短編2
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A少年と覗いていた者

僕は今、青信号になった駅前の横断歩道を渡ろうとしている。これから電車に乗り、塾に向かうためだ。

よく使う横断歩道だが、今日はいつもより渡っている時間が長く感じる。

おかしい。

だって、例えば…アニメとかって一つの物語を初めて観る時より二回目以降に観る時の方が、話の展開とか台詞とか大体覚えてるから終わるのが早く感じるだろう?

やっぱりおかしい。

まだ半分も来ていない。もうとっくに渡り終えてもいい頃なのに…。

周りの人は僕より歩く速度が速い。いや、ぼくが周りの人より歩く速度が遅いと言った方が合っているのか。

まるで、僕だけゆっくり時間が流れているようだ。

ぶるっと悪寒が走る。全身の毛が逆立つ。

早く渡りきりたい。でも、僕の願いとは反対に体は言うことを聞いてくれない。走っているつもりなのに、ゆっくりと歩いている。

どこからか視線を感じる。まあ当たり前だろう。こんなにのろのろ歩いていたら誰だって見ずにはいられなくなるからな。

そろそろ青信号が点滅して赤に変わる頃だ。けど、僕はやっと半分まで来れたところだ。運転手に怒られても仕方ない。さすがに僕が渡り終えるまで待ってくれるだろう。

僕は以外と冷静だ。だって、動きがのろまになってしまったから、慌てるなんて出来ない。嫌でも落ち着いてしまう。

向こうからYシャツにネクタイ姿で携帯電話で通話をしながら、もう片方の手に鞄とスーツを持った男性が走ってくる。

僕は目が悪い。分かるのはこの程度だ。

このまま真っ直ぐに走ってくると、僕と正面衝突してしまう。僕の今のスピードでは避けられない。男性が避けてくれるのを願うしかないようだ。

しかし、男性はその事に気が付かないらしい。通話に夢中なせいだ。

僕は口を動かす。声を出すのだ。やっぱり口もゆっくりと動いて声にならない。

あぁ、ぶつかる…。今は冷静ではいられない。足の力が抜ける。地面に膝がゆっくりとつく。そして男性の足で僕のあごは蹴りあげられ…

ない。あれ?

想像していた衝撃や痛みは襲ってこない。男性は僕を通り抜けて走っていってしまった。

続く

怖い話投稿:ホラーテラー A少年さん  

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