中編6
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黒服の男

一人暮らしをはじめた。

なんだか、新鮮な気持ちとは裏腹に不安な気持ちもあった。

でも、独り立ちしたんだなって思うともう自分は大人なんだって実感が湧いた。

そして、霊感は歳をとるごとに日に日に強くなっていた。

小さい頃から見えていたが、友達に言う度に冷ややかな目で見られ続けた。

だから、誰にもこのことは言わなくなった。

両親にも迷惑をかけるから。

地元では暗い、陰気、根暗と言われた。

でも、この町では自分を知る人間は誰もいない。

だから、自由なんだって自分らしくいれるんだってワクワクした。

一人暮らしをするときの条件は、駅に近くて格安で風呂とトイレは別。

そして危険な霊がいないこと。

大学生だから贅沢は言えない。、そしてボロボロのアパートを見つけた。

洋室8畳洋室の1Kだけど自分には十分だった。

学業が忙しく、バイトはなかなかできなかったが時間を見つけてバイトできる融通がきく居酒屋を見つけた。

店長兼オーナーさんは、とても優しくて口癖は「なんとかなる!」だった。

オーナーさんの後ろに立つのは、オーナーさんの祖父母。

優しそうな顔をしていつも見守っている。

バイト生は高校生、フリーターを自分を入れて6人いた。

みんないい人達だ。

地元では相手にされなかった自分を温かく接してくれる。

幸せだった。

そして、バイト生のみんなの後ろの人達も優しそうな人ばかりだ。

やっぱり、オーナーさんがいい人だから導かれるようにいい人が集まるんだろうな…

そう感じていた。

皿が落ちても怪我しないように軌道を変えたり、悪戯する霊を拒んで店内に入れないようにしたりと見えないとこでも守られていた。

そんな幸せな日常のある日

バイトが終わり、自分の家まで自転車を走らせていると先の交差点に人が集まっている。

事故のようだ。

まだ警察も緊急車両も来ていない。

血を流し倒れているのは40代くらいの女性のようだ。

その横に、自分を見下ろす女性がいた。

中には自分が死んだことを理解できずに野次馬に話かけることもあるが自分の死を受け止めているようだった。

トラックを運転していたとみられる若い男性がその近くで頭をかかえてしゃがみ込んでいる。

今までにも数回、こうゆう現場に遭遇したことがあった。

その野次馬の中に、全身真っ黒のスーツを着てジュラルミンケースを持つ若い男の人に目がいった。

理由は特になかったが、血を流す女性を見ている目が冷たい。感情を持ち合わせていないような感じだった。そしてふと目が合った瞬間に直感で悟った。

「人間じゃない。霊でもない…何かが違う。」そう感じた。

気付くと事故に遭い自分を見下ろしていた女性がいつの間にか消えていた。

そして、黒い服の男も消えていた。

次の日、昨日の事故をニュースでやっていた。

即死だったようだ。

大学の授業が終わり日が暮れてきた道を自転車で走る。

事故があった交差点に差し掛かった。

交差点には、テレビの影響か何人かの人が交差点に花やジュースなどを供えていた。

その中には、涙を流している人もいた。

そして、黒い服を着た男も交差点から少し離れた場所から花を手向けている場所を見ている。

僕は自転車を止めた。

黒い服を着た男の人と目が合う。あの冷たい目だ。

すると、ニコッと笑い会釈をした。

背筋が凍った。人間の形をした得体の知れない何かから挨拶をされるなんて…

勇気を振り絞って、引き寄せられるように男の人へ近付いた。

「あ、あの…」僕が小さな声で尋ねると

黒服「久しぶりに見える人間に会いましたよ。」

と、低い声で言った。

やっぱり、人間じゃないんだ。じゃ、なんだろ…。悪魔か天使か…。そう思っていると、

黒服「黒い服の天使は、いないと思うよ。」

と笑みを浮かべながら答えた。

心を読まれた!動揺したが、すかさず

僕「あなたは、何者なんですか?」

と切り返した。

すると、笑みを浮かべながらフッと消えた。辺りを見回したが、どこにもいない。

あの男は…一体。

黒服の男が現れてからというもの、黒い服を着た人を見る度にびくついてしまう日が続いた。

あの黒服の男は何か危害を加えるわけでもないのに気になっていた。

その日は、昨夜眠れなかったせいか僕は授業中にうとうとしていた。講師の話が子守唄に聴こえてしょうがない。

隣で友達が、肩を叩くが眠い。

そして、そいつは突然現れた。

授業中に講師の助教授の横に現れた。

一瞬で目が冴えた。

しかし、気がつくと黒服の男は消えていた。

まさか、あいつが現れる度に人が死ぬんじゃ…次は助教授なのか…

そんなことが頭の中を駆け巡る。そこで僕が出来ることは、助教授に危険を知らせること。

授業が終わり、助教授が講堂を出て行く後ろ姿を追いかける。

すると、廊下の分かれ道で見失った。職員室は左の方だけど、右は助教授の物理科だし…と悩んだが昼食前だから多分部屋に戻ると考え、右へ。

校舎の隅にある物理科の部屋に明かりがついている。

物理科のドアを、ゆっくり開け覗くと助教授が普通にテレビをつけて座っていた。

ほっ とした。

あいつが現れたら、誰か死ぬんだって思ったけどそうじゃないみたいだ。

安心して振り返ると、黒服の男が立っていた。

「君、よく会うね。」と、笑いながらいきなり話かけられ気が動転した。

しかし体が勝手に、助教授を狙いに来たんだと思い物理科のドアの前に両手を広げて中に入らないようにしていた。

「は、入るな…」正直、怖かったが震えながら言えた。

「へぇー」と、さらに目を細くし、口の両端が上にあがり狐みたいな顔になった。

長い舌をペロッと出し、唇を舐める姿は人間の形をした獣にしか見えなかった。

本当に恐くて足がガクガク震えた。

「あ…あなたは…」と勇気を振り絞り口を開くと

黒服の男が笑いながら薄暗い廊下を歩きだし

「今から、仕事なんだけどついてくる?」と、言う。

生唾を飲み込んだ…そして、男の後ろを追った。

後を追うと、そこは大学の屋上だった。

そこには、助教授の守護霊の優しそうなお婆さんの霊と 初めて見る武士のような袴を着た人が向かい合うように立っていた。

誰もいない屋上の真ん中で二人とも涙を流している。

昔、友人の父親が亡くなったときに通夜に行った。

守護霊の若い女の人が横に寄り添うように泣いていた。

守護霊も、もとは人間。

やっぱり泣くんだ、感情があるんだって衝撃を受けた。

助教授の守護霊も泣いている…助教授も死期が近いのかもしれない…

たぶん目の前にいる黒服の男が原因だ。

すると、黒服の男が右手をあげた。それを、向かい合う二人の霊が見ている。そして二人は向かい合いながらも少しずつ後ずさりするように離れて行く。

「な、なんですか?これ…」と、思わず男の肩を触ろうとするが、すり抜けた。

そして右手を素早く振り下ろした瞬間に信じられない光景が繰り広げられた。

助教授の優しそうなお婆さんの守護霊が、四つん這いになったかと思うと「きぇーーーっ」と形相を変え、叫びながら武士に飛び込んだ。

武士も、馬乗りになったお婆さんを振り払おうと必死に応戦している。

「なんだ、これ…」

婆さんが、武士の首に噛み付き離さない。

黒服の男が口を開く。

「守護霊って、こうやって決めてる。勝った者が、守護霊になれる。」

そうだったのか…血縁が守護霊になれる決まりなんてない。

でも、なんで守護霊になりたがるんだろう…

男が笑いながら

「あの、婆さんすげーな、おい」ふと見ると、優しそうだったお婆さんは武士の首を手に持ち立っていた。

「君の勝ちね。あと数年は守護霊でいていいよ。」

と、男が言う。

「守護霊にならなきゃ、悪霊になる。だから戦うんだよ…さっきのは、血縁同士だったみたいだね。」男は笑いながら言うと、お婆さんは消えた。

「僕は、この戦いを見守る審判だよ。」

そう言うと、男も消える瞬間にこう言った。

「人間の守護霊になったら、その人間をどうするかは守護霊次第だから、この前の交通事故みたいに人間を殺す守護霊もいるよ…君も気をつけてね…フフフ」

もしかしたら、僕らを見守る守護霊は本当に守ってくれる守護霊ばかりじゃないかもしれない…

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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