短編2
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早朝、〇〇駅にて~終~

兄は涙が止まらなかった。人目をはばからず泣いた。止められなかった事に悔しくて、情けなくて…たった数時間前の、数分の出来事が走馬灯のように駆け巡る。

その時、頭の中で何かが弾けた。

哀しみから怒りに変わった。電車に身投げし、後追いというつまらない理由でこの世に別れを告げた事に対してだ。

行き場のない怒りが腹の底からこみあげる。

兄は男が飛び込んだ現場まで歩き、大声で叫んだ。

「なんで死んだんだよ!後追いなんか最低だ!!バカヤロー!!!」

その場にいた職員3人が一斉に兄を見る。

兄は逃げるようにその場から走った。

10M位走っただろうか、兄の耳元で男が囁くような声が聞こえた。

「ごめんよ。そしてありがとう。」

走るのをやめその場に立ち止まり、辺りを見渡すと、現場検証の3人以外は周りに人はいなかった。

あの現場付近に目をやると、更に5M奥の方であの自殺した男がニッコリと笑いながら手をふっていた。

周りの人間は男に気付いてない。黙々と作業をしている。

男の笑顔はまるで希望に満たされたというか…とても幸せそうな顔をしていた。

兄は直感的に思った

この人は望んだ事が達成され、やっと「あっち側」に行けたんだと思った。

その笑顔を見たら、何故だか分からないが救われた感じになった。

同時に自分の責任の無さとあまりの無力さを痛感し…深々と一礼した。

そして振り返り、また走り出した。駅を出るとそこからは線路沿いを泣きながら歩いて家まで帰ったという。

昨日会った兄がその話しになった時、こう言っていた。

「あの時駅員に任せたんだからそんなに責めなくてもって、よく人に言われるけど、駅員と俺が2人がかりで止めてればもっと状況は変わっていたかもしれない。

あの時から自殺に対して深く考える様になったね。だから今の嫁さんを橋で見つけた時、何がなんでも止めてやると思ったよ。」

17年前の出来事を語るその横顔は目を細め、遠くを見つめていた。

最後に…

自殺する前に男が持っていた赤と青の螺旋模様の紐状の物…ベンチで見た時には大事そうに握っていたが、自殺した後に男が手を振ってるのを見た時、確かに手を振ってる右手首にしっかり装着していたのを見たという。ブレスレットだった。

推測になってしまうが多分ユウコさんの形見とか、男とユウコさんの2人にとって何か大事な物だったんじゃないかと思う

怖い話投稿:ホラーテラー 久々の匿名で★さん  

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