短編2
  • 表示切替
  • 使い方

パトカー猫

最近ぐっと捨て猫はいなくなったが、

去年まで我が家の近くには半野良猫がいた。

名はミィちゃん。

オスのパトカー猫だ。

半野良と書くからには

お分かりの通り

一応飼い主はいて去勢は済ませてある。

ただ家に決して入れない。

庭先で餌はやるがほぼ後は放置状態だった。

ミィちゃんはとてもおっとりした性格の良い猫で

ご近所のどの家でも彼が来ると

撫ぜたりこっそり煮干しをやったりしていた。

寒い日はともすると

エンジンを切ったばかりの自動車の上にいたりして

愛車家をムッとさもしたが

そんな人々も彼の猫徳のせいもあり

毛布などでボンネットをカバーし

傷がつかぬ様に配慮して彼が暖を取ることを許していた。

まぁ彼は地域に愛されていたわけだ。

ただ、飼い主については少々違い

「何で寒いのに家に入れてやらないのかなぁ・・・。」と

噂になったりした。

たぶん家の中に猫嫌いや猫アレルギーでもいたんだろう。

さて数年後、ミィちゃんも相当の年となり

目立って毛ヅヤも悪くなり痩せてきた。

御近所は心配したが所詮人様の猫、どうすることもできない。

こっそり精のつくものをやるぐらいが

してやれることだった。

そして去年の冬、とうとうミィちゃんが

ある家の庭先で倒れているのが見つかった。

その家の人は急いで飼い主のところに

連れて行ったらしい。

私はその事を後から知ったが、

丁度その日、飼い主宅の玄関先に

段ボールが出してあるのは会社帰りの塀越しに

見たのは覚えていた。

その翌々日だったか、、我が家の者が憤慨して私にいった。

「ミィちゃんが死んじゃったらしいの。

○○さんの話によると、

飼い主さん、倒れたミィちゃんを

この寒いのに玄関先の段ボールに入れて

一晩放置してたんだって。」

ではあの時の段ボールが…。

そう思うと、各家にはそれぞれ事情があるのだろうが、

はやり最後の一晩ぐらいは何とかならなかったのかと不憫さが込み上げてきた。

その週の日曜、リビングで新聞を読んでいるとふと庭先で猫が鳴いた。

それはいつもミィちゃんがやってくると

必ず我が家の連中に挨拶をする庭石のところからで、

声も彼のものだった。

死んだことも忘れて庭に出たが、

もちろんどこにも姿はない。

そういえば死んじゃったんだっけ…。

不審に思いながらも家の者にそのことを伝えた。

それから数日後。

家の者が私に言った。

「御近所のほとんどの家で

みんなミィちゃんの声を聞いたんだって。

聞かなかったのは飼い主さんだけみたいよ。」

ああ、性格の良い猫だったから、

きっとかわいがってくれた家々に挨拶していったんだな…と思った。

もちろん彼のことだ。

飼い主にもきちんと挨拶していったんじゃないかな。

ただ、残念ながらその声が飼い主の心にだけは

届かなかったのかもしれないけど・・・。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

Concrete
コメント怖い
10
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
返信