中編3
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〇〇さん

彼女があおもりんごとして、私の携帯から投稿したお話、それから下の方にあるコメント、私は読み返しました。

彼女が気を遣って、私を『〇〇さん』と打ち込んだのが、おかしいやら、嬉しいやら……

涙がにじんで、携帯の画面が見れませんでした。

りんごちゃんは私の可愛い弟子でした。

初めて会ったのは、彼女が保育園児の頃だったかな。

私がお世話になった方のひ孫ということで、三回忌のときに紹介してもらいました。

一目で先生の血を引いているのだと分かりました。

後ろには先生がおられて、その後ろには美人な巫女さんが構えている。

そのさらに後ろの上方なんかには、先生がおまつりしていた神さまが彼女を守っている。

こりゃとんでもない強者だ、と私は嬉しくなった。

ただ心配だったのは、彼女があまりにも純粋だったこと。

良いもの、悪いものの区別はついているみたいだったけど、動物と心でお話したり、浮遊魂と仲良くなっちゃったり、人でないものに対してあからさまに無防備だった。

これじゃあ先生も成仏できないよねぇ、と苦笑いしたこともある。

まあ、人間に対しては異常なほど警戒してたから、彼女も前回や前々回の記憶を持っていたんでしょうね。

怖いのは神さまとかおばけじゃない。

人間なんですよね。

まあとりあえず、彼女は私の弟子でした。

と言っても、その頃にはだいぶおぼろ気になってたみたいだけど、以前の記憶があったし、なんでも見ちゃってる。

だからこれはなんとかよ、これはこう呼ぶのよ、くらいのことしか教えることがなかった。

だから、あっという間にひとりだちしてお仕事できちゃったのよねぇ。

先生もいるし、失敗はなかったみたいよ。

でもねえ…、優しすぎるのよ、彼女は。

治癒ってゆうのは、限界があるのよ。

全部全部溜め込んじゃったら、私たちの体がおかしくなっちゃうじゃない?

なんで、私より先に死んじゃうのよ。

本当に私の子供みたいで可愛かったのよ。

ちょっと融通は利かなかったけど、本当に可愛かったのよ。いい子だって思ってたよ。

彼女は去く前に、私にお願いしてきました。

私には言わないといけないことがあるんです、

きちんと知ってほしいことがあるんです、

誤解や誤った認識を、少しでも緩和したい……

私は彼女らしい言葉に、二つ返事で答えました。

私の体と、携帯電話。

こんなおばさんの指じゃ、打ちにくいでしょう…

老眼じゃ、こんな小さな字は見えなかったでしょうに……

一生懸命に、残りわずかの時間を使って、打っていました。

そして、ついさっき、彼女はにっこり笑っていきました。

何度もありがとうって言いながら、頭をぺこぺこ下げてく。

いつも笑っていて、怒らなかったりんごちゃん。

依頼者のあきらかな嫌がらせに、困惑するばかりだった可愛いりんごちゃん。

たくさんの方が、彼女のお話に耳を傾けてくれたみたいだけど、もう投稿はできません。

彼女はもういませんから。

このことは誰にも話さないつもりだったけど、これも何かの縁でしょ。

りんごちゃんの言葉は私が責任を持って伝えておくからね。

寂しいなんて言わないわよ。

そのうちまた会えるんだから。

怖い話投稿:ホラーテラー りんごちゃんのお願いさん  

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