中編6
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リンフォン、―前編―

 中編ものの短編です。コピー&ペーストしましたが、読者様が目を通しやすい様、貼付後に多少編集していますので、拝見した事があるが多少違うと思えども、悪しからずご了承下さい。

         *

 先日、アンティーク好きな彼女と、ドライブがてら骨董店やリサイクルショップを回る事になった。

 俺もレゲーや古着などといった類いが好きで、掘り出し物のファミコンソフトや古着等を集めている。

 買う物は違えども、その様な物が売っている店は同じである為、楽しく店を巡っていたのだった。

 お互い掘り出し物も数点買う事が出来、テンション上がったまま車を走らせていると一軒の古びた店が目についた。

俺「うはっ……! 意外とこんな寂れた店に、オバケのQ太郎ゴールドバージョンが眠ってたりすんだよな」

 そんな浮かれる俺を冷めた目で見る彼女と共に、俺は店に入る。

 コンビニ程度の広さの、至って小さな店内だった。

 主に古本が多く、家具や古着の類はあまり置いていない様である。

 ファミコンソフトなど『究極ハリキ○スタジアム』が、嫌がらせの如く一本だけ埃を被って棚に置いてあるだけなのだ。

 そうしてもう出ようか、と言いかけた時。

彼女「……あっ」

 と、彼女が驚嘆の声を上げた。

 俺が駆け寄ると、ぬいぐるみや置物などが詰め込まれた、バスケットケースの前で立ち尽くす彼女が目に留まる。

俺「何か掘り出し物あった?」

彼女「これ、凄い」

 そう言うと、彼女はバスケットケースの一番底に押し込まれる形で存在していた正二十面体の置物を、ぬいぐるみや他の置物を掻き分けて手に取り見つめる。

 今思えば、何故バスケットケースの一番底にあって外からは見えない筈の物が彼女に見えたのか、不思議な出来事はこの時から既に始まっていたのかも知れない。

俺「何これ? プレミアもん?」

彼女「や、見た事ないけど……この置物買おうかな」

 まぁ、確かに何とも言えない落ち着いた色合いのこの置物、オブジェクトとしては悪くないとも思える程である。

 それを考えた俺は、安易に『安かったら買っちゃえば?』と購入を勧めたのだった。

 その言葉で決心がついたのか、彼女はレジへその正二十面体を持って精算すべく向かう。

 支払いに向かうと、カウンターには随分と年老いた爺さんが古本を読みながら座っていた。

彼女「すいません、これいくらですか?」

 その時、俺は見逃さなかった。

 爺さんが古本から目線を上げ、正二十面体を目にした時の表情を。

 驚愕、としか表現出来ない様な驚きを一瞬の内で顔に浮かべたのだ。しかし、直ぐ様その後は普通と変わらない先程の表情になる。

爺「あっ、あぁ、これね……えーっと、いくらだったかな。……ちょ、ちょっと待っててくれる?」

 そう言うと爺さんは、奥の部屋、恐らく自宅兼だろう。その向こうへと入って行った。

 すると、奥さんらしき老女と何か言い争っているのが断片的に聞こえた。

 やがて、爺さんが一枚の結構黄ばんだ紙切れを持って現れる。

爺「それはね、所謂、玩具の一つで、リンフォンって名前で、この説明書に詳しい事が書いてあるんだけど」

 相手はそう説明し、余程汚れていたのか埃を軽く払い落としてから紙を広げた。

 見て分かる通り、随分と古い物だと言える。

 紙には例の正二十面体の絵に『RINFONE(リンフォン)』と書かれており、それが熊、鷹、魚、の順に変形する経緯が絵で描かれていた。 訳の分からない言語も添えてある事に気が付く。

 爺さんが言うには、ラテン語と英語で書かれているらしい。

爺「この様に、この置物が色んな動物に変形出来るんだよ。……先ずリンフォンを両手で包み込み、お握りを握る様な形で撫で回してごらん」

 彼女は言われるがままにリンフォンを両手で包み、握る様に撫で回した。すると途端、『カチっ』という音が鳴り、正二十面体の面の一部が隆起したのだ。

彼女「……わっ、凄ーい」

爺「その出っ張った物を回して見たり、もっと上に引き上げたりしてごらん」

 爺さんに言われる通り彼女がそう動作を要すれば、今度は別の一面が陥没する。

彼女「凄い凄い…! パズルみたいな物ですね! ほら、ね、やってみたら?」

 傍観していた此方を見兼ねたのか、今度は彼女がそう勧める立場で楽しげに口にした。

 この仕組みを言葉で説明するのは凄く難しいのだが、『トランスフォーマー』と言う玩具をご存知だろうか。

 カセットテープがロボットに変形したり、拳銃やトラックがロボットにと、昔流行った玩具の事である。

 つまりこのリンフォンも、正二十面体の何処かを押したり回したりすると、熊や鷹、魚などの色々な動物に変形する、と想像して貰いたい。

 最早、彼女はリンフォンに興味深々だった。何せ俺でさえ凄い玩具だと思ったのだ。

彼女「あの、……それでおいくらなんでしょうか?」

 彼女が恐る恐る聞くと、爺さんは暫く考える仕草を設けてから、投げ掛ける様に答えた。

爺「それねぇ、結構古いものなんだよね。…でも、私らも置いてある事すら忘れてた物だし……。よし、特別に一万でどうだろう? ネットなんかに出したら好きな人は数十万でも買うと思うんだけど」

 そこは値切り上手の彼女の事だ。

 結局は六千五百円にまで値引いて頂き、顔を綻ばせ店を後にしたのだった。

 そうして次の日は月曜日だった事も含め、一緒にレストランで晩飯を食べ終わると二人共直ぐに帰宅したのである。

 その後、月曜日。

 仕事が終わり家に帰り着いた途端、彼女から電話があった。

彼女「聞いて、あれ凄いよ、リンフォン。本当パズルって感じで動物の形になって行くの。仕事中もそればっかり頭にあって、手に付かない感じで。…本気で下手なTVゲームより面白い」

 と、一方的に興奮しながら彼女は説明していた。

 そして電話を切った後、写メールが届く。

 リンフォンを握っている彼女の両手が映り、リンフォンから突き出ている、熊の頭部の様な物と足が二本。

 俺は、『良く出来てるな』そう思わず感心し、その様な感想をメールで送ってからその日は就寝した。

 次の日、仕事の帰り道を車で移動していると、再び受信された彼女からのメール。

 『本当に面白い。昨日徹夜でリンフォン弄ってたら、とうとう熊が出来た。見にきてよ』

 そう驚きを隠せない風な内容だった。

 俺は苦笑しながらも、車の進路を彼女の家へと向ける。

俺「なぁ、徹夜したって言ってたけど、仕事には行ったの?」

 取り敢えず着くなり俺がそう聞くと、『行った行った。でも、お陰でコーヒー飲み過ぎて気持ち悪くなったけど』と彼女が微笑しながら答えた。

 テーブルの上には、四つ足で少し首を上げた、熊の形になったリンフォンが存在している。

俺「おぉっ、マジ凄くないこれ? 仕組みはどうやって出来てんだろ」

彼女「凄いでしょう? 本当ハマるこれ。次はこの熊から鷹になる筈なんだよね。早速やろうかなと思って…」

俺「おいおい、流石に今日は徹夜とかするなよ。明日で良いじゃん」

彼女「それもそうだね」

 と、そこでその会話は終わり、簡単な手料理を二人で食べてその日は帰宅。

 ちなみに例えで言い現してみると、リンフォンは大体ソフトボールくらいの大きさである。

 それから水曜日。

 通勤帰りに、今度は俺からメールをした。

 『ちゃんと寝たか? (その他、他愛ない内容)』そう送ると、直ぐに返って来る返信。

 『昨日はちゃんと寝たよ!今から帰って、続きが楽しみ』

 随分と入り込んでいる様子が伺えた。そして夜の十一時くらいだっただろうか。

 俺がゲームに夢中になっている最中に、再び写メールが送付され送られて来たのである。

 『鷹が出来たよ! かなりリアル。これ造った人、本気で天才じゃない?』

 そんな文を一通り眺めてから肝心の送付ファイルを開くと、翼を広げた鷹の形を要したリンフォンが映し出された。

 素人の俺から見ても、精巧な造りだと言う事が分かる。

 今にも羽ばたきそうな鷹が、そこに存在していたのだ。

 勿論玩具であり、ある程度は不規律な形をしているのだが。

 それでも、かなり良く出来ていた。

 『凄ぇー、後は魚のみじゃん。でも夢中になり過ぎずに、ゆっくり作れよなー』

 夜中だった為にそう短文で返信し、やがて眠ったのだった。

 

怖い話投稿:ホラーテラー 亜城 紅悠さん  

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