近所ってほど近くもないが、寺がある。
それなりに歴史のある寺のようで、立派な鐘つき堂が設えられている。
毎朝6時頃になると、坊さんがその鐘をつくのかゴーン、ゴーンって聞こえてくるんだわ。
よっぽど良い鐘なのか、夜勤明けに隣町で聞いたこともある。
この寺は大晦日になると108枚の整理券を配って、除夜の鐘を一般の参拝客に撞かせてくれる。
先月末日も、仕事帰りに除夜の鐘衝きに出向くであろう人々を目にした。
で、部屋に帰って一息ついてから、ちょっと妙なことに気がついた。
鐘の音が全然聞こえないんだよ。
時計を見ると、すでに除夜の鐘衝きは始まっているはずだ。
でも、耳を済ませてみても何も聞こえない。
朝の鐘の音は聞こうと思わなくても聞こえてくるのに…
やっぱり素人とプロでは衝き方が違うんだろうな。
なんて話を、この町に古くから住む知人に話したところ、面白い話を聞くことができた。
ある時その知人が犬の散歩だかで早朝に件の寺の近くを通ったそうだ。
すると、不意にゴーンという鐘の音が聞こえてきたとか。
時計を見ると、時刻は6時。
今日もご苦労さん、なんて思いながら鐘撞堂へ視線を向けたそうだが…
そこには誰も居なかったという。
寺ってのは、朝夕に108を簡略化した18回の鐘撞きを行うそうなので、単純に毎朝聞いていたのが違う寺の鐘だったのかもしれない。
でも、件の寺の他に寺なんてないんだよなぁ…
今朝も聞いた鐘の音は、果たして本当に坊さんが撞いたものなのだろうか…?
怖い話投稿:ホラーテラー アウトさん
作者怖話