短編2
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迷子

大学時代の同級生Kが体験した話。

Kは就職活動をするため、東京へ出ていた。

しかしこのK、かなりの方向音痴として大学の友人内でもよく知られていた。

その日も地図を片手に四苦八苦していたが、いつの間にやら街中で迷子になってしまったのだという。

しかもKは変に強情なところがあり、人に道を尋ねる事も出来ずにいた。

当てにもならないカンを頼りに、あちこち右往左往していた。

不安になりながらも建物の間の路地裏へと入っていくと、急に変わった景色の場所に出たという。

「俺の実家はG県の山奥にある田舎なんだけど、それに近い感じだったな…」

木造や平屋の古い建物が立ち並んでいた。

Kは妙に懐かしく感じ、迷子になっている事も半分忘れ、興味深く眺めながら歩いた。

ふと妙なことに気づく…

「さっきまでは人が結構いたのに、その通りに入った途端にサアッといなくなったんだよ」

街中にしては気持ち悪いぐらいにシーンとしていたという。

「ぽつんぽつんとは人が歩いてるんだけど…」

行き交う人は皆、ひどくうつむきながらゆらゆらと歩いていた。

「なんだか気味が悪くなって…」

街中に戻ろうと来た道を戻ろうとしたが、どうしても同じ通りに戻ってしまったという。

「迷子なら良くある事なんだけど、その時は妙に焦ってて…」

路地裏を見つけては、でたらめに駆け入っていった。

「そこでパッタリと記憶が消えてるんだ」

気がついたのは、病院のベッドの上だったという。

何でも、車にひかれて救急車で運ばれたのだとか。

「今考えたら東京の駅近くの街中に、あんな場所ある訳ないんだよな…」

今でもKの頭の中には、その時の光景が焼き付いていて忘れられないそうだ。

無事に東京で職を見つけたKは未だに良く迷子になるが、あの時の奇妙な光景はそれから一度も見ていないという。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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