長編13
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共同戦線

俺は松井ゆうや

特技はゲーム 趣味は漫画

見た目は十人並(だと思うが)、彼女なしの ごくごく普通の高二男子である。

少し違うのは 人より霊感強い事だ。

これは祖母ゆずりらしい。

両親は医者で はなから霊なんて信じちゃいない人間だ。

まぁ、いちいち信じてたら成り立たない職業だから 仕方ないか。

霊が見えるなんて言ったら、間違いなく心療内科行きだろうな。

幸い今まで 身の危険を感じる程の霊には遭遇していないが…

「ただいま」

学校から帰った俺は、誰もいない部屋に向かって言った。

「おう、おかえり。今日は早いんじゃないか?」

……生きている人間は 誰もいない、に訂正。

「今日は部活が休みだからな。」

かばんをソファに置くと、何かないかと 冷蔵庫をあさる。

「母ちゃんが シュークリームを入れてたぞ?」

「おっ、ホントだ!いいねぇ〜♪」

「わしの分もな。」

俺と普通に話しているこいつは、世間一般に言う いわゆる 『小さいおっさん』ってやつ。

だけど可愛い感じを想像しちゃダメだ。

小さいってだけで、本当にただの小太りなおっさんだからね。

おっさんは上半身裸、白ブリーフ一丁ってのがいつものスタイルで たまにオシャレする時は、首にネクタイを巻く事がある。

頭は若干 ハゲだ。

俺はシュークリームを3つつかむと、おっさんを肩に乗せ 2階の自分の部屋へ行った。

「あ、おかえりなさい!」

部屋の隅から にこやかに俺を出迎えたのは、ハタチの大学生だ。

もちろん死んでいる。病気だったらしいが、高校へほとんど行ってないに関わらず あの東大を一発合格したという経歴の持ち主だ。

しかしかなり気弱な性格で、年下の俺にも常に敬語である。

本名は修と言うらしいが 髪がくるくるしたくせっ毛なので、勝手にカールと呼んでいる。

「ただいま。はい、これ。」

俺はシュークリームを テーブルに一つ置いた。

「わぁ、美味しそうですね!嬉しいです」

カールはそう言うと、テーブルの側に座り ニコニコしている。

カールが物を食べる事はない。

貰っただけで満足するそうだ。

お供えみたいなもんか?

ならなんで このおっさんは、何でもムシャムシャ食べるんだろうか?

「なんだよ、何見てんだ?」

「…別にぃ〜。変な顔だなと思ってさ。」

「ナニィ!?ゆうやには言われたくねぇなー!彼女の一人もいない奴に。」

「そ、それは おっさんもだろ!」

カールとはまだ一年程の付き合いだが、おっさんとはもう四年だ。

お互い言いたい事を言い合う仲だ。

初めておっさんを見たのは七歳の時だ。

その頃は 俺に見つかると隠れていたおっさんだが、四年前 唯一の俺の理解者だった祖母が亡くなり泣いている時

「大丈夫か?」

と、話しかけてきたのが彼だった。

『悪いモノではないからね』

ばあちゃんは そう言っていた。

あれから四年、おっさんはつかず離れず 俺のそばにいてくれる。

「チョビは?」

「さぁな。散歩だろ。」

今は姿が見えないが、うちには猫の霊もいる。

カールも猫も、おっさんが勝手に連れてきたのだ。

今では 皆うちに住み着いている。

霊達と俺、なんだかんだ言いながら 平和に暮らしてきた。

あいつに 目をつけられるまでは……

その日は部活で遅くなってしまい辺りはすっかり暗くなっていた。

でも踏切を渡ってしまえば、家はすぐそこだ。

あと少しで踏切、という所で カンカンという警告音が聞こえてきた。

「引っかかっちゃったよ…参ったな、腹も減ってるってのに。」

まぁ、ぐだぐだ言っても仕方ないか…。

ポケットに手を突っ込みながら、俺は何となく反対側を見ていた。

すると向こう側に止まっている黒い車の後ろから、誰かがひょこっと出てきた。

なんだ…?どこから出てきたんだ?

黒い車の後ろにも車が続いている。

道路を渡って来たような様子もなかったのに…。

そう思っている間にもその人は、ひょこひょこと遮断機に近づいている。

正面を向いたので顔が見えた。

おばあさん…じゃない?

おじいさ…いや、子供か!?

格好は子供みたいだが、顔はまるで年寄りのようだった。

向こうが俺に気づいた。

やべ、じろじろ見すぎた?ちょっと失礼だったか…

慌てて視線をはずす。が、向こうはまだ 俺を見ているようだ。

何故かわからないが、俺をじっと見つめているのがわかる。

なんか居心地悪い…早く電車来いよー!

俺の願いが届いたのか、少しすると 電車が近づく音が聞こえてきた。

やっと来た!ほっとした俺は前を見て…

そして、あいつと目が合ってしまった。

ニヤリと笑っているのを見た時、背筋が凍った。

人間の悪意というものをギュッと固めたら、きっとあんな顔になるんじゃないだろうか。

目は限界まで見開き、口はまるで三日月のようだ。

体が震えて、歯がカチカチと音をたてる。

目が離せない…。

馬鹿が俺は!何故すぐに気がつかなかった?

あれは生きている人間じゃない!

しかも今まで会った事のない程ヤバイ奴だ。

背中をつつっと 冷たい汗が伝う…。

あいつが口をぱくぱくさせ始めた。繰り返し 繰り返し…

何か言っているのか?

オ…マ…エ…ノ…

そこまで理解した時、ゴウッと音をたて 電車が目の前を通り過ぎて行った。

遮断機が上がった時 あいつはもういなかった。

止まっていた時間が急に動き出したように、一気に周りの音が耳に入ってくる。

あいつは一体なんだったんだ…?今まで色んな霊を見てきたが、あんなヤバイのは初めてだった。

俺の存在に気付いた時、あいつの体から 何か黒いものが滲み出しているような気がした…

「ただいま。」

真っ暗な家の電気をつける。今日は両親とも宿直だ。

「おかえり、ゆうや」

いつものとおり オッサンが俺を出迎える。足元には猫の霊のチョビがまとわりついていた。

「なんだ?なんか元気がねぇな〜。またカバみたいなコーチにしごかれたか?」

「それを言うならゴリラみたいな、だろ?別にそんなんじゃないよ。」

「ならいいけどな。今日はカレーだぞ。好きだろ?」

「ん…。」

俺は慣れた手つきで 夕飯を温め テーブルに並べた。

しかし 腹が減ってたはずなのに食べる気がしない。

半分程食ったところで スプーンを置いた。

「あのさ、今日変なの見ちゃったんだよね。」

「変なの?」

「うん。なんかもうヤベーって感じの霊。」

「それなら関わらなきゃいい。ほっとけよ。」

オッサンはそう言うと、再びカレーを食いはじめた。

「そりゃ俺だってそうしたいよ。でもなんか…嫌な予感がする…。

そういえばカールは?」

「カールはいないよ。今日はあいつの命日だからな。」

そっか…。カールはあそこに行ったんだ。

ある場所の交差点。交通事故にあって、カールは亡くなったんだそうだ。

病気で長い事入院していたと聞いていたから、その死因を意外に思った事を 覚えている。

「今日はなんか疲れたな。風呂入って早めに寝るわ。」

「珍しいな、明日は休みだっていうのに。

あのゲームの続きはしないのか?」

「ん〜…、俺はいいや。 オッサンやりたかったらやっていいよ。」

「クリアしちゃうかもよ?」

ふふん、と笑ってから 俺は風呂場へ向かった。

熱めの湯に浸かりながら、深くため息をついた。

今日は本当に疲れた…。

あいつのあの顔を忘れられない。あいつは明らかに喜んでいた。

俺を見つけて…。

その時、曇りガラスのドアの前を 黒い影が横切って行った。

「だ、誰だ!!」

思わず身構える。すると「ナ〜…ナーゥ」と鳴きながらドアをすり抜け、チョビが風呂に入ってきた。

「なんだ、お前かよ。」

チョビは、丸めた風呂のふたの上にちょこんと座った。

「どうしたんだ?お前がここに来るなんて。水が嫌いなんじゃなかったか?」

ここが暖かいからだよ、とでも言うように チョビはその場で丸くなった。

そっとなでてやる。と言っても、輪郭をなぞっているだけだ。

触っている確かな感触はないが、なんとなくあったかい感じがする。

チョビは喉をゴロゴロ鳴らしていた。

「なぁチョビ。今夜は一緒に寝ようぜ。」

と俺が言うと、急に立ち上がり ふたを降りて 早く来いって感じに後ろを振り返り俺を見る。

「もう少ししたら行くから 先に行ってろよ。」

笑いながら言うと「ナ〜」と鳴き、チョビは風呂場から出ていった。

俺の言っている事が、わかっているとしか思えない。

今まで動物を飼った経験はないが、猫ってこんなに頭がいいのか?

なんだか気持ちが軽くなったのは、チョビのおかげかもしれない。

これが癒しってやつか?

猫ってスゲーなぁ。

2階に上がると、オッサンがゲームをしていた。

隣にはチョビがちょこんと座っている。

「あー、こいつが倒せない!なんでハードに設定したんだ?

強すぎるぞ 敵が!」

「俺はイージーもノーマルもハードも 全てやるタイプだからな。

あとはハードしか残ってなかったんだから、仕方ないだろ?」

その前に…オッサンは小さいから、L1ボタンと攻撃ボタンを同時に押しながら 移動する事ができない。

勝てるわけがないのだ。

ベッドに横たわると、その気持ち良さに すぐに睡魔が襲ってくる。

「程々にして…やめる時は電源消しといてよ…」

「わかってる、こいつを倒したらな。」

チョビが俺の側で丸くなっていた。

俺はそのまま寝てしまった。

どれくらいたったのだろうか。

目を覚ますと 部屋はもう暗くなっていた。

あれ?チョビは?

いつの間にか 俺のそばからいなくなっていた。

部屋を見回してみると、チョビは窓の方を見て毛を逆立てている。

何してんだ?不思議に思いながらも、何かただならぬものを感じた俺は

「チョビ!おいで!」と呼んだ。

しかしチョビは、ますます毛を逆立て フー!!と 威嚇までしだした。

何かいるのか?窓の外に…

恐る恐るチョビに近づき、その目線を追い 俺は窓を見た。

次の瞬間、俺の口からヒッと 短い悲鳴がもれる。

あいつだ!!

窓の外にあいつがいた。

憎々しげにチョビを睨みつけながら…

あいつは俺に気付くと ニタリと笑った。

声が出ない…

いつの間に現れたのか、オッサンが俺の肩に乗っていた。

「ゆうや…あいつか?」

コクコクとうなずく俺。

「まったく…えらいモンに目ぇつけられたな…」

心なしか、オッサンの顔も強張っていた。

「いいか?そのままゆっくりと後ろへ下がれ。

ゆっくりと、だ。」

言われた通りにしたいが 足が上手く動かない…

冬だっていうのに、汗でシャツがじっとりと湿ってくる。

俺は少しずつ後ろへ下がる。あと少しでドアというところで

「ンギャアアアァン!」とチョビが鳴き、窓をすり抜け あいつに飛びついていった。

一瞬ひるんだが、あいつはチョビの尻尾をガッ!と掴むと そのまま消えてしまった。

「チ、チョビ!」

俺は慌てて窓に駆け寄った。

「オッサン!チョビが…」

「落ち着け!チョビは大丈夫だ!だからお前は布団に入ってろ。 絶対手も足も出すなよ!」

俺はうなずくと、 布団に潜り込み震えていた。

そのまま朝まで眠る事はできなかった…

気づくと布団のすき間から、朝日が差し込んでいた。

もう出ても大丈夫なのか?

怖々布団から頭を出してみる。

そこには親父の医学書を読んでいる カールがいた。

「あれ?カール、帰ってたのか。オッサンは?」

「おはようございます、ゆうや君。おじさんは見かけませんでしたよ?」

俺に布団に入れと言った後 オッサンはどこかに行ったのだろうか。

チョビを取り戻しに…?

「そうだ!チョビを見なかったか!?」

「いいえ…見てないですね。何かあったんですか?」

女の子のように長いまつげの目をパチパチさせて、カールは俺の顔を覗き込んだ。

「実はさ…」俺は昨日の事を全て話した。

最後まで聞き終わると、何か考え込むように カールは目をつぶった。

そして「もしかして…」と呟くと、静かに目を開け俺に言った。

「僕はソイツを知っているかもしれません…」

「知ってる?あいつを!?」

「はい。確実ではありませんが、その可能性はあります。」

「じゃあ…あいつは一体なんなんだ!?なんで俺を…」

「わかりません。わかりませんが…絶対に関わってはいけない存在というモノがあるのです。

僕はソイツに…いえ、少し調べたい事があるので 出かけてきます。」

カールはそう言うと 消えてしまった。

絶対に関わってはいけないモノ…。

俺は目があっただけだ。

しかし それを関わりと言うのなら、俺はもう足を突っ込んでいるんじゃないか?

そう思うと、言いようのない不安が襲ってきた。

今この家には 本当に俺しかいない。

その事実が、心細さに拍車をかける。

『ガチャン』

玄関のドアの開く音に 心臓がドキンと跳ね上がった

「ただいま〜!ゆうや起きてるのー?」

母だ。俺は急いで玄関まで駆け降りた。

「やだ、なぁに?そんなに慌てて。…あんた昨日もゲームやって 遅くまで起きてたでしょ!

顔色悪いわよ?」

「あ、あぁ…そう?」

歩きながら小言を言うのは いつもの事だ。

母の普段通りの調子に ほっとする。

「それに昨日食べた物も出しっぱなしじゃないの。

あら?なんでスプーンが二本も?」

しまった。忘れてた!

「ごめん、なんか間違って二本出しちゃってたみたいだ。ハハハ!」

とりあえず、笑ってごまかす。

「何それ?変な子ね〜。疲れてんじゃないの?」

まさか幽霊が使いました、とは言えないしな…。

「それより父さんは?」

「帰り際に急なオペが入っちゃってね。帰ってくるのは、もう少し後になりそうね。」

「そうなんだ。大変だね」

「仕方ないわ。あんた朝ご飯は?」

「まだ。」「じゃ 一緒に食べましょ。」

母が買ってきたパンを口を運びながら、俺は考えていた。

あいつが今夜は来ないとは言いきれない。

自分でも何かしなくちゃ いけないんじゃないか?

お守りの一つでも買っておくか…。

朝食を食べおわすと、身仕度を整え 俺は外へ出た。

さてと、どうするかな。

何かしなくちゃいけないとは思うが、何をすればいいのか さっぱりわからない

寺とか神社へ行けばいいのだろうか?

俺はとりあえず 近所の寺へ行く事にした。

なんだ、この階段…。一体何段あるんだよ!

寺に着く前に 気持ちがめげそうになるな。

それでも一段一段登って行くと 120段目にようやく寺に着いた。

「あ〜、しんどい…」

息を切らしながら辺りを見回すと、若い坊さん?が庭を掃除していた。

「あの〜、ここはお守りとか売っていますか?」

俺が話しかけると

「お守り、ですか?すみません、そういう物は扱っておりませんが…」

しまった。やっぱり神社に行くべきだったか?

来る所を間違えたっぽいな…。

「そうですか。あ、なんか邪魔しちゃってすみませんでした。」

「いえいえ…こちらこそ」

そう言うとその人は また掃除を始めた。

仕方ないな、戻るか。

そう思った時 奥から出てきたお爺さんに呼び止められた。

「どうされましたかな?」

「あ、住職様。この方がお守りをと…」

「あの!なんか間違えてしまったみたいで…だから大丈夫ですから!」

俺が慌てて言うと、住職はふ〜むと呟き

「こちらへおいでなさい」と言った。

「え?でも…」

「いいから。少しお話でもしましょうか」

にこやかに言う住職に逆らえず、俺は後をついて行くしかなかった。

「ここへどうぞ。」

奥の部屋に通された俺は、置かれた座布団の上に座った。

お茶まで出され、仕方なくいただいていると 住職が話し始めた。

「あなたはとても面白いですね。」

「へ?あ、え?」

わけがわからず返事に困っていると

「私はね、今までいろんな人間を見て来ました。

でも こんなに霊と密接に暮らしてきた人は 初めて見ましたよ。」

と言い出した。

な、なんで…!まだ俺何も言ってないのに!?

「霊を見る、霊の声を聞く。そういう人はたくさんいます。だけど あなたみたいに家族のように暮らしている人は 稀でしょうな」

「あの、なんでわかるんですか…?」

「あなたを見た時、普段の色々な場面が私の中に流れ込んできました。

こんな事は珍しいんですよ?」

「はぁ…」

「しかし一つ気になるのが とても良くないモノが…私には闇にしか見えませんでしたが、それが あなたを飲み込もうとしているのも 見えたのです」

「闇…」とたんに鼓動が早くなる。

あいつの事だ!

「とても強いモノです。あなたには、あの闇に立ち向かう勇気がありますか?」

俺は何も言えなかった。勇気なんて言われても…

「あなたが闇に負ければ 大切な物を失うかもしれません。

それは共に暮らすあのモノ達なのか…それとも自らの命か。私には計り知る事ができませんが」

そんな…!

「俺は…!友達を守りたいです!もちろん自分の命も…。」

俺があいつと関わったせいでオッサン達が…?

そんなの絶対に嫌だ!

「大丈夫。あなたがその気になれば、必ず勝てる。

あなたの能力は、あなたが思っているよりずっと 強力なのですよ。

それでも駄目だと思ったら ここに来なさい!

私があなたを全力で守りますから。しかし、生きている者しか守れないのです」

「ありがとうございます。でも俺戦いますから!」

絶対負けるわけにいかないんだ!

「私も、あなたが必ず打ち勝つと信じていますよ。

これを持って行きなさい」

それはビー玉より少し大きいくらいの水晶玉だった。

「少しでも あなたの役に立てば良いのですが…。

全て終わったら、私のもとへ来て下さい。

お友達も一緒に…」

そう言うと、住職様は優しく微笑んだ。

俺は礼を言ってから、寺を後にした。

今夜が勝負だ。

今までで1番長い夜になりそうだ……

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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とても心配です、、そうゆう意味で怖いを付けさせていただきました