中編5
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業担と幽霊1

以前、少し触れた地元の派遣会社で業担をしていた時、従業員の部屋に幽霊が出た騒ぎ…その話をしてみようと思う。

前半はドタバタ、後半はシリアスです。

ある日の夕方。

残業確認も終わり、配車の手配も終わってのんびりしていた。

そこに通訳のHさん(KYのHさんとは別人です…念の為)が、「どうしたもんかねぇ~」と苦笑いしながらやって来た。

何故、通訳がいるかというと、私の派遣会社は日本人と日系ブラジル人の両方の従業員がいる為。

私「どうしたんですか?」

Hさん「いや夜勤者のE(日系人従業員)がさぁ…寮に幽霊が出たから、今日休むって言うんだよねぇ」

私「幽霊…ですか?困ったなぁ…リーダーにどう説明したらいいんだか…」

Hさん「そうなんだよねぇ~幽霊が出たから休みます、なんて言ったら、あいつクビになるよ」

二人して苦笑。

とりあえず、遅刻するとごまかしといて、放置も出来ないので問題の寮に行くことに。

私「しかし同居人がいれば家賃は半分になるけど…」

Hさん「幽霊じゃ給料無いから、半分にはならんわね。ははっ、Eも迷惑なことだぁ」

私もHさんもB型。

ウマが合うしノリも毒舌も共通。

当時は業担ではなく、責任者と言ったが、二人して「俺達は責任者じゃなくて、無責任者だから」なんて従業員に言ってた。

そのくせ行動力は凄いもんで、従業員からのクレームはほとんど無し。

会社の雰囲気も明るく、定着率も高かった。

私が長いこと勤められたのも、Hさんがいたから。

最初は通訳もいなくて、大変な思いをしたものだ。

閑話休題。

私「じゃあ、俺が夜勤者の出勤確認してから行くんで、HさんはEのとこ行って状況を聞いといて下さい」

Hさん「はいはい、じゃあヨロシクぅ~」

現場のリーダーには、とりあえず適当に遅刻する旨を伝えて夜勤者の出勤を確認した後、私はEの寮に向かった。

一応、塩と盛り塩をする為の容器を途中で買った。

Hさんに電話したらEは寮の近くのコンビニに避難していて、今保護して状況を聞いてるとのこと。

じゃあ寮に着いたらまた連絡しますわ、と言って到着。

すぐにHさんがEを乗せて来た。

Eの怯えようが尋常じゃない。

さて、本当に幽霊が出たのか、単なる勘違いなのか…。

Hさんから聞いた、Eに起きたこと。

夕方、起きてトイレに行こうと廊下の照明のスイッチを入れた。

すると、照明がカチカチと点いたり消えたりして、フッと消えた。

同時に、おじいさんの幽霊が現れた。

怖くなって、慌てて部屋を飛び出して逃げた。

そんなに怖かったのか?

しかしEは玄関から中には、入ろうとはしない。

よっぽど怖かったようだ。

問題の照明を点けてみる。

ちゃんと点く。

接触不良や、蛍光灯が切れかけているワケでもなさそう。

部屋に入ってみる。

綺麗にしてある。

と…、

パキッ…!

ラップ音がした。

あちゃー…いらっしゃいますわ。

しかし、Hさんは「見えない」普通の人。

しかも、悪気は無いけどお喋り。

本当のことを言ったら…。

翌日には、○○(私)さんは幽霊が見えてさぁ~…なんて従業員に話しまくるHさんの姿が、容易に想像が出来る。

…嫌過ぎる…。

消去!

私は、ハンガーにかけてあったEの作業着をとると、

「Hさん、俺、盛り塩しておくんで、Eを送ってもらえます?」

と言った。

Eには聞こえないように、

「気休めだけど、何もせんワケにもいかんでしょ。日本の幽霊を追い払う方法だから、と言っておいて下さい」

Hさんは、やれやれ…という感じで苦笑いして、

「分かりましたぁ~じゃあヨロシクっ!」

と言って、Eを送りに行った。

「飯は途中のコンビニで買わせるよ」

と言うHさんに、

「はい、頼んますわぁ」

と答えた。

車の音が去って行ったのを確認して、私はソレと向き合った。

おじいさんの幽霊。

悪い気配は無い。

正直、怖いが話し掛けてみた。

「おじいさん、何でここにいるの?」

すると、おじいさんは意外そうな表情になり、

「あんた、ワシが見えーかね(地元の方言入ってます)?」

と言った。

「姿も見えるし、言うことも聞こえますよ。で、何でここにいるの?」

と再度質問。

「見えるなら…あんたに頼みたいことがある…」

一緒にあの世に行ってくれ、とか言い出さないだろな…と警戒しつつ、

「出来ることならしますけん」

と答えた。

「それじゃあ…」

Eの部屋を出た後、私とおじいさん(の幽霊)は河原にいた。

夜の河原に、見知らぬおじいさん(しかも幽霊)と二人…シュールだ…。

しかし、おじいさんが頼みたいものがここにあると言うのだから、仕方ない。

で、ソレが河原の草を掻き分けて現れた。

真っ白な毛の子猫。

おじいさんが生前、捨てられていたのを可哀相に思い、連れて帰ったのだが、おじいさんの亡くなった後に遺族が捨ててしまったらしい。

子猫は、おじいさんの姿が見えるようで、ヨタヨタながらも鳴きながらおじいさんの足元に。

そして、おじいさんの足に擦り寄ろうとして…転んだ。

皮肉なことに、お互い姿が見えるのに触れ合うことは出来ないらしい。

子猫は、何度もおじいさんの足に擦り寄ろうとしては転ぶ。

一生懸命…そして、最後には悲痛な鳴き声をあげた。

おじいさんは、辛そうな顔をしている。

なんて辛い光景だろう…不覚にも、泣いてしまった…。

おじいさんは、

「この子を…頼む…」

と言って…消えてしまった…。

子猫は、必死におじいさんを探していた…。

さて…ウチでは飼ってやれない。

私は携帯を取り出した。

幸い、最初に電話した友人がアッサリと引き受けてくれた。

彼女の家は家族揃って猫好き、大事に育ててくれるはずだ。

帰ろうと車に乗ったら、

「すまんかったのぅ…」

「ギャーーーっ!」

いきなり、おじいさんが助手席に現れた。

「こら、じいさん!いきなり現れんな!心臓止まるかと思ったやんか!」

と怒鳴ると、

「おお、すまんすまん…」

怒鳴っておいてアレだが、謝るな、調子狂う…。

「これで良かったんでしょ?」

「ああ…これで思い残すことは何も無い…」

「たまには顔を見に行ってやりなよ」

と言うと、おじいさんはゆっくり首を横に振った。

「触れ合うことも出来ないのに、それは酷な話だよ…。まして、それじゃあワシもあの子も未練が残る…」

おじいさんは、寂しそうに笑うと、

「ありがとう、それじゃあ…」

と言い残して、消えていった。

それ以来、おじいさんの幽霊が現れることは無かった。

肝心のEだが、可哀相に幽霊を見たショックがよほど大きかったようで、しばらくして退職して他県に行ってしまった。

子猫は今も元気に、友人の家で暮らしているそうだ。

怖い話投稿:ホラーテラー 元業担さん  

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