

そこには、想像していた廃屋が無かったからです。

あったのは、家を取り壊した跡であろう、大量の木材が積み重なっていたのです。

緊張して損したような、廃屋を見ずに済んでホッとするような・・・

何とも言えない気持ちで廃材を眺めていたら、

「面白半分で来るような所じゃなかったな。すみませんでした。」

Aの声でした。

Aは廃屋を真っ直ぐ見つめ、私達ではなく廃屋に謝っているようでした。

普段おちゃらけ担当のAのそんな態度に、

物見遊山で来てしまった友達も一緒に「すみませんでした」と謝りました。

帰ろうとして、車をバックで出そうとした時、

車がカクンっと一瞬だけ動きませんでした。

踏み込むとすぐに進んだので、

何か小石にでもタイヤが引っ掛かったのかな?と思いました。

Aは「明るい場所に行ったら話すから・・・」

と言ったきりダンマリしていました。

ファミレスについて、夜中とはいえ賑やかな店内に入ると幾分落ち着いたのかAが話してくれました。

「お前とあの場所に残った時さ、お前、なんか呼ぶ声がしたって言ったろ?

俺にはあの時呼ぶ声なんか聞こえなかったんだ。

俺には、林の中からこちらにむかって歩ってくる足音がザカッザカッて聞こえたんだよ」

明るい店内で、私達のテーブルだけがしんっと静まり返っていました。

「俺、このままここにいたら危ないって思ってさ。

だから、少しでも明るい方に行こうと思って自販機のとこに行ったんだよ。

林から来た何かは、俺達の後を付いてきたけど、自販機のトコに来たら足音が聞こえなくなってさ。

怖かったけど、お前にパニくられんのも怖いから言えなかった。

そしたら、反対側から足音が近付いてきてさ。

お前もパッと見たから、これはヤバイと思ってな。

とにかく、こっちが怖いと思ってるのを悟られたらダメだと思ってさ。

気付いてませんけど?みたいな雰囲気を作らなきゃって。

で、お前等が戻ってきてさ、家が無いって言うじゃん。

俺、何となくその一家が怒ってるんだと感じてたからさ。ちゃんと謝らなきゃダメだって思った。

あんなふうに家は取り壊されてるのに、

俺達みたいなバカが興味本位で見に行くことが許せなかったんだろうな、あの家族は。」

一連のAの行動は理解できましたが、私のあだ名を呼ぶ件は

「俺もそれは分からないよ」

もちろん、最初に家を見に行った友達も呼んでない、との事でした。

もう怖い場所に行くのは今日で終わりにしようという事になり、

会計を済ませて車にゾロゾロ歩いていきました。

その時、私は妙に車の後ろ側が気になり、周り込んで覗いた瞬間「ヒッ」と悲鳴を上げてしまいました。

リア部分には、白い車体にハッキリと「手形」が付いていたのです。

それは指紋も分かるくらいに生々しい手形でした。

しかも、木屑で付けられた手形だったのです。

見た感じ大きくて、男の人の掌のようでした。

念の為、友達の掌と比べてみましたが、誰の掌より大きかったです。

もしかして、バックで出ようとした時、車が一瞬止まったのはこの手形のせいだったの?

まだ、あの家族は怒ってるの?それとも、もう来るなよって意味なの?

どんな意味があるのか分からず、かと言ってこのまま残しておくのも気味が悪いので、

何と私はティッシュでそれを拭き取ってしまいました。

あれから何年も経ちますが、とりあえず私は元気に過ごしています。

不思議な体験は他に何個かあるくらいです。

他の4人もそれぞれに家庭を持ち、頑張って生活しています。

この『廃屋の夜』には何のオチもありませんが、

最後まで読んでくれてありがとうございました。

みなさんも興味本位で心霊スポットに行く時は注意して下さいね。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

Concrete 59189e6fb4d79119a63e92183ffb92aeb8f46031afd97d5db060811ce15c35e6
閲覧数コメント怖い
24000
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ