短編2
  • 表示切替
  • 使い方

水音

ポタリ…

ポタリ……

部屋の扉の前から、水音が聞こえる………

…私には、付き合っている女性がいた。

少し体が弱いが、とても優しくて純粋な女性だった。

彼女は体の調子を崩し、病院に入院していた。

「病院での生活はとても退屈…」

と、たまに愚痴をこぼす彼女だったが、それでも私が会いに行くと優しく笑ってくれたのだった。

しかし…その笑顔の下にある、彼女の気持ちに私は気づいてあげられなかったのかもしれない。

その日の前日、彼女は珍しく私に愚痴をこぼした。

「もっと…会いたいな」

目には涙をうっすらと浮かべていた。

出来るだけ会いにくるから、と何とか慰めたが、私の心はキュンと痛んだ。

そして次の日、彼女の母親から連絡があった。

彼女が病院からいなくなった、と…

私には、何が何だか信じられない気持ちだった。

もしかしたら、私の家まで会いに来るかもしれない…

そう思った私は、すがるような気持ちで彼女を待った。

その日の夜、家の玄関が弱くノックされる音をかすかに聞いた。

あわてて玄関のドアを開けたが、そこには誰もいなかった。

ただ、玄関の外に水滴の跡が三つ、四つと残っていたのを見た…

その日からだった。

家の中から水音が聞こえるようになったのは…

ポタリ…

ポタリ……

日増しにその音は部屋に近づいてくる。

今朝…珍しく早朝から電話のベルが鳴った。

………彼女が、見つかったと。

彼女は、病院近くの川に流され浮かんでいたという…

そして、その夜。

ポタリ…

ポタリ……

一層大きさを増した水音が扉の前から聞こえてきた………

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

Concrete
コメント怖い
00
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ