中編4
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悪夢

ある日の明け方、私は嫌な夢で目を覚ました。

残暑も去り、肌寒くなってきた時期だというのに体は冷たい汗でまみれていた。

現実の出来事と錯覚してしまいそうな位にリアルな感触が、手に残っているようだった。

すっかり眠気も去ってしまった頭で、私は夢の中のあらすじをゆっくりとたどってみた。

私は、夢の中で人を殺していた…

そうなった意図は分からないが、手には細いロープを持ち、相手の首をじわじわと絞めていた。

相手の顔は曖昧で、その部分だけが記憶から剥がれ落ちてしまっているようだ。

夢の中の感触を思い出すと、身の毛がよだった。

それでも所詮は夢の中での話。

日がたつにつれ、夢の記憶は徐々に頭の中から薄れていった。

そんなある日のこと。

私は友人のA氏と家で酒を飲んでいた。

外はすっかり暗くなり、話のネタも尽きかけた頃、A氏は神妙な顔つきで口を開いた。

「最近、奇妙な事があってね。これを見てくれないか?」

一枚の写真を取り出し、私に見せた。

「これは、私の妻なんだか…」

私は息を飲まずにはいられなかった。

写真にうつった女性の首には、痛々しい痣がクッキリと刻まれていたのだ…

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例えれば、一片のパズルのピースが抜け落ちた部分にぴたりと当てはまる…

写真を見て感じたのは、それに近い感覚だった。

その写真の女性には、一度も会ったことはない。

夢の中を除いては。

A氏が言うには、首の痣は突然あらわれたのだという。

ある日、隣で寝ている妻がうなされている声で目を覚ますと、彼女の首に痣が刻まれていた。

奇妙で不可解な現象だった…

痣に一致するようなロープは家の中にはなかったし、思い当たるような原因も全くなかったという。

一応、病院へ行ったが、特に問題はなかった。

私はしばらく黙って聞いていたが、ひとつ聞いてみた。

「寝ている時に、誰かが侵入したのでは?」

A氏は首を横に振る。

「それはまずありえない」

部屋の扉や窓には鍵がしめられていたし、第一気づかないはずがないと。

当の本人に聞いてみても、全く覚えがないのだという。

しばらくA氏は話をしたが、私はほとんど聞いているだけで、結局何も分からないまま話は終わった。

酒も底をついたので、A氏は家に帰った。

私は夢の事をA氏には話さなかった。

最後に一つだけ、A氏が帰る間際に聞いてみた。

「ところで、その話をなぜ私に?」

A氏は立ち止まり、私のほうを見つめた。

口元がニヤリと笑ったような気がした。

「夢の中で見た」

一言つぶやき、出ていった。

あの最後のA氏の視線…

思い出した。

私は夢の中で首を絞めながら、確かに同じ視線をどこからか感じていた…

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その夜、私はまた夢を見ていた……

夢の中で私は、女性に馬乗りになって首を絞めている。

女性は既にぐったりとしていて、血の気は感じられない。

どこからか声がした。

「ああ…なぜ、こんな事を…」

A氏だった。

「ひ、人殺しめ…」

A氏は私の言葉も聞こうとせず、私に畏怖の目を向けた。

私に背中を向けて逃げようとするA氏を私は引き止めようとする…

そこで、目が覚めた。

全身から汗が吹き出し、激しい頭痛がする…

「私は、一体どうしてしまったんだろう」

あまりに不可解な夢の記憶が、その後も頭に焼き付いて離れなかった。

「A氏は何か知っているのだろうか?」

私はA氏にもう一度会ってみる事にした。

私はA氏から、彼の妻が死んだ事を聞かされた…

そして、A氏が昨日私と同じような夢を見たことを。「お前が、私の妻を殺したんじゃないか?」

A氏は私を問い詰める。

「あれは、夢の中の話じゃないか」

夢の中の内容が現実に起こるはずがない…

A氏だってそれ位は理解しているはずだ。

納得したようには見えなかったが、A氏は私の前から去ってどこかへ行ってしまった。

家へ帰り、一人で酒を飲んだ。

不可解な事ばかりで、少しでもそれを忘れ去ってしまいたかった。

酔った私は、ふらふらになりながらベッドへ倒れこみ、そのまま深い眠りについた……

夢の中で、私はA氏の首に手をかけた。

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私はぐったりしたA氏の首から手を離すと、二つの死体を床に並べた。

倉庫からノコギリを持ち出し、死体を…

外からはパトカーのサイレンの音が聞こえてくる…

目が覚める。

もう夢の中の出来事は考えたくもない。

新聞を読むと、A氏の死亡記事を見つけたが、私にはもうどうでも良かった。

いつも通り仕事へ行き、帰って酒を飲み、また仕事へ行き……

その繰り返し。

ごく普通の生活を私は毎日送った。

悪夢は相変わらず見る。

しかし、回数を重ねるごとにそれに抵抗を感じなくなった。

私は、夢を徐々に受け入れはじめたのかもしれない。

変わらない生活の中で、本当はある事にも徐々に気づきはじめている…

例えば、テレビをつけると私の小さい頃の思い出が次々に溢れるように移し出されている…

見慣れた町の外はセピア色であいまいだ…

悪夢に見える、忘れてしまいたいような記憶。

もしかしたら、それこそが私の……

夢の中で私は、一歩一歩着実に死刑へと進みだしている。

恐らく次の夢で死刑は執行されるだろう。

今日は公園で思いっきり遊び回り、夜は小さい頃に母がよく作ってくれたハンバーグを食べて眠ろう。

そして私は、ベッドの優しい感触に身をまかせた…

意識が遠くなっていく中で、世界がセピア色で塗り潰されていくのを感じた……

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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