我が家には、一つの古い掛け軸が飾られている。
不動明王様の掛け軸…祖父母の生前から飾られているこの掛け軸は、ある奇跡が起きた物だ。
戦後、祖父が帰還して祖母と私の母親(末娘)ら子供達との暮らしを始めた頃の話。
祖母が、病名は忘れてしまったが病に倒れた。
下がらない高熱。
医者も匙を投げてしまった。
つまり、祖母は助かる見込みは無く、医者からも見捨てられてしまった。
死を待つだけ…医者はそう宣告した。
祖父は諦めなかった。
祖父は、不動明王様に祈った。
祖父母は、不動明王様を信仰するというより、慕っていた。
私も不動明王様が好きなのは、祖父母の影響かも知れない。
ましてや、不動明王様は私の干支を守護する御仏でもある。
話を戻して…。
祖父は祈った。
必死だった。
戦争も終わり、祖国に帰還し、苦しい時代だが家族としての暮らしが再開したばかりだった。
やっと一緒に暮らせるのに…死ぬな!
死なせない!
毎日毎日、布団で苦しむ祖母の側で、祖父は祈った。
そんなある日、近所の母の友達が遊びに来た。
祖母の側で祈る祖父の姿は、窓から見えたそうだ。
友達が母を呼ぼうとした時、祖母の寝ている部屋に飾られていた不動明王様の掛け軸から、紅蓮の炎が吹き出した。
幼かった母の友達は、びっくりして逃げて帰ったそうだ。
それから…祖母は回復した。
元気になった祖母を見た医者は、
「奇跡だ…」
と唖然としたという。
祖父の祖母への想い、それが奇跡を起こした。
単に奇跡と言っても、それを起こすのは容易なことじゃないと私は思う。
いつも一緒に、穏やかな笑顔でいた祖父と祖母。
二人の間には、深くて確かな愛情が満ちていた…そう思う。
怖い話投稿:ホラーテラー まささん
作者怖話