中編3
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エレベーターを見る女

ごく最近の話

仕事である取引先のテナントに届け物を持っていくことになった。

初めて行く場所なので簡易な地図を上司に書いてもらう。

その地図を頼りに数十分、

◯◯ビルと書かれた目的の場所に着く。

テナントはこのビルの8階だったので私はエレベーターのボタンを押した。

初めて顔を出す場所なので、頭の中で挨拶などの流れを一通り練習しながら、目的のテナントの前に着く。

「失礼します。◯◯と申しますがお届けものを持って参りました。」

すぐに女性の従業員らしき方がこちらに向かって来る。

「◯◯さんにこちらをお渡し下さい。」

私は女性に届け物を渡し、会釈をしてそこを出た。

まぁたかだか荷物を届けただけなのだけども、やっぱり初めて来る所は緊張するもんだ。

緊張が和らぎ、いくぶん気が楽になってエレベーターのボタンを押した。

エレベーターに乗り、ボーッと会社に戻ってからのことでも考える。

エレベーターが7階にさしかかった時、ふと視界に人の姿が映った。

エレベーターに乗ろうとするところだったのだろうか。

しかし、エレベーターは止まる事なくそのまま過ぎていった。

タイミング悪いなぁとか思いつつ、エレベーターが6階にさしかかった時、また人が立っていた。

一瞬ギョッとする。

あれ?さっきの人?いやまさかなぁ。

ありえるはずがないけどなんとなくさっきの人と風貌が同じだったので、ちょっと驚いた。

6階にいたのは髪の長い白い女だ。

髪に隠れて顔は見えない。

7階にいたのも似たような女だった気がするが・・・・

そんなことを考えながらもエレベーターは6階を過ぎる。

なんとなくいやな予感がする・・・

エレベーターが5階にさしかかった。

女がいた。

思考が一瞬止まる。

さっきと同じ女だ。間違いない。

瞬間身体がガタガタ震えた。

エレベーターのスピードにぴったり人間がついてくるわけがないのだ。

コイツは人間じゃない。

エレベーターはなおも下に降りていく。

6階を通り過ぎた。

5階。

いる。

同じ女だ。

これはヤバい。

もう目なんか合わせられない。

体から冷や汗がふきだし、私はふるえながら昔なんかのテレビで見たお祓いの呪文?だかなんだかを口ずさみながら女が消えるのをひたすら願った。

4階、3階とエレベーターは降りていく。

女はどの階でもただ棒立ちでこちらを向いて立っているだけだ。

何かしてくるわけじゃない。

しかしある予感が頭にちらつく。

このまま一階に着いたらドアが開く。

そこにも女が立っていたらどうすればいいんだ。

もう何にすがっていいかもわからずただテレビで見た、うろ覚えの呪文を口ずさむしかなかった。

「りん、びょう、とう、しゃ、・・・」

後でネットで調べたが九字切りという護身法ではあるらしい。

2階を過ぎた。

女はいる。

あとは1階のみ。

助けて下さい。助けて下さい。助けて下さい。助けて下さい。助けて下さい。

祈るように手を合わせてドアを見た。

女がいない。

助かった。

エレベーターのドアが開く。

私は全速力でエレベーターから下りて、そのままの勢いでビルを飛び出した。

ここまで来たら大丈夫だ。

安堵してチラッと後ろを振り返りエレベーターを見た。

女は閉じたエレベーターの中に立っていた。

女は私の後ろにいたのだ。

怖い話投稿:ホラーテラー ヒノさん  

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