中編3
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白梅の香り

季節外れのお盆ネタですが、もしよかったら読んで下さい。

お盆のお墓参りに出掛けた、数年前の話になります。

私は、お線香にはこだわりがあって、

一般的な緑色のお線香よりも、香りに特徴があるタイプが好きなんです。

ラベンダーやら薔薇やら白檀やら・・・色々と試した結果、

お盆前に見付けた白梅の香りのお線香が気に入り、以降今でも愛用しています。

(このお線香、本当にいい香りなのでお勧めですよ。)

その日も、お墓をキレイに掃除して、お供え物を飾って、

白梅のお線香を焚き、手を合わせていました。

その霊園は、小高い丘に添うように墓石が建てられています。

我が家の墓は、斜面の下側にあり、顔を上げると

墓地の向こうに広がる真っ青な空

どこまでも高い入道雲

耳をつんざく様な蝉時雨

他のお墓から昇るお線香の煙り

そして一際際立つ、優しくも爽やかな白梅の香り・・・

真夏の情景を一様に愉しむ事が出来ました。

「さぁ、みなさん。今年もお迎えに来ましたよ。

これからお線香は、この白梅ですよ。」

などとブツブツ呟きつつ、お墓を後にしました。

駐車場までの細い道には、無縁仏なのでしょうか。

打ち棄てられたように、墓標も読めない朽ち果てた墓石や、

風化の激しい地蔵さまが、ひっそりと建っている場所があります。

形ばかりの焼香台(?)には、誰かがあげたお線香がか弱い煙をくゆらせていました。

普段は心の中で手を合わせるくらいしかしない私も、

ここに眠っている、名前も知らない仏様にも白梅の香りを嗅いで頂こうと思い、

数本点けては

「こちら白梅の香りです。いい匂いですよ」

と焼香台に乗せていきました。

そして怪異は、その夜に起こりました。

蒸し暑かったので網戸のまま寝ていた私は、ふとある匂いを嗅ぎ取って目を覚ましました。

部屋中、立ち籠めるように白梅の香りがしていたからです。

お線香をしまい忘れたかな?と思ったのですが、

あ、昼間全部使い果たしたんだ・・・と気付いた途端、体がピキーンと動かなくなりました。

どうしよう、どうしよう、と心は焦るばかりで何も出来ません。

見えないけれど部屋には誰か立っている気配もします。

うわぁ怖いよ、怖いよ、怖いよ、どうしよう、怖いよ・・・・・・ん?

いつも一緒に寝ている猫が、キョトーンと宙を見ているのが目の端に映りました。

よく猫は 霊が視える といいます。

その猫が威嚇するでも緊張するでもなく、ただただキョトーンとしてるのを見た途端、

あれだけ怖いと思っていた気持ちが落ち着き、

害のない霊なんだな、と気が付くことができました。

言っておきますが、私には霊感なんてありません。

それだけど、深夜に現れたこの霊が何を言わんとしてやって来たのか悟ることができました。

無縁仏様だ・・・

そうなんです。

昼間、私がほんの出来心でお線香をあげたあの無縁仏様のうちの誰かが

私の元に現れているのです。

そして、その気配からは、

(お線香をどうもありがとう)

という、穏やかで温かい気持ちが感じられました。

いつの間にか金縛りも解けていたので、布団の上に座り直し、

「白梅の香りが気に入って頂けたようで嬉しいです。

わざわざ来て下さってありがとうございます。

あなたの気持ちは分かりましたが、あれ以上の供養は私には出来ません。

申し訳ないのですが、お引き取り下さいませ」

と、見えない相手の方向に頭を下げました。

猫は私に寄り添って、相変わらず宙を見ています。

無縁仏さまは、私の言葉を分かってくれたのか、スっと気配が消えました。

咽せるように匂っていた白梅の香りも、徐々に薄れていき

後には、蒸し暑い真夏の夜の気配だけが残りました。

床に就き直しながら、何だかとても嬉しい気持ちになり、

わざわざお礼に来てくれた仏さまに

「律儀な人だったんだなぁ」と思いを馳せながら

既に寝息をたてている猫の体を撫でつつ眠りにつきました。

あれ以来、お墓参りに行くと無縁仏さまにお線香をあげるようにしています。

「お礼に来なくてもイイですからね~」

と呟く事も忘れませんけどね(^^)

年の瀬には、全くそぐわない内容でしたが、

最後まで読んで下さった方々、ありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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無縁仏にお線香はやめたほうがイイと。