中編4
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赤ちゃんのお話

これは僕が店長を勤めていたカラオケ店での出来事です。

今度は従業員に白い目で見られていた常連客のお話です。

そのお客様は若いシングルマザーでした。

深夜0時過ぎに来店し、毎回赤ちゃんを連れて来ていました。

髪の毛は黒と金のツートンカラーで顔色は悪く、骸骨のようにガリガリでした。

従業員の間では「薬物中毒なのでは?」と噂される程です。

何故シングルマザーと分かるのか?

それは毎回、違う男性と朝方までお酒を呑んでいるからです。

飲み放題料金で入室されるのですが、お酒とは別に「お湯ちょーだい」と赤ちゃんの粉ミルク用のお湯をオーダーしていました。

おかげさまで僕は自分の子供が生まれる前から、人肌の温度のお湯を作るのが得意になってしまったのです。

しばらくして、そのシングルマザーさんにも彼氏が出来たようで、

その後はずっと彼氏さんと来店される様になりました。

もちろん部屋でのイチャイチャ行為もエスカレートしていきます。

このカップルが最高に酔っ払っていた日に事件が起こりました。

閉店時間に退室し、料金の精算時に僕は異変に気づきました。

僕「??」

僕「お客様?お子様はどうされました?」

カップル「あぁ?…あれ?」

来店時に連れてきた赤ちゃんがいません…

僕「今、捜して来ますので待っていて下さい!」

カップルは立っている事も出来ないくらい酔っています。

フロント前のソファに座らせ、従業員と手分けして店内を捜しました。

バイト「うあああぁぁ〜!店長ぉ〜!!」

女性トイレの方からバイトが叫んでいます。

僕が駆け付けると…

バイトが泣きながら個室を指さしています…

そこには…

頭から明らかに致死量の血を流して俯せに倒れている赤ちゃんが居ました…

…すでに冷たくなって居ました…

携帯ですぐに110番し、カップルには赤ちゃんを捜している事にして

ソファで待って貰いました。

赤ちゃんが死んでいた事を伝えると、逃げられると思ったのです。

警察が到着し、カップルは捕まりました。

その後、救急車も到着しました。

明らかに死んでいても、救急車で病院に運び、死亡を確認する必要があるそうです。

警察の検分は昼過ぎまで続き、その後僕も警察署で事情聴取されました。

悲しさと絶望と「もっと僕が気をつけていれば、この事故は防げた」という自責の念を感じながら

自宅に帰りました。

疲労と眠気と吐き気を抱えながら、その日は泥の様に眠ったのです。

翌朝、シングルマザーは新聞に載りました。

その時は、別に世間を騒がせる大きな事件があった為か

この事件の取り扱いは小さく、記者が取材に来る事もありませんでした。

これで全てが終わったかに思えたのですが…

数日後…

僕を含め、従業員に異変が現れます。

仕事中に突然、耳鳴りがするのです。

それは

キー…ンという音ではなく

「オギャア…オギャア…」

という赤ちゃんの泣き声の様に聞こえました。

あの女性用トイレの近くを通る度に

この耳鳴りは起こりました。

もちろん一般のお客様にも聞こえる人が居ました。

あの事件のショックで何人ものアルバイトが店を辞めてしまっている状況で

僕は問題を掘り起こしたくなかったのです。

従業員には箝口令を強いました。

これで事態が鎮静化すればと思っていたのですが…

ソレは起きてしまったのです。

僕が仕事を終え、車で自宅に戻る途中でした…

その日に限り、足に酷い倦怠感を覚えていました…

交差点の信号が赤に変わったので、ブレーキを踏みました…

…が!

車は加速し!高速で赤信号の交差点に進入します!!

キキィー!!

パパァン!!

けたたましい数のブレーキ音とクラクションが鳴り響きます!

ドガシャア!!!!!

今まで経験した事ない衝撃が全身を突き抜けました!

死んだ!!!

と思いました…

僕の車は奇跡的に交差点をすり抜け、少し過ぎた場所の電柱に衝突して停止しました。

…なぜ?

と反射的に足元を見てしまいました。

頭から血を流した赤ちゃんが、僕の足にしがみついて居ました…

事故の衝撃と、あまりの恐怖で僕は気を失いました…

救急車で病院に運ばれる途中で目を覚ましました。

軽く頭を打っていただけなので、病院でレントゲンを撮り、簡単な処置でその日は帰りました。

次の日は仕事どころではありません。

休みを貰い、近くのお寺に行きました。

ワラにもすがりつく思いでお祓いをお願いしたのです。

その時の住職のお話です。

亡くなった赤ちゃんの親はお葬式をあげていない。

その為、亡くなった場所から離れる事が出来ず、成仏も出来ない。

僕の心に付け入る隙があったので、僕について来てしまった。

住職さんの薦めで、住職さんとすぐに店に向かい

赤ちゃんが亡くなったトイレでお経をあげて貰いました。

懸命に成仏を願い、僕も手をあわせました。

住職さんは「もう大丈夫」と僕の肩を叩きました。

すっかり肩が軽くなり、住職さんをお寺に送った後

店に戻って仕事をする事にしました。

その日の深夜です…

恐らく、赤ちゃんが無くなった時刻でしょうか…

店内が一瞬暗くなりました。

照明である蛍光灯の電圧が弱くなった様な感じです。

次の瞬間…

オギャア!オギャア!オギャア!オギャア!オギャア!オギャア!オギャア!

赤ちゃんの泣き声が爆音で店内に響き渡りました…

店内ミュージックの有線が数秒間、赤ちゃんの泣き声に変わったのです…

店にいる誰もが凍り付きました…

あれは赤ちゃんのサヨナラだったのでしょうか…

それとも…

怖い話投稿:ホラーテラー 店長さん  

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