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許された呪い 第6話 小世

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「どうか座って、私は大丈夫だから。帰らないで、お願い、淋しいから・・・」

女はFさんを見上げて懇願するような素振りを見せた。

(万が一女が襲ってきても、近くに凶器になりそうな物は何も無い)

Fさんは恐る恐る腰を下ろす。

「まだ、名前を聞いてなかったわね、あなた名前は?何てお名前なの?」

「隆志っていいます」

「たかしさん・・・あなた、クルマ、持ってる?」

「クルマ?ですか・・・?いや、免許も持ってないです・・・」

「そう・・・じゃあ、タクシー呼ぶから少し付き合ってくれないかしら・・・」

Fさんは不安を無理やり打ち消し笑顔で頷く。

(彼女が人を襲うなんて、やはり考えられない)

「ありがとう・・・ああ、それと・・・そこの押し入れ開けてもらえる?」

Fさんは立ち上がると、言われるまま押し入れのフスマを開ける。開ける瞬間訳もなく寒気がした。

大きな、傷だらけの、プーさんのぬいぐるみが転がっていた。可愛い筈のプーさんの顔も傷だらけだ。

「これ、どうするんです??」

「お寺に持って行って供養したいの・・・」

「供養?っすか??」

「傷だらけでしょう・・・そろそろ休ませてあげたいの」

(?)

「私の一族にふりかかった呪いは、本人の知らない内に自分の一番大切な人を殺してしまう、とっても恐ろしいものだったの」

(!)

「多分、父や母は、私達兄妹(きょうだい)を殺めようとして、すんでのところで気付いたんだと思う」

「そしてお兄さんはあなたを殺そうとしたんすね」

「・・・・みんな強い人だったんだなあ、ってつくづく思う・・・普通なら絶対、衝動に身を任せてると思うもの」

「・・・それって何の呪いなんすか?」

「私の祖先が、江戸時代にした残虐な行いが原因だってお坊さんが言ってた。祖父も祖母も、そしてその前の人も、まっとうな最期を遂げた人なんて、1人もいないんじゃないかしら」

プップー!

タクシーが来たようだ。

Fさんは大きなプーさんのぬいぐるみを肩に担いで部屋を出る。

ドアの外で彼女を待つが、なかなか出て来ない。

プー!プ!プー!

(何してるんだろ・・・)

少しイラついてドアを開けると、彼女が向こう向きに立っていた。

全裸だった。

(わ!)ドアを閉めようとするFさんに顔だけ向けて嬉しそうに声を掛けた。

「見て!傷が薄くなってる!!」

(見て!って言われても・・・)と思いながらFさんは見た。確かに薄くなってる!しかしそれよりも、あまりにも痩せた身体が気になって仕方なかった。それに・・・ムラムラしない。

(あれ?・・・俺、いつの間に、スケベじゃなくなってたんだろ??)

タクシーに乗り込むと、彼女はすぐに、○○寺へ、と行き先を指定した。

(供養・・・とか言ってたなあ)

「聞くの忘れてましたけど、これって、傷だらけですよね」

「でしょう?身代わりになってもらったの」

「身代わり?」

「そう、好きな人の身代わり・・・もう100回くらい、プーさん殺したわね」

(??)

「兄から買ってもらった大好きなぬいぐるみ・・・これがなかったら多分、新聞配達の人なんか、殺してたかもね・・・見境がなくなるの」

(・・・・・・)

「あのう、俺もあなたの名前知りたいんすけど」

「さよ、小さい世の中の世で小世・・・」

「小世、ですか・・・珍しいっすね」

「父が、女という者は家庭という小さな世界で幸せならいい、って付けたみたいだけど・・・」

「今、そんな事言ったら問題っすよ」

小世さんは少し笑って、

「お蔭で私の人生、9割は実家かこのアパートの中・・・一度でいいから彼が運転するクルマの助手席に座って、ドライブがしたいな・・・」

Fさんは小世さんを見た。その横顔は少し青ざめている様に見えた。

寺に着いた。

Fさんはプーさんを抱えて彼女の後に続く。朝もやの中、境内では住職さんらしい人が、誰かと立ち話をしていた。

そこに小世さんが近づく。お坊さんが彼女に気付いた。

(なっ!何??)

お坊さんが何か叫びながら彼女に向かって一直線に走る!

(!走る坊さん初めて見た)

50メートル程走って、そのお坊さん、何と小世さんに抱きついた!!

「うおおおおおー!生きとったんか!生きとったんかあああ!」

お坊さんの大号泣が始まった。

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怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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