中編6
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実話なんです③

最初の投稿で・・・福田君が何故他県で暮らしていたのか詳しい事情は分らない・・・と書いた。

もちろん当時の僕たちは何も知らなかった。

でも今では福田君の一族が普通では考えられない程、不幸続きであった事を知っている。

実話というのはなんでこうも書き難いのだろう・・・

書いていいものなのかどうか、本当に悩んでしまう。

おそらくこれまでの内容から、県内の人間なら、ああ、あのホテルの話か、とばれてしまうだろう・・・

しかし、本当の事を隠そうとすればする程、話は矛盾の一途をたどってしまう・・・

詳しくは書けないが・・・

会長には子供が実は2人いたのだ。

出来の良い娘と・・・狂った変態息子・・・この息子の為に他所(よそ)に出ざるを得なかった長女の事は書きたいけど今は書けない。

他人から聞いた話だし、何よりも福田君の名誉を著しく傷付けてしまうから。

そうでなくても福田君には負い目がある。

彼の名誉を損なうような事は、なるべくなら書きたくないんだ。

福田君の一族が呪われていた・・・

そうは思いたくないんだが・・・

もう・・・彼女と別れて5年になる。

今でも時々思い出す。

彼女がそのホテルで働いた期間は約3年、その内の最後の1年間、僕と彼女は付き合っていた。

付き合い始めた当初から、彼女は・・・

「あのホテル、怖い怖い」

・・・と繰り返していた。

彼女自身そこに勤めるまでは霊体験など一度も無くて、幽霊なんか興味を持った事すら無かったらしいのだが・・・

そのホテルで働き始めた初日から・・・

いきなり初めての金縛りに遭ったらしい。

何が見えたとか、そういうのは無かったそうだが、初めての経験にかなり怯えた。

翌朝、先輩の仲居さんにその事を報告したら、鼻で笑われたとか・・・

「そんなんで恐れてちゃ長くは続かないわね」

ホテルの裏山の中腹に建つ社員寮・・・従業員の間では金縛りなど恐い内には入らない程、心霊現象の巣窟だったのだ。

彼女が最初に驚いたのは、1人1部屋が許されている、ていうか基本なのに、殆んどの従業員が2人、または3人で相部屋にしているという事であった。

狭い4畳半にである。

彼女が初めて療に入った日、(果たしてどんな目に遭うか?)とみんな興味津津だったというのだ。

それでも彼女、相部屋なんて考えもしなかった。

他人と一緒に生活するなんて、想像しただけでもストレスが溜まる・・・

金縛りには毎日のように遭っていたらしいが、あれって慣れてくるものらしく、しばらく我慢していれば大丈夫、っと高をくくるようになっていたらしい。

(他人と住むよりはよっぽどいいわ)

しかしそんな彼女にも泣いて相部屋を頼む日がきてしまう。

その日は完全休日で(彼女はよくこの言葉を使った)、自分の部屋でくつろいでいた。

寒い日で、コタツに入って横向きでマンガを読んでいたらしいのだが・・・

(え!?)

突然、それまで経験した事の無い強烈な金縛りが彼女を襲った。

(なに?なに?なに?)

あろうことか、いきなりコタツが浮き上がって回り始めたという。

(わ!!)

両足首をわしづかみにされた!

!!!

彼女が言うには、畳より下にいく筈のない足が、強い力で畳より下に引きずり込まれたらしい。

(ギャー!)

今度が両足が持ち上げられた!

バーン!

宙からコタツが落ちてきてやっと、金縛りが解けたという。

這うように部屋を出た彼女は、先輩の仲居の部屋に転がり込んだ。

先輩は笑って言ったそうだ。

「そろそろ来るんじゃないかと思ってた」

どちらかといえばちゃんとしていた彼女の生活ががらりと変わった。

毎日のように焼酎を浴びるように飲む。

何が出てきても気づかない位酔いつぶれる為だ。

部屋の電気は絶対に消さない。

テレビは基本つけっぱなし。

彼女が先輩に聞いた所によると・・・

霊が出るのは1階と2階だけ。

7階建のうち3階以上は、霊の目撃は殆んど無いらしい。

だから必然的に、2階の一部にある客室は開かずの間になっている。

2階の宴会場はどこもやばい。

写真を撮っても何か変な物(者?)が写る。

2階にある大浴場は最悪。

客から・・・

「不気味な声を聞いた」

とか・・・

「湯船に浸かっていた筈の客がいなくなってた」

とかいうクレームが毎日のようにある。

何よりも壁に、女の姿のようなシミが浮き出ていた。

そして・・・驚く事に従業員全員が、裏山は昔処刑場だったと信じていたというのだ。

おかしな話だ。

町の者誰もが、処刑場跡地だなんて思ってもいないのに・・・

寝る時は相部屋だったが、さすがに自分の部屋は自分の部屋で持っていたかったらしく、睡眠中以外は一人で過ごした。

・・・真昼間でもあちこちから視線を感じる事があったという。

ホテルには結構大きめのパブがあり、5人のフィリピン女性が働いていた。

その中にいわゆる〈見える人〉がいたらしくて、たどたどしい日本語で、「あそこもいるよ!あそこにもいるよ!」と会う度にいちいち教えてくれる。

ただその女の言う事を信じたら、歩く場所が無くなるくらい、あちこちを指差していたらしいが・・・

僕が彼女と知り合ったのは、6年前にそのホテルで忘年会をやった時・・・

担当の係が彼女だったのだ。

宴会が終わり2次会で使うフィリピンパブに案内してくれたのも彼女だった。

彼女は20分位席に座って僕らの相手をしてくれた。

何がきっかけだったか・・・

「このホテルの裏山って昔処刑場だったって本当?」

僕が何気なく尋ねた時の、彼女の反応といったらなかった。

「それって有名な話なの?」

逆に彼女が聞き返してきたのだ。

それからは妙に意気投合。

一旦宴会場に戻って行ったが30分程で帰ってきてくれ12時まで楽しく飲んだ。

携帯番号が書かれた紙を渡され・・・以後1年間、冗談抜きで毎日のように彼女の怖い話に付き合わされた。

その話をいちいち挙げればきりがない。

台風でホテルの裏山が地滑りを起こした日。

彼女は完全休日の日だった・・・

正直言うと、ラブホでいちゃいちゃしてたんだが・・・

先輩の仲居さんから彼女に電話が掛かってきたんだ。

「骨が出たの!骨が出たの!!」

ひたすら大声で叫び続けていたらしい。

ひと月ばかり休業した後、営業が再開されたのだが・・・・

営業する前夜、寺の住職が呼ばれて何か行事が行われたらしいが・・・

あまり意味は無かったようだ。

営業再開してたった二日目の夜に、彼女はホテルを飛び出した。

手には包帯を巻いていた。

「やめた!やめた!!あんた大阪一緒に行かん?行こう!こんなとこもうこりごりやわ」

・・・僕は行かなかった。

いくら我慢強い彼女でも耐えられなかった体験・・・

その夜、仕事を終えた彼女はトイレに行くのに先輩を誘った。

そのホテルで最もやばいと噂の一階のトイレ。

従業員で一人で行ける者は誰もいない。

トイレの鍵は絶対にかけない。

すぐに飛び出せるように・・・

つきそいの者はトビラのすぐ外に立って待つ事に

なっていた。

便座に座ってさあ、という時・・・

「ギャー!!」

トビラの向こうにいる先輩が悲鳴を上げた!

遠ざかって行く足音を聞いた瞬間!

ものすごい耳鳴りに襲われた。

と同時に強烈な金縛り!

(やばいよやばいよ!今までのと違う!)

全身の毛が逆立つような感覚!

!!!

髪の毛が!

長い髪が!

上からゆっくり下りてきた。

一本一本まではっきり見えた。

(上見ちゃ駄目だ!)

顔がすぐ上にある!悲鳴をあげようにも声も出ない。

あまりの恐怖に目を閉じる事も出来ない。

(状況を確認しとかないと!)

一旦目を閉じたら怖くて二度と目を開けられない

それが一番怖かった。

額に息がかかった。

身体が硬直して、目の前のトビラに手を伸ばす事も出来ない。

鍵はしてないのに。

(!)生ゴミの腐ったような臭いが漂い始めた。

その時!

頭上にある筈の物が一度肩に当たって足元に落ちた。

(動いている!!)

上も下も見られなくなった彼女はどうしようもなく目を閉じた。

足を何かが這いあがってくるのが分った。

(南無阿弥陀仏・・・・・・・・)

バーン!!

トビラが開いた!

思わず目を開けた彼女の前には腐ったさかさまの女の顔があった。

支配人が彼女を助けに来た時には、彼女はオシッコを辺りにまき散らし倒れていたらしい。

今では、あのホテルに近づきもしない。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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