中編5
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轢き逃げ

結婚し、旦那の実家に嫁いで1ヶ月もしないある日の事。

この家は義親が結婚する時に土地付きの建売で購入した家で、私が嫁いだ時はまだ建て替える前で、購入した時のままの平屋だった。

近所のほとんどの家は、当時既に建て替えていて2階建ての立派な家が並んでいた。(うちが1番遅かったので今は我が家が1番立派だがww)

我が家の並びには後ろに山を削って作った道路がある。土地柄、坂が多くちょうど2階建てのお宅から見ると、2階の部屋と道路が同じ高さくらいだ。我が家は平屋なので、道路から軽く見下ろすと屋根が見える感じだ。

ある日の夜9時、義親と旦那と皆で居間に居たら、突然『ドーン!』と屋根に何かが落ちるすごい音がして、続いて『キャー!』だの外が騒がしくなり、ビックリして旦那と義父が外に様子を見に行った。

すると裏の道路から数人が我が家を見下ろして、『人が~!男性が轢かれました~!!』と…。

え?じゃあさっきの音は?と旦那がガクブルしていると、義父が一言。

『はしご!はしご持って来い!今度は……』

そのあとは救急車に消防に警察でご想像の通りです。ちなみに轢き逃げでしたが、目撃者多数で犯人はすぐ捕まりました。

被害者の方は背骨を怪我したり足を骨折したりしたそうですが奇跡的に一命を取り留め、後遺症なども残らずその後元気に回復して、つい先日結婚なされて我が家も招待して頂きました。

が、警察の方の

『屋根が瓦だったらやばかったね~』

の言葉には今でも恐怖と憤りを感じます。

ちなみに義父の『今度は…』の真意ですが、私が嫁ぐ前には犬が落ちてきた事があったようです。

朝、いつもの時間に起床した。時刻は6時。重たい体を引きずる様に、リビングに行き水を一口だけ、口に含んだ。パンをかじりながらTVをつけると、「轢き逃げ」のニュースを報道していた。近所のあの道だ‥。

あの女、26歳だったのか。僕が死なせてしまったらしき女の情報を淡々とキャスターが喋っている。

悪夢ではなかったらしい事にようやく気づいた。

当然大学院なんて行く気にならない。

母「轢き逃げがあったらしいよ。この近所だって。結婚前だったみたいよ~かわいそうに‥。」

僕「‥そう。おれ、今日体調悪いわ。寝てるね、ごちそうさん。」

自分が犯した罪の重大さを今更感じた。

おれはなんてことを‥

次の日、大学院へ行き、いつもの様に地元の駅から帰り道を歩いていた。そして、事故現場を目の当たりにした。道路脇に花がたくさん添えてあり、警察の、目撃者求む‥の看板があった。僕は細目で見つめ、早歩きでその場を去ろうとしたその時、

「許さないよ」

耳元で誰かが囁いた。振り向いても誰もいない。寒気がし、慌てて小走りになる僕。

ヒタヒタ‥

だが、誰かがついて来る。わかる。足音がいやに聞こえる。止まって振り向いても誰もいない。また歩き出すと

ヒタヒタ‥

間違いない。確実に誰かついて来ている。それも、僕の歩き方に合わせて。

僕はたまらず走り、家に入り込んだ。家族は寝ている。家の中は真っ暗だ。僕は安堵からか、深く息をついた。その時、

「無駄だよ」

また耳元で声が聞こえた。いや、誰かが耳元で囁いている。耳が息で生温く感じた。

僕はたまらずシャワーを浴びに風呂場へ行った。

「きっと気のせいだ。」

だが、洗面所の電気をつけると、鏡に映っていたのは僕だけの姿ではなかった。

女だ。

髪がぐちゃぐちゃで顔は見えないが、白のワンピースを着ている女。

ワンピースは、血で赤く染まっていた。

僕が殺した、あの女だ。

「うわあっっ!」

僕はたまらず振り返ったが、女はおらず、再度鏡を覗き込んでもあの女はいなかった。

「幻覚だ‥疲れてんだよ‥気にしすぎだ」

僕はそのままシャワーを浴び、シャンプーをした。目を開き鏡を見ると、また女が映りこんでいる。

「わぁあっ!」

‥誰もいない。

僕は慌てて自分の部屋に逃げ、ベッドに潜り込んだ。汗だくで、シャワーを浴びた意味がない。僕は、気を失う様に眠りについた。

頭痛で、僕は目覚めた。‥頭が割れそうに痛い。

‥昨日のあの女は一体‥

今日は日曜日だ。リビングに行くと5歳になる妹がアニメを観ていた。母は食器を洗っている。

ミックスジュースを飲もうとすると、妹が僕の所へ来てこう言い放った。

妹「ねぇ、お兄ちゃん。あのお姉さん、お友達?」

僕「‥は?」

妹「お部屋のドアの所からずっとお兄ちゃんの事見てるよ。ほら、お洋服汚れてるお姉さん。」

妹はそう言いながら、リビングの入口を指差し、あどけなさそうに言った。僕はバッと顔を向けると、本当に女が立っていた。昨日の女だ。相変わらず顔は見えないが、その姿からかなり怒りと殺意を直感的に感じた。

妹「こっちにおいでよ~。」

僕「ばかっ、やめろ!」

僕は女の方に向かおうとする妹の首根っこを掴み、制止した。

母「なに?そんな大声出してどうしたの?」

母には今のやりとりが聞こえてなかったようだ。

僕「いいか、〇〇美。今の女をまた見ても、絶対に近づくなよ。」

妹「‥うん、なんかあのお姉さん怖いもん。朝早くからずっといるよ。お兄ちゃんの事、許さないよ、っていって怒ってた。」

ついて来やがった‥!嘘だろう。幽霊だっていうのか?おれがあんたを轢いたから。あんたの未来を奪ったおれが憎いから、ついて来たっていうのか。

「許さないよ」

空耳じゃないっていうのか‥。あの女の‥幽霊の声‥魂の叫び‥。

頭がクラクラした。

それからは、場所・時間を問わずその女は現れた。風呂場や大学院、リビングやコンビニ‥

何をしてる時もその女は僕の前に現れた。

そして時折、

「許さないよ」

と、無機質な声で相変わらず囁く。

僕は限界だった。うつ病寸前、精神科に行ったが、訳のわからない処方箋をもらっただけ。こんなもの何の役にたつ?

あの女の姿に怯えながら暮らすのは、本当に限界だった。

事件から1ヶ月後、僕は警察へ自首しに行った。裁判が開かれ、懲役14年の刑を受ける事になった。

家族は僕の逮捕に悲しみに暮れていた。

そして、今僕はこの文を刑務所の中で書いている。

あの女?

相変わらず僕の目の前に現れる。もう、恐怖する気力もない。今は、あの女が現れると僕は手を合わす。

だが

「許さないよ」

‥僕は、恐らく一生許されないだろう。だが、僕は彼女に命を奪われていない。

死ぬ事すら許されないのだから。

怖い話投稿:ホラーテラー まるさん  

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