短編2
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ある男の話

随分前に読んだ本で見た話です。

記憶が曖昧なので、補足・脚色しております。

武道家の男の話。

男は常日頃から心身を鍛え上げるべく、稽古に励んでいた。

そのおかげか、その世界で男の名を知らぬ者はないというぐらいに強かった。

もちろん男にはこの世に恐れるものなどない。

だが、そんな男にも一つだけ頭を悩ませる事があった。

毎晩、金縛りに襲われるのだ。

しかも人の体が動かぬことをいいことに、霊が悪さをしてくる。

男はそのたびに、いくら体を鍛えぬこうとも体を持たぬ相手では敵うはずがないと無力な己を恥じていた。

男は自分の無力さを打ち消すかの如く稽古に明け暮れた。

そして今まで以上に心身を鍛え抜くうちに、閃いたのである。

相手が体を持たぬのなら、自分も体を持たなければよいのでは…?

その日の晩も男は金縛りに襲われた。

そしていつもの様に霊が悪さをしてくる。

だが、その日の男は違った。

持ち前の精神力で己の体から幽体離脱に成功。

驚きを隠せぬ霊に技をかけた。

いける!!

かくして、見事日ごろの雪辱を晴らした男は二度と霊障に見舞われることはなかった。

霊を打ち破ったからといっても自分はまだ未熟者。これから出会えるより強い者達の為にも日々精進していくと、後に男は語った。

別の男の話。

その日男はいつものように床に着いた。

布団の中でうとうととまどろみ始めた頃、人生初の金縛りにあってしまった。

男:え!?なにこれ?金縛り!?

突然の出来事にテンパる男。

体はもちろん、瞼をあける事も出来ない。

そして明らかに重くなっていく空気。

男:…ひっ!!何かが体を触ってる……

人の手の感触…

目は見えていなかったが、生きている者ではないと男は確信していた。

どうすることも出来ない恐怖の中、男はあることに気がついた。

自分が足と思えば足を、頭と思えば頭を…という具合に男が思い浮かべる部位に触れられるのである。

男:…み、右腕…

手の感触が右腕へと移る。

男:…腹

一旦腕を離れた手が腹を触る。

男:…………………股間

男がそう思った瞬間、今までさする様に動いていた手の感触がぴたりと止まり金縛りが解けた。

思わず跳ね起きると耳元で

「ゲキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャッ!!」

と大声で笑う老婆のようなしわがれた声が聞こえた。

呆然としている男の耳にその嘲笑うようなしわがれた声がいつまでも残っていた。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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