大学時代の同級生Kが体験した話。
Kは就職活動をするため、東京へ出ていた。
しかしこのK、かなりの方向音痴として大学の友人内でもよく知られていた。
その日も地図を片手に四苦八苦していたが、いつの間にやら街中で迷子になってしまったのだという。
しかもKは変に強情なところがあり、人に道を尋ねる事も出来ずにいた。
当てにもならないカンを頼りに、あちこち右往左往していた。
不安になりながらも建物の間の路地裏へと入っていくと、急に変わった景色の場所に出たという。
「俺の実家はG県の山奥にある田舎なんだけど、それに近い感じだったな…」
木造や平屋の古い建物が立ち並んでいた。
Kは妙に懐かしく感じ、迷子になっている事も半分忘れ、興味深く眺めながら歩いた。
ふと妙なことに気づく…
「さっきまでは人が結構いたのに、その通りに入った途端にサアッといなくなったんだよ」
街中にしては気持ち悪いぐらいにシーンとしていたという。
「ぽつんぽつんとは人が歩いてるんだけど…」
行き交う人は皆、ひどくうつむきながらゆらゆらと歩いていた。
「なんだか気味が悪くなって…」
街中に戻ろうと来た道を戻ろうとしたが、どうしても同じ通りに戻ってしまったという。
「迷子なら良くある事なんだけど、その時は妙に焦ってて…」
路地裏を見つけては、でたらめに駆け入っていった。
「そこでパッタリと記憶が消えてるんだ」
気がついたのは、病院のベッドの上だったという。
何でも、車にひかれて救急車で運ばれたのだとか。
「今考えたら東京の駅近くの街中に、あんな場所ある訳ないんだよな…」
今でもKの頭の中には、その時の光景が焼き付いていて忘れられないそうだ。
無事に東京で職を見つけたKは未だに良く迷子になるが、あの時の奇妙な光景はそれから一度も見ていないという。
怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん
作者怖話