短編2
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頼みます…

私は里親探しのボランティア団体に所属しています。

里親探しとは、保健所や動物愛護センターから処分される予定だった動物を引き取ったり、捨て犬や捨て猫を保護して、新しい飼い主を見付ける活動のことです。

あれは五年前の、八月の晩。

私は近所のコンビニに行くために、夜道を歩いていました。時間はもう、午前一時を回っています。不気味だなあ、何か出そうだ…などと考えていると、突然、目の前に茶色い塊が現れました。

よく見ると、それは野良犬でした。私はほっと胸を撫で下ろし、その犬に近付きました。

犬は警戒する様子もなく、私を見上げています。優しい、まあるい眼をしています。

もしかしたら以前、人間に飼われたことがあったのかもしれません。

一度も人間に飼われたことのない野良犬は、もっと、鋭く警戒心に満ちた眼をしていることが多いのです。

犬は触れようとする私の手をするりとかわし、トコトコと歩いてゆきました。

私はなぜかその犬を追いかけなければいけない気がして、後をつけました。

しばらく歩くと、犬は道脇の駐車場に入ってゆきました。私も続けて駐車場に入ると、駐車場の隅に、その犬が座っていました。

そして私が来たのを確認すると、そのまま、溶けるように消えてしまったのです。

代わりにそこにいたのは、あの犬と同じ茶色の、生後二ヶ月ほどの子犬でした。うす汚れ、ノミダニまみれのその子犬は、母犬を探し求めるように、甲高い声で鳴いていました。

この子を、頼みます。

そう言われた気がしました。

子犬は一時的にボランティア施設に保護された後、新しい里親さんに貰われてゆきました。

犬には、犬好きがわかると言います。あの母犬は、私を犬好きだと判断して、子犬を私に託したのでしょうか。

その里親さんは、自身のホームページに愛犬の画像をアップしています。

五年経った今、写真の中で、すっかり大きくなったあの子犬が、幸せそうに飼い主に寄り添っていました。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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いい話です。犬が大好きな自分には、この話しは胸に沁みるものがある。