中編5
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許された呪い 第1話 覗き

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僕の知り合いにダウンタウンの松ちゃんによく似た、実に楽しい男がいる。

20も年下の癖に僕のことを〈おっさん〉呼ばわりだ。

今から紹介するのはそんな彼の体験談だが、怖さを上手く伝えられるかどうか正直自信がない。

それに、そういった類いの物あまり読んでないんで、どこかに似たような話があるかもしれない。

でもまあ、その時はその時、という事で・・・・。

その人(Fさん)は大学時代、オンボロアパートの二階に住んでいた。

入居してすぐの、ある日の夕方、学校から帰ったFさんは、何をするでもなくフトンに寝転がって、ただボーとしていた。

その時

カン、カン、カン・・・

鉄製の階段を誰かが上がってくる音が耳に入ってきた。

コツ、コツ、コツ・・・

(ハイヒールの音・・・女か・・・)

Fさんは何の気なしにその音を頭の中で追った。

足音が止まる。

(隣の部屋?)

ガチャガチャ、ギィー、バタン。

(隣、女が住んでるんだ!)

彼はほんの何十秒かで、頭の禿げた、ただのヘンタイと化していた(Fさんは当時、重度の若ハゲに悩んでいたらしい)。

(おんなだ!おんなだ!おんなだ!!)

もてない男の辛さか、Fさんの興奮は半端ではなかった。

(ヤッホー♪)

僕はFさんの話を「気持ちはわかる、わかるよ〜」などと相槌を打ちながら適当に聞き流していた。

「俺が体験した怖〜い話教えてやろうか?」

その一言で始まった、Fさんいわく、超恐い話。

正直その時点では、(どうせ彼の事だから、クダラナイおちで終わるんだろうな〜)と、まるで期待していなかったんだが・・・。

(何歳くらいの女だろう?)

(美人かな〜?)

隣の部屋に住む女の事が気になって仕方がないFさんは、妄想だけで我慢すればいいものを、何とどこかに覗き穴はないかと探し始めた。

壁を見渡すがそれらしき穴はどこにも見当たらない。

押し入れに入り、上の板を横にずらすと、天井裏に顔を入れた。

目の前にそれはあった。

穴ではなく、板と板のわずかな隙間から明かりが漏れている。

「もう心臓はバクバクよ、罪の意識なんざ欠片もなかった」

Fさんはその隙間に目を押し付ける。ホコリが目に入ることなど気にもならない。

ブラとパンティだけの女

が畳に座っていた。

斜め上から見ているので、髪に隠れて顔は見えなかったが、若い女のようだった。

しかしその姿は、Fさんの期待していた光景とは遥かにかけ離れていた。

女の身体は殆どが爛れており、ヌラヌラとした血にまみれていたのだ。

痒みが酷いらしく、女は身体中を狂ったように掻きむしっていた。何か呪文のような言葉をぶつぶつ呟きながら。

Fさんはぞっとして隙間から目を離し、押し入れから出た。台所の流しで少しえずく。女への興味は完全に消え失せていた。

ひと月が過ぎた。彼の中で恐怖はかなり薄まっていた。

わざとアパートの住人との接触を避けているのか、偶然なのかわからないが、外で女を見かける事はただの一度も無かった。

生活音は壁越しに伝わってきてはいたが、学生なのか、働いているのかさえ全くわからない。

こうなると、(何とかあの女の正体を知りたい!)という欲求がFさんの中で日増しに強くなる。

お色気という面ではもはや関心度ゼロだったが、探偵気分は抑えきれなかった。

Fさんは再び押し入れに入り板をずらした。

(顔は見たくないなあ、あの様子じゃあ多分顔も皮膚病で酷い状態だろうし・・・)

隙間に目をあて、部屋を見回す。視界が狭いので全体を見渡すのは不可能だったが、女の姿は無いようだった。

部屋の様子は前よりかなり荒れていた。眼下に散らばる血の付着した衣服が痛々しい。

(!)

(えっ?)

(足?)

Fさんが覗いてる位置からは視界ぎりぎりの、一番奥の壁際に二本の足があった。

(宙に浮いてる?)

(ぶらさがってる!!)

全身に悪寒が走った。心臓が破裂しそうだ。鳥肌がたつどころの話ではない。

(やばい!やばい!やばい!やばい!やばい!首吊ってる!!)

警察に通報できる筈もなく、Fさんは財布を掴むと、とりあえず部屋を飛び出した。どうしたら良いのか見当もつかない。

ファミレスでコーヒーを飲むが心臓のバクバクは一向におさまらない。

(勘弁してよー!)

壁ひとつ挟んで死体がぶらさがってるような所に、帰る気にはとてもなれない。

といって、彼女はいない、泊めてくれる程親しい友人もいない。ビジネスホテルを利用する余裕もない。

彼には自分のアパートしか帰る家はなかったのだ。

(大家さんに頼んでみるか・・・、異様な声が聞こえたとか言えば調べてくれるかも)

ファミレスを出る頃には、もう日は暮れかかっていた。

夕闇の中、アパートに着いた彼は、大家の家がある裏に回ると、ふと何気なく二階を見上げた。

隣の部屋はやはり暗く、カーテンは開けっ放しだった。窓から突然女が顔を覗かせそうで思わず目を逸らす。

大家の家はすぐそこだ。恐怖を押し殺し歩き始めた。

その時である。

カン、カン、カン・・・

聞き覚えのある足音が辺りに響いた。

言い様のない恐怖がFさんを襲う。

コツ、コツ、コツ・・・

これまた聞き覚えのあるハイヒールの音!

ギィー、バタン

(女が帰ったんだ!逃げないと!でも何で??)

心は焦るのに身体が硬直して動けない。目は自然と、二階の、女の部屋の窓に釘付けになった。

部屋に明かりがついた。

一瞬大きなマスクをした女が見えた。窓に近づきカーテンに手をかける。

(!)

逆行で真っ黒な女の上半身が窓際で静止したまま動かない。

(俺を、見てる!)

・・・5秒・・・10秒

女はようやくカーテンを閉めた。

Fさんは震えていた。

(女は生きていた・・・)

(じゃあ、あの足は一体何なんだ・・・)

大家の家に向かう筈だったFさんの足は、再びファミレスに向かっていた。

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怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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