短編2
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爺さん

数年前、N市のM駅に週末の夕方に現れる、変な爺さんがいた。

バリトンでよく通る大声で、何か言っている。

初めて見た時は、政治について語っていた。

誰かに話し掛けている口ぶりだが、爺さんの周囲は白い目の人ばかり。

どうやら、かなり痛い人らしかった。

ある日、N市に遊びに行った俺は、珍しく空いていたベンチに座った。

すると、あのバリトンが…しまった、爺さんが近くに立っている…。距離、約5メートル…シカトしよう。

爺さんは延々と、何か言っている。

やっぱり誰か連れがいて、会話してるんじゃないのか?

俺は、こっそり視線を爺さんに向けた。

やはり爺さんの近くには、誰もいない。

迷惑な…と思った瞬間、爺さんと目が合った。

慌てて逸らしたが、遅かった。

「あんたは一人モンかね!」

確かに俺は、今日一人で来ていた。

無視無視…。

しかし、爺さんは続ける。

「こんな天涯孤独な人もいるんだねぇ~!」

じゃかあっしゃあ!

俺は確かに未婚だが、彼女もいるし家族もおるわい!

叫びたい気持ちを、必死に堪える。

恥ずかしい…。

幸い、隣に座った女性は下を向いて爺さんを必死にシカトしている。

爺さんの向こうのサラリーマンは、「やかましい」と言わんばかりに爺さんを睨んでいる。

ちょっと安心したが、爺さんの演説は続いた。

「いや~一人は辛いっ!孤独は辛い!人間は、誰かと結婚して幸せな家庭を築くのが一番いい!」

正論だ。でも、あんたに言われたくない。

「そんな天涯孤独なんて寂しい!わしは嫌だ!」

今のあんたは、立派に孤独だ。

「まったく、世の中には哀れな人もいるんだねぇ~!」

…いい加減、口を塞いだろかと思った時、電車が来たので俺は爺さんとは違う車輌に乗った。

あ~終わった…まったく迷惑な爺さんだ…。

そう思ったら、向こうの車輌から背が高く、頭ひとつ抜けた爺さんの後ろ姿が。

と同時に、

「いやぁ~天涯孤独とは!寂しい人も、世の中にはいるんだねぇ~!」

まだ言うか!

結局、爺さんは途中の駅で降りるまで、延々と語っていた。

俺は週末の夕方、二度とM駅を利用することはなかった。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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