中編3
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ボロボロ自転車

友人のWTBから聴いた話です。

WTBは自転車で通勤していて、毎日会社近くの駐輪場に自転車を停めている。

その日、WTBはいつもより少し遅れて家を出た。

そして急いで会社に向かい、駐輪場に自転車を停めようとした。

WTBが自転車を停め駐輪場から出ようとすると、一台の自転車が目に入った。

ボロボロの自転車だ。

カゴ、ハンドル、サドルの下、ホイール、あちこちが錆びている。

前と後ろに子供を乗せるシートもついているが、コレも傷や錆びだらけで、とても使えるようには見えない。

まるで何年もそこに放置されていたみたいだ。

さらに良く見ると、赤く乾いたチェーンもギアから外れている。

こんな状態で、乗れるはずがない。

毎日この駐輪場を使っているが、こんな自転車はいままで見たことがない。

不気味だったが、「誰かがココに捨てていったんだろう」と、あまり気にせず会社に向った。

その日は忙しかったらしく、夜0時にようやく仕事が終った。

WTBは駐輪場に来て、自転車の停めているロックの番号を確認し、精算機に向った。

自転車から少し離れた所に設置されている精算機に近づくと、機械の前に誰かが立っている。

見ると、女だ。

長く乱れた髪を垂らし、白いニットのトレーナーに、大きく真っ赤なロング・スカートをはいて、少し前かがみになって突っ立っている。

機械と向き合ったまま動く様子がない。

「うわ、何だコイツ。」

その女を見た瞬間、ゾッと怖くなった。

しかし、この機械で精算しないことには自転車が出せない。

WTBは身構えながら女の後ろに並んだ。

女は動かない。

WTBはポケットの小銭をチャラチャラさせたり、鼻をすすったりした。

それでも女は全く動きそうにない。

WTBは仕方なく、声を掛けてみることにした。

「・・すみませ~ん・・・。」

すると女は何も言わずスススッと、背中を向けたまま精算機の真横に移動した。

WTBはもう一度、女の後姿を眺めてみた。

上履きのようなスニーカーに、そなまま足を突っ込んでいる。

トレーナーの背中はシミだらけで汚れている。

女はそのまま、またじっとしている。

(・・・・大丈夫・・・・・だよな・・)

WTBは女を気にしながら機械に近寄り、操作した。

ロックの番号を押し精算ボタンを押すと、料金が100円と出た。

WTBはその時小銭は500円玉しかなかったので入れた。

そしておつりを取ろうと、返却口に手を伸ばして・・・・・

「ビクッ!!!」

・・・・・凍りついた。

返却口から何か飛び出している。

良く見ると、ウルトラマンとかに出てきそうな怪獣のおもちゃのフィギアである。

頭から突っ込まれ、体半分が出ていた。

もう早くこの場から立ち去りたかったし、触ると何かあるかもしれない、このままお釣りを取らずに行こう。

そう思ったが、ビビって400円を置いていくなんて、情けないよな・・・そう思い直した。

彼はフィギアに手をかけ、そのまま勢い良く返却口から引っこ抜くと、すぐにもう一方の手でお釣りをとった。

フィギアはそのまま2~3mほど飛び、地面に落ちた。

その音を聴いた女が「グルンッ!!」と振り返った。

彼は既に自転車に向って走っていた。

落ちたフィギアに近づきながら女が叫んだ。

「おああーーーーっ!!」

WTBは必死に逃げた、急いで自転車を掴みそのまま出口に向って走っていった。

女がフィギアを拾い上げて、叫んだ。

「これはぁ!! あの子たちのーーーーっ!!」

駐輪場の入り口を出たWTBは、急いで鍵を開け飛び乗った。

そしてペダルに足をかけ、すぐにこぎだした。

すると女がまた「あああーーーーっ!!」と雄叫びをあげた。

WTBが振り返ると、フェンス越しに朝に見たあの自転車が見えた。

自転車には朝にはなかったはずの、様々なものがぶら下がっていた。

よく見るとそれは、ぬいぐるみやフィギア、おもちゃやブロック・・・小さな子供の喜びそうなものが自転車を埋め尽くすように、膨大な数のおもちゃがビッシリとくくりつけられてあった。

それからも彼はその駐輪場を使っているのだが、一度もその自転車が置かれていることはなかったらしい。

怖い話投稿:ホラーテラー MARINE SKY BLUEさん  

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