短編2
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母ちゃんの麻婆豆腐

仕事でクタクタに疲れ家に帰り、コンビニで買ってきた弁当を一人で食べていると、俺はいつも昔の事を思い出す。

「母ちゃんが作ってくれた麻婆豆腐…あれは旨かったなあ…」

母ちゃんは、俺が幼い頃に死んだらしい。

母ちゃんが死んだ時の事を、俺はよく覚えていない…

幼い頃の俺の家はそれは貧乏だった。

父ちゃんはゴロツキでほとんど家に帰って来なかったし、母ちゃんは朝も夜も仕事なのか家にいる事の方が少なかった。だから俺はいつも兄ちゃんと一緒にいた。

兄ちゃんが学校に行っている間は、いつもひとりぼっちだった。

暗く湿った六畳の部屋で、俺はいつも腹を減らし、寂しく座っていた。

そんな時、たまに母ちゃんが帰ってきて作ってくれる麻婆豆腐…

それがめちゃくちゃ美味しくて、今でも忘れられない味になったのだ。

母ちゃんの命日に、兄ちゃんにその事を話した。

「兄ちゃん、母ちゃんの麻婆豆腐食べた事ある?あれすごい旨かったよね!」

兄ちゃんは、しかめっ面をして俺に信じられない話をした。

「お前…何寝ぼけたこと言ってんだよ…

母ちゃんはお前を生んですぐに死んだんだ。お前が麻婆豆腐なんて食える訳ねえだろ。」

俺は兄ちゃんの言ってる事が理解出来なかった…

そんなはずがある訳ない。

俺は母ちゃんの顔も姿も、そして母ちゃんの作る麻婆豆腐の味も、しっかりと覚えている…

俺はいてもたってもいられなくなり、母ちゃんの墓に1人で向かった。

そして、母ちゃんの墓の前に立ち、かすれるくらいの大声で叫んだ。

「母ちゃん!!母ちゃんの麻婆豆腐、めちゃくちゃ旨かったよ!ありがとう!」

その時、どこからともなく声が聞こえた…

(カズアキ…あれは麻婆豆腐じゃなくて…スクランブル豆腐よ……。)

母ちゃんだ…母ちゃんの声だ…

俺の目から涙が溢れた。

後から後から涙がこぼれる…

俺は涙を拭きながら母ちゃんに言った。

「母ちゃん…スクランブル豆腐て……何?」

答えは帰って来なかった。

静まりかえった墓地で俺はずっと泣き続けた…

母ちゃんの作ってくれた麻婆豆腐…いやスクランブル豆腐、俺は一生忘れない。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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