中編4
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無線

 皆様こんばんは。

 さして怖くもない無い話が、今宵もお付き合い頂けたら幸いです。

 今回はとある線路上にて遭遇した話になりますが、路線は少し調べるとすぐに場所が特定出来てしまう為に割愛させていただきます。

 では始めます。

 私はその日、朝から嫌な予感がしていた。

 この仕事を始めてから、以前投稿させていただいた話のような事象と、何度も遭遇してきた私は、何か予兆のようなものを感じるようになっていた。

 この予兆は、

・朝から身体が重い。

・軽い耳鳴りが続く。

・警告のように心がザワつく。

 この3つが重なると、大抵夜勤の時に何かがあるのだ。

 ただ存在を感じたりするだけならまだいい。

 嫌なのはいたずらのような行為をされたり、酷い時は感情に触れられるのが辛い。

 この予兆が重いときは、良くて声や音。重いときは上記の様な症状が起きる。

 (あー…まただ。しかもなんかいつもより重いわ。やだなぁ…)

 この日の予兆だった。

 こんな日は家を出る前に妻の顔をよく見ていく。

 仕事をする意欲を取り戻す為だ。

 「どうしたの?」

 と、たまに私がやる行為を、妻はいつも不思議がっていた。

 だが、その日の妻は違った。

 「今晩、仕事行かない方がいいのかも。なんでか分からないけど、凄い不安なの。」

 妻から言われ、ゾクッとした。

 私の顔が強張っていたのかもしれず、それを妻が感じとったのかもしれない。

 普段の妻なら、まずこんな事は言わない。

・頑張って稼いで来てね!

・おいしいご飯の為によろしく!

・今度海外行きたいから頑張って!

 多少熱があろうと、風邪気味だろうとこの調子の妻なのだ。

 その妻がこんな事を言うなんて…

 何やら、最悪な予兆な気がした。

 だが、私は仕事に出る。

 当たり前だと思う。

 責任があるし、この程度で休む事は有り得ない。

 だが、最悪な予兆は違った形で仲間に降り懸かる事になった…

 その日の現場は、かつて列車事故で多数の人が亡くなった場所の近くだった。

 案の定、現場に着くと重苦しい空気が漂っていた。

 いやがおうでも予兆を思い出す。

 その日は私と同期で、一つ年上のNさんが指揮者だった。

 彼とは入社以来、頼り、競い合う仲間だった。

 私達は、二班に別れて作業を始め、片方をNさんが、もう片方を私がリーダーとなり、無線でやり取りしながら作業を始めた。

 3時過ぎだったと思う。

 それまで静かだった無線から声がした。

 Nさんだ。

 「ガーッ!こちら、N。感度ありますかどうぞー」

 「ハイ、こちら鉄道員。感度良好どーぞぉ!てか、終わったん?」

 「ガーッ!あーもうちょいかな。そっちは?」

 「同じく。なんもなきゃ終わる頃また連絡するわー」

 こんな感じの会話をしたと記憶している。

 それから2〜3分。

 また無線が鳴った。

 「ガーッガガーッ!ガガーガーガガーッ!」

 (あれ?終わったんか?何も聞こえないし無線の調子が悪いんかな?)

 そんな事を考えた直後だった。

 「あ゙ぁ゙ァ゙〜ぅうぅ〜」

 無線から不気味な声がした。

 (ウワッこれか!朝の予兆!)

 瞬間的に思わず無線をオフにしてしまった。

 しばらくして、携帯が鳴った。

 番号はNさんからだった。

 「Nさんワリィ!無線調子悪いみたいで切っちまった!」

 相手が喋り出す前に話し出した俺に、電話の向こうから

 「お前、じゃあ聞かなかったんだな?良かった…聞いたのは俺だけか…」

 「え?」

 「いや、いいんだ。予定通り、終わったら跡確認して車に引き上げて待っててな。そんだけ。」

 なんだ?あの無線の声、続きがあったのか?聞かなくて良かったってなんだ?

 いろいろと気になったが、それ以上考えたところで無駄だと思い、作業を無事終わらせ、グループの全員と車に戻った。

 車に戻るとNさん達はもう待っていた。

 空気が重い。

 帰りの車中でも誰もかも無言だった。

 土曜の夜だった。

 事務所に戻り、Nさんのグループに何があったか聞いたが何も知らない。と言うことしか分からなかった。

 どうしても腑に落ちない為、Nさん自身にも聞いたのだが、その時は教えてくれないのだ。

 その後、Nさんは鬱病になり、会社を去った。

 辞める直前、Nさんが

 「毎日あの声が聞こえる。お前達もこっちに来い。って俺を呼ぶんだ。」

 ぶつぶつと独り言のように呟いていたのが印象的だった。

 その後、彼は実家に帰った。

 携帯しかしらなかった私は、音信不通になった彼がどうなったかは知らない。

 だが、私の中では

(仲間を一人失った。)

 この思いが消える事は無いだろう。

 あのまま無線を聞いていたら、私がああなっていたかもしれない。

 何故なら…

 「あ゙ぁ゙ァ゙〜ぅうぅ〜」

 この叫びを私自身が毎晩聞くからだ。

怖い話投稿:ホラーテラー 鉄道員さん  

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