短編2
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親父のげんこつ

私の小学生の頃からの友人Tの話。

彼は高校に上がって間もない頃に、父親を病気で亡くしていた。

「短気で頑固な意地っ張り…根っからの江戸っ子みたいな親父だったよ」

Tは、懐かしそうに話した。

「怒られると、よく頭にげんこつ食らったんだよ…とびっきり痛いやつな」

少し笑いながら彼は語った。

よく喧嘩もしたし、厳しい父親だったが、今となっては懐かしくてたまらないのだという。

「親父が逝ってから、結構荒れてたんだよ」

酒やタバコをはじめ、不良達とツルみだし、いろいろ悪い事をやったのだそうだ。

「べろんべろんに酔っ払って家に帰ったりしたっけ…」

それでも彼の母親は、ただ優しく彼を見守ってくれたという。

しかし、父親が生きていた頃は何でも話せて叱ってくれた…

そんな父親がいなくなってしまったのは、彼の心に影を落としていた。

いつも優しい母親の気持ちが、逆に痛く心にしみたのだった。

そんなある日のこと…

彼は不良達にそそのかされ、ある悪事に手を染めようとしていた。

深夜の夜道、酔っ払って歩いているサラリーマンをターゲットに暴行、財布を巻き上げるというものだった。

「たぶん、あの時の俺はどうかしてたんだろうな」

深夜、人通りの少ない道の影で独り静かに機会を見計らっていた。

しばらくして、ちょうど良さそうな酔っ払いが道を歩いてくるのが見えた。

彼が、影から出ようとしたその時だった。

「あの感触は、何年もたった今でも忘れられないな」

ゴツンッ!

彼はどこからか頭に強烈なげんこつを食らった。

「あれは間違いない…小さい頃さんざん食らった親父のげんこつだったんだ」

彼の頭に、昔聞いた父親の言葉が蘇ったという。

「いいか?どんなに苦しい時だってな、曲がった事だけはしちゃいけねえぞ」

彼は、そんな父親を思い出し、思わずその場で涙を流した。

その後は、不良達とはすっかり縁を切り、悪事からも足を洗ったのだという。

「俺もあんな親父みたいになれるかは分からないけど、頑張って家族を支えられるような男になりたいと思ったんだよ」

彼はそう語ると、少し照れ笑いを浮かべた。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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