中編5
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キャンプ場

最近いくつか話を紹介させてもらっています、かずよしです。

今までの話から時間は少し遡りますが、僕が大学生の時の話を紹介したいと思います。

大学生の時、僕はキャンプ場でバイトをしていました。昼の12時から次の日の昼12時までの24時間のバイトで、学生2人とキャンプ講師の先生1人の3人体制で行います。夏休みの期間だけの短期のバイトでしたが、かなりの額を稼げる非常においしいバイトでした。仕事内容は、キャンプ客の受け入れ、シーツや寝袋の貸し出しと説明。食器の貸し出しと洗い残しの点検。夜中の巡回などです。キャンプ場は山の中にある研修施設の一部なんですが、本館から300mほど山道を下った場所にあり、外灯も無いため夜には閉鎖された空間になります。

僕たちは管理棟と呼ばれる山小屋で数日間を過ごします。その建物は無機質なコンクリートで作られた古い建物で、本館から運ばれた二段ベットとガスコンロ、冷蔵庫だけがあり、僕たちも自炊をして過ごさないといけません。それでも、高校時代からの友人Nと年配ながらも勢いのある講師G先生の3人で過ごす山での生活は非常に楽しく、夏休みの3分の1はキャンプ場で過ごしていました。

このバイトは3年間続けたのですが、毎年最初の団体を迎え入れる前にトイレ掃除をしなければなりません。キャンプ場のトイレは何故か100mほど急な山道を下らなければなりません。やっと着いたと思っても木々に囲まれてひっそりと佇むトイレは不気味なものです。昼間に電気をつけて個室に入ってもかなり薄暗く、広い山の中のトイレの薄暗い個室いる自分を想像すると圧迫感に押しつぶされそうになります。キャンプ客には、なるべくそのトイレを使わないように説明し、敷地外ですがすぐ隣にある登山道を10m登った所にあるトイレを紹介します。

夏の終わり、その年最後の団体を受け入れた時の話です。

その日は小学生20数人と中学生5、6人の子供会が宿泊しました。入所説明をするのは僕の係で、細かな説明を10分ほどします。その後、子供達はテントに移動して最初の活動に入ります。ちょっと落ち着かない雰囲気の団体で嫌な予感はしていました。ウォークラリーで山道を歩き回った後は、野外炊飯でお決まりのカレー。食べ終わった班から片付けをして、夕べのつどいが行われる6時までは自由時間になります。一通りの見回りも終わった僕たちも晩ご飯を作り、食べ始めようとした時でした。団体の代表者が僕たちの所に来て、

「実は、4年生の男の子の姿が見えないんですけど。」

動揺する僕たち。

「あの子は落ち着かない子なんで、いつも迷惑をかけるんですよ。」

。。。大事件です。今の時間は夕方の6時前。あと1時間もすれば薄暗くなります。一刻を争う非常に危険な状態です。団体の代表者は「いつもの事なんで。」とのんびりした態度。急いで大人を集めてもらい、捜索隊を組みました。地理を一番熟知していた僕とNとG先生はそれぞれ別れて、後は大人2人組を作ってもらい捜索に出かけました。一通りキャンプ場を廻っても見あたりません。本部に最初に戻ってきた僕に6年生の子が言いました。

「さっき、下のトイレに誰かが降りて行ったような気がしたよ。」

聞きたくない言葉です。時間は6時半くらいになっていました。夕焼けにカラスの鳴き声が響きます。いつもは楽しい雰囲気でほのぼのしたキャンプ場は、一歩足を踏み出すと、木々に囲まれた不気味な場所に変化します。他のメンバーはまだ帰って来ません。辺りはどんどん暗くなっていきます。意を決した僕は、念のために懐中電灯を持ち、山道を下り始めました。人気が無い方向に向かっていくと、虫の声がだんだん大きく聞こえ始めます。4分の3ほど進んだ時に、上から声がかかりました。

「かずよし、見つかったぞ!」

Nの声です。心から「助かった」と思いました。しかし、下に降りていった人が気にかかります。まだ距離があるので懐中電灯でトイレの入り口を照らしてみました。

ドアが開いています

行くか戻るか

悩んだ僕が出した結論は 「戻る」 でした。行方不明の子は発見された。僕の仕事は終わった。もし、今、誰かがトイレを使っているなら電気がついているはず。でも電気の灯りは見えない。

言葉では色々と理由を考えながらも、本能的には絶対にヤバいと感じていました。

山道を駆け上がる僕。カラスの鳴き声が遠くに聞こえます。

景色が暗くなるスピードが速くなるような感覚。

トイレから誰かが出てくるイメージが頭に浮かびます。

何度もつまずきながらも坂道を駆け上りました。

やっとの事で登り終えると、大人たちからこっぴどく叱られている子供。

ほかの子供は全員揃っているそうです。

何も無かったんだ。と自分に言い聞かせ。少し遅れた夕べのつどいを行いました。

ひとしきりの騒動が落ち着くと僕たちは風呂に向かいます。キャンプ場でのバイトですが、さすがに汗をかく仕事なので、ある程度の活動が落ち着くと管理棟の鍵を閉めて軽トラックで本館に向かいます。本館の職員に騒動の結果を報告し、本館の大浴場で疲れを癒しました。

お風呂から出てくると、ちょうど事務室の内線が鳴っていました。他の職員さんは外部からの電話対応と、窓口での対応で忙しそうだったので僕が電話をとりました。

「もしもし、事務所ですが。」

無言

受話口の向こうからカラスの鳴き声が微かに聞こえます。

どこからの内線かを確認しました。「17番」

対応表を確認すると、無人のはずの「キャンプ場管理棟」となっています。

怖いと言うより訳が分からない僕は、呆然としていました。電話対応を終えて、僕にに気付いた職員さんは。

「切っていいよ。」  と言いました。

そして受話器を置いた僕に多くは語らず、苦笑いをしながら

「バイト代が高い訳が分かったかい。」

昨年、久しぶりに訪れたキャンプ場は以前と変わらずその姿のまま残っていました。

遠い夏の日の思い出です。

怖い話投稿:ホラーテラー kazuyoshi2006さん  

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