麻雀荘で体験した話。
その日は久しぶりに麻雀を打っていた。
卓に入っていたのは、俺と、店のメンバーさんと、麻雀が大好きそうな前歯がないおじさんと、ヒョロリとした男だった。
この日の卓のメンツを見て、俺は、
(今日は勝ったも同然だな…)
と密かに思っていた。
なぜなら、メンバーさんは無茶をしない綺麗な打ち筋だからやりやすいし、ヒョロリとした男は、牌を揃えるのもたどたどしい素人さんみたいだったからだ。
マークするのは、歯のないおじさん一人だけだ。
それも、おじさんは俺の下家だから、俺の方が多少有利だ!
そんな恵まれた状況の中、麻雀をやっていたのだが、
信じられない事が起きた…
ヒョロリとした男が4連勝したのである。
まあ、運で3連勝・4連勝なんて事はよくあることだが、俺はこのヒョロリとした男に何か違和感を感じた。
たどたどしい手付きで牌を扱うのだが、この男…一回も振り込まないのだ…
何かがおかしいと感じた俺は、五回目のハンチャンで男の動きをしっかりと観察することにした。
麻雀中に男の動きをよく見ていると、男は確かにおかしな動作をしていた。
誰かがテンパイ気配の時や、リーチ時に、耳をしきりに触るのだ。
(ハハーン…こいつ何かやってるな…)
そう思ったが、確信がない。
なんの根拠もないのに文句の言いようがない。
とりあえず麻雀を続けていると、俺に最高の山場がきた。
高目倍満のデカイ手だ!
ヒョロリ男を見るとしきりに耳を触っている…
一体なぜ耳を触るんだ…
そんな事を思いながら俺は考えた。
(ここはリーチか!
いや…このスーピンはトイメンのヒョロリ男にあぶないか…どうする…)
歯のないおじさんが、俺をせかす、
「ニーチャン、はよ切れや、朝になってしまうがな!」
うるさいオヤジだ…
俺が迷っていると、どこからか女の声が聞こえた…
まるで頭の中で響くように、その女の声は言った。
「スーピンよ……
スーピン切りで…リーチよ…」
なんだこの声は!
俺は驚いたが、とにかく声の通り、俺はスーピンを切った。
すると、トイメンのヒョロリ男が静かに言った。
「ロン…えーと親ッパネです…」
そしてヒョロリ男は俺に向かって言った。
「このハンチャン終わったら、ちょっと話をしませんか?」
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結局、そのヒョロリ男は5連勝した。
5回目のハンチャンが終わると、俺とヒョロリ男は卓を抜けた。
外に出ると男は言った。
「ちょっと…その辺りで飲みませんか?」
丁寧な言葉使いだ。
俺は丁寧な言葉には丁寧に返す主義だ。
「いいですね。
しかし、あなた麻雀がお強いですね。」
そう言うと、男は苦笑いをした…
二人で近くの居酒屋に入ったのだが、
まあ…男の無口な事。
何も喋らない…
俺は自分から聞いてみた。
「5連勝、すごかったですね。しかし、俺は思ったんですが、あなたの強さには、何か秘密がある気がするんですよね…」
するとヒョロリ男は、苦笑いしながら、やっと口を開いた。
「見れば分かりますよね…僕が麻雀素人だって事は…
僕がですね、勝てる訳は…全て教えてもらってるからなんですよ。僕の肩辺りに、普通の人には見えない女がいて、その女が全て教えてくれるんですよ…
で、その女が言ったんです。
あなたに声をかける事が出来たって…」
にわかに信じられない話を聞いた俺は、驚きを隠せなかった。
女て…女に聞いていたって?
だから、しきりに耳を触って何かを聞いていたのか…
俺言った。
「信じられない話ですが…なぜ女はあなたに憑いたのですか?」
男は口ごもりながら答えた。
「僕の女房なんです…麻雀狂いで、借金作って自殺した…
僕の女房なんです…」
ガハッ…なんてことだ…
自殺した女房とイカサマ麻雀をやっていたのか…
俺はなんだか苛立った。
麻雀で苦しんだ女房にイカサマ麻雀をやらせるとは何事だろう…
供養が先じゃないのか。
俺は男に怒鳴った。
「ふざけるな!
お前に麻雀をやる資格はない!
イカサマ麻雀で稼いだ金を全て店に返せ!
そして、女房をしっかり供養するんだ!」
すると、俺の頭の中で女の怒声が響きわたった。
「テンパってんじゃねえよ!
こっちはピンフに話してるのによ!
お前は英雄気取りの、国士無双のツモりか?笑わせるな!」
キョトンとする俺に、ヒョロリ男が言った。
「女房が怒ってますわ…いえ、あなたの言う事はよく分かります。僕も女房を供養したいんですが…
女房が許してくれないんです…」
そう言うと、男は俺をおいて席をたった。
一人残された俺は呟いた。
(一体どっちが幽霊なんだか…)
と。
怖い話投稿:ホラーテラー ビー玉さん
作者怖話