共同戦線スピンオフ−チョビ編−

中編7
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共同戦線スピンオフ−チョビ編−

「先生!リンちゃんは大丈夫だよね?今までみたいに治るよね!?」

その日あたしは、12度目の発作を起こして 動物病院へと運ばれた。

てんかん、と言うらしい。

いつもマナちゃんのママがお薬を飲ませてくれてるんだけど、たまにこうやって発作が起きる。

あたしが小さかった頃、人間に捨てられた時に 頭をぶつけたのが原因なんだって……。

いつもは少し経つと治まるのに、今日はなんだか長い……。

苦しくて、体中が痛いよ!

「もう……限界かもしれません。リンちゃんは、本当によく頑張った。

そろそろ…楽にしてやりませんか?」

先生…あたしが拾われた時から、見てくれてる優しい人…

そうか、あたし死んじゃうんだ………

「それは!安楽死って事ですか!?」

「はい…。今リンちゃんは、体中を襲う激痛と闘っています。

そしてこのまま、回復する事はないんです!

最後まで、苦しみ抜く事になると思います。」

「パパ!ママ!安楽死って…何?

リンちゃん、治るんだよね!?」

「マナ、リンはね、お薬で痛みを取ってあげて……それから天国へ送ってあげるんだよ。」

「天国?それって……。やだ!やだよ、そんなの! お願い、殺さないで?先生、リンちゃんを助けてよ!」

次の瞬間、今までにない激痛の波がやってきた。

「グウゥッ……グ…グゥ!」

足は突っ張り、体は激しく痙攣する。

「い、いけない!」

先生が素早く、ボールペンを あたしの口にくわえさせる。

口の横から、血の混じった泡が滲み出る…。

苦しい!

「リンちゃん!」

「ギャアン!」

マナちゃんがあたしを触った時…あまりの痛さに、その手を引っかいてしまった。

なんて事を!あたしがマナちゃんを引っ掻くなんて!

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!

マナちゃんは驚いた顔をした後、泣き出してしまった。

「リンちゃん、マナを引っ掻いちゃうくらい 辛いんだね…?

痛いんだね!?」

「そうよ、マナ。リンの痛みを取ってあげよ?

そして、抱きしめて…天国へ送ってあげよう?」

ママも、パパも泣いてる。

ごめんなさい、悲しませて……。

「う…ふぅ、うっ…せ、先生!リンちゃん…苦しくなくなる?

い、痛くなくなる?うっ…うあぁぁん…!」

「大丈夫だよ。痛くなくなるよ…。

眠ったまま、天国へ行けるんだ。

マナちゃん、抱っこしててあげてな?」

先生の涙が、あたしの顔に落ちた。

少しして、冷たい液体が体に入ってきたのがわかった。

体の痛みが引いていく。

息ができる…。

あぁ、あたし死ぬんだ…。

なんか、すごく疲れた。

「もう抱っこしてもいいよ。」

先生に言われて、マナちゃんがあたしを抱きしめてくれた。

パパもママも、一緒に抱きしめてくれてる。

あったかい…。

ありがとう、そしてごめんなさい。

たくさん泣かせて、悲しませてごめんなさい。

マナちゃん、まだ七つなのに……。

あたしの事が、心の傷にならなきゃいいな。

先生もありがとう。もう痛くないよ?

あのね、あたし…皆に会えて…良かったよ?

人間を…嫌いに……ならないで良かった………

もう、眠くて目を開けていられない…

マナちゃん

大好き。

あぁ、すごく いいにおい…

大好きだよ。

気がつくと、あたしの横には、いつも一緒に散歩する 小さなおじさんがいた。

そっか、あたし おじさんの仲間になっちゃったんだ。

「よく頑張ったな。お前は幸せだよ。

見てみな、あんなにたくさんの人に愛されてたんだぞ?」

見ると、先生もパパもママも、マナちゃんも…

皆が泣いていた。

おじさん…あたし嬉しいけど、でも悲しいよ。

ううん、死んだ事が悲しいんじゃないの。

皆が あたしのせいで泣いてるのが悲しいの…。

「あれはな、悲しい事を乗り越える為に 必要な事なんだ。

今だけは 泣かせてやりな。

もう少し お前はここに居れるんだから、そばに居てやればいいさ。」

うん。そうだね、おじさん…。

あたしはそれから、いつもマナちゃん達の近くにいた。

生きている時と変わらないくらいに。

違うのは、撫でてもらえない事だけ。

ただ、それだけ……。

あの日の学校からの帰り道、あたしとマナちゃんは子猫の声を聞いた。

マナちゃんもキョロキョロして 探していたが、道路沿いに置いてある段ボール箱から聞こえてくる事に気づいた。

箱を開けてみると、小さな茶色い子猫が ミューミューと鳴いている。

わぁ、小さいね、マナちゃん!

あたしがマナちゃんに拾われたのも、これくらいだったよね。

しかし、マナちゃんは蓋を閉めて歩き出してしまった。

えっ!?どうして…?

あの子 助けてあげないの!?

待って、マナちゃん!助けてあげないと、あの小さな命は すぐに消えちゃうの!

お腹すいたって……生きたいって、鳴いてるよ!?

お願い、マナちゃん 待って!

しばらく歩くと、マナちゃんは足を止め 戻ってきた。

そして、子猫を抱き 家へと帰った。

良かった……。でも なんだかおかしい…。

もう何日もたっているのに、子猫をさわろうともしない。

それどころか、子猫が近づいてくると 嫌がって逃げてしまう。

やっぱり、あたしのせいなんだ……。

きっとあたしの事が 、あの子の傷になってしったんだ!

どうしよう…………。

考えた末に、子猫はあたしが教育する事にした。

トイレも教えて完璧だし、爪とぎの場所もやり方も教えた。

人を噛み付くのはダメって事も、爪をたてるのもいけないって ちゃんと覚えさせた。

元々 人懐っこい子だから、パパもママも可愛がってくれてる。

なのに、マナちゃんは 目も合わせてはくれなかった…。

空は曇り、雪が降りそうなくらい寒かったあの日、あたしはおじさんに会うために外へ出た。

パラパラと小枝が落ちてきたのに気づき、上を見てみると 地上から遥か上の方に あの子猫がいるのが見えた。

嘘!何してんのあの子!

木に登って 降りれなくなっちゃったの!?

ぶるぶる震えて、声さえも出せないらしい。

視線を移すと、子猫を助けようとしてるのか マナちゃんが 懸命に木を登り続けている!

た、大変!どうしよう!

もし落ちたら、あたしじゃ助けられない!

ママは今いないし、どうしたら……!!

あたしは走りながら、すれ違う人間全てに叫び続けた。

助けて!助けて!

マナちゃんが、あの子が、大変なの!

誰か!お願い助けて!

だけど誰も立ち止まる人はいない…

見てくれる人もいない。

死ぬって、こういう事なの!?お願い、誰か…!

その時、男の人が遠くから あたしの方に向かって 走ってくるのが見えた。

凄い勢いで近づいて来る。

「おい!一体どうした!?」

肩におじさんが乗ってる!

助けて おじさん!こっちに来て!

あたしは、マナちゃんの元へ引き返した。

マナちゃんっ!

あたし達が着いたその時、足を滑らしたマナちゃんが 上から落ちてきた…!

「うおぁ!あ、危ねーー!」

ドサッと大きな音がして、思わず目をつぶる。

「大丈夫か!?痛いとこない?」

あの人が受け止めてくれたんだ……良かった!

マナちゃんは涙をぽろぽろ流しながら、でもしっかりと

「大丈夫です…。」と答えた。

子猫はいつの間にか、おじさんが木から降ろしてくれていた。

全く、あんたは!心配かけて〜!

「あの、助けてくれてありがとう。」

「うん。実はね、君を助けたのは 俺だけじゃないんだ。

猫がね、ここまで連れてきてくれたんだ。」

「……猫!」

「そう。黒くて、前足だけ白いの。知ってる?」

「リンちゃんだ!リンちゃんがマナを?」

マナちゃんは泣き出し

「あのね、お兄ちゃん。リンちゃん、怒ってない?

この子猫拾って、悲しんでない?」

彼はあたしをちらっと見てから

「全然怒ってないし、悲しんでもいないよ?

逆に、君が子猫を可愛いがってくれないと 悲しく思うんじゃないかな…?」

と言った。まるで、あたしの言いたい事が わかってるみたい……

「本当に?」「あぁ!」

マナちゃんは良かったと言うと、子猫を抱き上げ頬ずりした。

マナちゃん、本当はあの子が大好きだったんだ…良かった!

あたしに遠慮してたんだね。

じゃあね、と男の人が言い、歩き出したから あたしもついて行った。

ねぇ、おじさん。あたし決めた!

今度はあたしが、この人を守るよ。

「いいのか?お前は上に行けるんだぞ?」

いいの。

「………なぁ、ゆうや。この猫家に……」

「なんも言わなくてもわかってるって!

お前のあだ名は…チョビだ。いいな?」

そう言って ゆうやって呼ばれた人は、あたしを抱き上げた。

チョビ!?何それ!……変な名前!

でもこの人、いいにおいがする。

優しいにおい。

その心地良さに、あたしは目をつぶった。

ねぇマナちゃん。

いつか あたしが上に行ったら、またマナちゃんのとこに行きたいって頼むから………

そしたらまた、遊ぼうね。

怖い話投稿:ホラーテラー 桜雪さん  

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