中編4
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寮の時の話

大学の寮にいた頃の話です。

うちの寮では室内履きは自前のスリッパでした。

紛れないようにみんな個性的な柄を選ぶので、

部屋の前で脱がれたスリッパを見たら、親しい子ならそこに誰がいるのか判ったりします。

ある夜中、自分がトイレに入っていると、カラコロと下駄の音がしました。

(トイレはいわゆる便所下駄に履き替えます)

そしてバタンと個室に入る音。

ありふれたことなんで気にもせずに用をすませて、自分は洗面へ行きました。

消灯後なので最小限の電気しか点いてないんですが、歩くのも手を洗うにも不自由するほど暗くはない。

で、何気なく入り口を見たらスリッパがありませんでした。

(確かに誰か入った気がしたんだけど??)

そう思って個室の方に意識を向けましたが、人のいる気配はしません。

気のせいかと思い、蛇口をひねり、手を洗い始めると

バタン!とドアが開き、また下駄の音。

私は隣の洗面台にくるであろう寮生の為に少し身体を避けてみたのですが、

その下駄の音は洗面台をスルーして出口へ行ってしまいました。

げ、手洗わないのかよ!と心で突っ込みましたがスリッパも姿も見てないんで

そういう子もいるんだなぁと思っただけでした。

数日後、隣の部屋の先輩が部屋に遊びにきてて、

「この階にトイレで手を洗わない子いるよねー」と言い始めました。

「あ、私も会いましたー」自分もあの夜のことを思い出して、同意しました。

「誰だった?」と先輩が聞くので、

「姿見てないです、スリッパもはいてきてなかったし」

「あれ、貴女も?私のときもなかったわ、スリッパ」

「スリッパも履かない、手も洗わない、なにその子」

同室の先輩があからさまに嫌な顔しました。

「夜だから面倒だったんじゃないですか?」

「誰も見てないからって、不潔だよ。その足で部屋に上がられたらキモイし」

「今度見かけたら注意しとくよ。自分だけよけりゃいいって話でもないから」

先輩達はその子に説教する気まんまんでした。

しばらくしてまた夜中にトイレに行った時、下駄の音がしました。

自分がドアを開けると入れ違うように向かいのドアが閉まったので、そこに入ったのでしょう。

入り口を見るとスリッパがありません。

あ、あの子だ。

誰だか確認しようか、それとも先輩から説教される前に気をつけたがいいよって

忠告しようかと、彼女が出て来るのをしばらく待っていました。

けれど、しばらく待っていても出て来る気配がありません。

あまりに長いんで、なにかあったんじゃないかと心配になり、先ほどのドアをノックしてみました。

けれど、そのトイレのドアは鍵もかかってなくて・・・ドアを叩いたらギギギ、と開きました。

誰もいません。

確かに下駄の音を聞いたし、ドアが閉まるのを見たのです。

床を見ると、茶かかった髪の毛が10本ほどまとまったまま、円を描くように落ちていました。

ぞっとしたのですが、毎日使うトイレだし、自分の気のせいだと思うようにしてその日は寝てしまいました。

それからなるべくトイレは人の多い消灯前にすますようにして、夜中には行かないようになりました。

ひと月ほど経った頃でしょうか。

凄まじい悲鳴で目を覚ましました。

飛び起きて廊下に出てみると、やっぱり飛び起きた寮生がドアから顔を出していました。

「トイレの方?」

「そうみたい・・・」

起きだした寮生8人くらいでおそるおそるトイレの方に行ってみると・・・

隣の部屋の先輩が、腰が抜けたという感じでしゃがみ込んでいました。

目の焦点が合ってない感じで、がたがた震えています。

「○○ちゃん?大丈夫?」

同室の先輩が声を掛けると、隣の部屋の先輩はゆっくり顔を上げて泣き出しました。

何か言ってるんですが、何を言ってるのか聞き取れません。

そのうち騒ぎに気づいた寮管さんたちがやってきました。

それで、同室の先輩だけ残されてみんな寝るように、と部屋に返されたのですが。

私は見てしまったのです。先輩の両腕に残されたまるで誰かが強く握ったような痕と、

足下におびただしい量で散らばっている茶色っぽい髪の毛を。

集まってた子は結局寝れず、一つの部屋に集まって夜が開けるのを待ちました。

隣の部屋の先輩はその日から寮に戻ってきませんでした。

寮官からは何の説明もありませんでした。

その日以降、私たちはトイレを使うときは下か上の階のトイレを使うようになりました。

後で同室の先輩から少しだけ話を聞くことができました。

あの夜、隣の部屋の先輩はスリッパがないのを見て、トイレのドアを端からひとつづ開けていったそうです。

「手を洗わないバイキン娘はどこだー」

「ここにもいない」

「ここでもない」

「ここでもない・・・」

「ここかー!」

最後のドアを開けた時、中に見覚えのない子がうつむいて立っていたそうです。

「誰?何号室の子?」

先輩が女の子に詰め寄ったとたん、

その子が先輩の腕を掴んで

ずいっと顔を近づけてきたそうです。

半分潰れたようにぐしゃぐしゃで

どす黒い血が貼り付いて、生きてると思えない顔。

「ナンデ・・・マダイジメルノ?」

女の子がそういって、イヤイヤするように顔を振ると

同時に髪の毛がハラハラと落ちていった。

そこまでで記憶が飛んでいるそうです。

同窓会の時、別の先輩から関係すると思われる昔の自殺話も聞きました。

10年近く前、虐めを苦にして屋上から飛び降り自殺した寮生がいたそうです。

スリッパを隠されたり、トイレに入っていたらドアを執拗にノックされたり

食事を全部混ぜられたり、そういうことは日常茶飯事だったらしい。

ある時その子が髪を染めたのが生意気だといって、髪を抜けるほど引っ張られたそうで、

その直後に屋上の物干から飛び降りてしまったということでした。

怖い話投稿:ホラーテラー Mさん  

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