短編2
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想いが起こした奇跡

我が家には、一つの古い掛け軸が飾られている。

不動明王様の掛け軸…祖父母の生前から飾られているこの掛け軸は、ある奇跡が起きた物だ。

戦後、祖父が帰還して祖母と私の母親(末娘)ら子供達との暮らしを始めた頃の話。

祖母が、病名は忘れてしまったが病に倒れた。

下がらない高熱。

医者も匙を投げてしまった。

つまり、祖母は助かる見込みは無く、医者からも見捨てられてしまった。

死を待つだけ…医者はそう宣告した。

祖父は諦めなかった。

祖父は、不動明王様に祈った。

祖父母は、不動明王様を信仰するというより、慕っていた。

私も不動明王様が好きなのは、祖父母の影響かも知れない。

ましてや、不動明王様は私の干支を守護する御仏でもある。

話を戻して…。

祖父は祈った。

必死だった。

戦争も終わり、祖国に帰還し、苦しい時代だが家族としての暮らしが再開したばかりだった。

やっと一緒に暮らせるのに…死ぬな!

死なせない!

毎日毎日、布団で苦しむ祖母の側で、祖父は祈った。

そんなある日、近所の母の友達が遊びに来た。

祖母の側で祈る祖父の姿は、窓から見えたそうだ。

友達が母を呼ぼうとした時、祖母の寝ている部屋に飾られていた不動明王様の掛け軸から、紅蓮の炎が吹き出した。

幼かった母の友達は、びっくりして逃げて帰ったそうだ。

それから…祖母は回復した。

元気になった祖母を見た医者は、

「奇跡だ…」

と唖然としたという。

祖父の祖母への想い、それが奇跡を起こした。

単に奇跡と言っても、それを起こすのは容易なことじゃないと私は思う。

いつも一緒に、穏やかな笑顔でいた祖父と祖母。

二人の間には、深くて確かな愛情が満ちていた…そう思う。

怖い話投稿:ホラーテラー まささん  

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